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【#のりたまδの炉辺話】小さくたって、立派な高級車!(ランチア・イプシロン)

こんにちは。イタリアのド実用エンジン車が欲しい。のりたまδです。今回はお招きいただいた某所での出会い、ランチア・イプシロンです。


名門ランチアが送り出した“小さな高級車”

ランチア・Y(イプシロン)
なかなか優雅じゃないでしょうか。

ランチア・イプシロンは1985年に登場したアウトビアンキ・Y10(伊仏日以外ではランチア・Y10として販売)の後継モデル。ちなみに初代イプシロンの表記は“Y”ですが、2代目以降では“Ypsilon”となっています。

ご先祖にあたるランチア・Y10(写真はターボ)
ブラックアウトされたリアゲートが特徴的。36アルトの「赤にグレーのリアゲート」を初めて見た時、Y10を思い出しました。

同グループ内のフィアット・プントをベースに少し縮めたボディは全長3.72m、全幅1.69mと国産車でいうトヨタ・スターレット、ホンダ・ロゴのサイズ感。エンジンはみんな大好きFIREユニットの1.1L、1.2L 8V、1.2L 16V、1.4L 12Vの4種で、トランスミッションはECVT、5速MT、6速MT(1.2のみ)の3種との組み合わせ。
イプシロンの特徴はなんといってもそのスタイリング。エクステリアデザインは当時ランチアのチェントロスティーレに移籍して間もないエンリコ・フミアが描き上げたもの。アウレリアやアプリリアなどかつてのランチア車の面影を感じるそのデザインスケッチは既存のデザイン案を押しのけてゴーサインが下り、ほぼ変わらないカタチで量産化されました。
一方、インテリアデザインはアメリカ出身のグレッグ・ブリューによるもので、当時はまだ目新しいセンターメーターやドアノブ周りの意匠の奇抜さに気を取られるものの、小物入れのスペースなども確保されており、実用面は確か。

12+100の華麗なバリエーション、“カレイドス”

しかしこのイプシロン、実はそんな特徴的なスタイリングよりもっともっと特徴的なものがあります。
それは「カラーバリエーション」。
まず内装。内装の材質はファブリック、フル革、アルカンターラ、部分革(恐らくアルカンターラとの組み合わせ?)の4種があり、4種合計で10色ほど。そして外装の標準色は12色。
「198 Mazda 2 Collection」という多彩なコーディネートを売りにしたマツダ2が屋根の白黒差分込みでやっと33色、地味にカラフルな設定でお馴染み(?)トヨタ・アクアがツートン込みで17色、ただどちらも色自体は11色なので、一見中の上程度な感じですが、イプシロンが違うのはここから。ランチアはアメリカの塗料メーカー・PPGと、PPGが開発したコンピュータ制御による調色システムを用いることで多彩なカラーバリエーションを実現した“カレイドス”というオプション(当時日本円で7万円ほど)のカラーシステムを設定。その色数はというと……

  • ブルー系25色

  • パープル系16色

  • グリーン系25色

  • ブラウン系15色

  • レッド系19色

合計100色!!緑と青って25色ずつあんねん

絵を描くわけでもないのにフェリシモの500色の色鉛筆に目を輝かせていたあの頃を思い出す広報写真。でもこれで55台。
112台揃ったら一体、どうなっちゃうんだ~~!?

標準の12色と合わせれば全部で112色。

97年のプレスリリースによると「顧客には多くのビジネスマン、経営幹部、専門家が含まれている」イプシロンですが、会社ではそれなりの立場のビジネスマンが店頭でこれ見て「何色にしようかな……」って選ぶところ、ちょっと見てみたいです。デキる仕事人はやっぱり即断即決なんでしょうか。

「このカレイドスの100色から選んで注文すると、イプシロンのフォルムを模った“テッセラ”と呼ばれるレリーフが実際にその色に塗られて2週間以内に手元に届く。もしその色が気に入らなかった場合も、注文から20日以内であれば別の色を選び直すことができ、その色のテッセラも送られてくる」とのこと。なんというか色々(色だけに)日本で200万円台の車がやることとは思えないですね。
色別の生産台数とか気になります。ぼくは緑アルカンターラ内装のクレム・カラメルがほしい。カフェ・ラテでもいい。お待ちしております。(何を?)

じんわりとした、しかし確かな“良いモノ”感

オーナーさんの“普段の足”だというイプシロン。伝統のランチア・ブルーを纏ったそれは、「イプシロンといえばカレイドスの奇抜な外装色」なんて先入観を持ったぼくの第一印象としては「地味だな……」というのが正直なところでした。
しかしまあ悪くはありません(何様?)。むしろ常識的な色であることでかえってこのスタイリングが異彩を放つかもしれません。

一見圧がないというか、惰性で生きてるような表情をしているようにも見えますが、ずっと見ていると気品が漂っている気がします。
しかしかわいらしくてよいですね。
極めて標準的なBセグメント・コンパクトカーのディメンションで、ここまで流麗という言葉が似合うスタイルはなかなか
所謂ヒドゥンタイプのドアノブ。ルノー・ルーテシアやスズキ・スイフトのようなこじつけ感はなく、高さも程よい具合。そもそも4/5ドアの後部だけヒドゥンタイプにするのってデザイン面でも使い勝手の面でも中途半端では

現車は1.4L 12V“スーパーファイア”ユニット搭載のLX。まず同乗からですが、緑が鮮やかなアルカンターラのシートはいつまでも乗っていられる・乗っていたくなる乗り心地。あまりにも極上。あーここで3時間くらいTwitterしてたい。座った感触はどちらかといえばしっかりめでありつつも心地良い柔らかさもあり、不快な硬さとは無縁で、大変美味。ちょい乗りでも十分にいいですが、これで遠出なんかしてみたくなりますね。

メディアで取り上げられて観光客が殺到しすぎたあまりすぐそばに駐車場とか売店が建って観光客向けにめっちゃ整えられてしまい風情がだいぶ失われてしまった池みたいな色の内装。
アルカンターラ特有の見た目からふっかふかそうな椅子はぼくの大好きなイタフラコンパクトではお馴染みのずっと座っていたくなる良い椅子。
“へら”のようなドアノブに卵ポケットのようなP/Wスイッチ。
小物入れあり。
使い勝手はそこそこ良さげなインストルメントパネル。
居住性も荷室も十二分。まあチンクエチェントより50cm長いですしね。

帰ってきてあ~満足満足……と思いながら降りると、「乗ってきてもいいよ」という一声。いくらなんでも初対面といって差し支えない方の所有する車をいきなり運転するのは……運転するのは……するのは……運転……

実走!ファイアとプラトーラ・セッラの違いに気づかないアホ

運転席目線の内装。メーターの両脇にも小物入れスペース。
流石にチンクエチェントや初代パンダのように大きい物は積めなさそう。

キーをひねると、よく聞いた覚えのある音とともによく聞いた覚えのある音のエンジンが始動。Rに入れる際にはシフトレバーを上から押し込むことさえすっかり忘れてしまっていた自分に嫌気が差しつつも、懐かしさを伴って走り出します。
3.7m×1.69mの車体は住宅地でも特段の扱いにくさは感じさせず、1.4Lのエンジンも乗りやすさに変わりはなく。しかし市街地に出た途端、違いがハッキリとし始めます。
速度の乗りがいい。明らかに力強さがある。
チンクエチェントの1.1と比べるとイプシロンの1.4は最大出力が30馬力ほど、最大トルクが3kgmほど高いため、当然といえば当然なのですが、それにしてもよく走る。
イプシロンのギア比はチンクエチェントのそれと比べて3速と4速が高速寄りなので、その辺を使う速度域の巡航ならこちらの方がより快適。とてもよい乗り心地と相まってこりゃどこまでも行けそうだなあと思いつつ、幹線道路に出ていくと、これまた大きな変化が訪れます。
速度はまだまだ乗る。乗り心地も変わらず極楽。ただ、回らない。
非力ながらも踏めばキッチリ6000まで回っていく1.1とは違い、こちらは4000回転に差し掛かるあたりで急にフン詰まるというかツンのめるような感触があります。
元よりFIREはお買い物車のド実用エンジンであり、1.1でさえも4~5速2000回転未満で街中を巡航するような使い方が本分で(あるはず)あり、そういう使い方を想定したエンジンなわけですから、これまた当然といえば当然なのですが、それにしてももどかしい。ガキンチョがはしゃぎながら乗り回すような車とは違うんだということでしょうか。
とはいえ4000も回さずとも街乗りから高速道路までの全域を快適にこなせるので、実用上においてはさしたる問題ではないのですが、趣味車において欠かせない“人の嗜好”はまた別の話なので、この車に何を求めているかをハッキリさせた上でキチンと乗り比べ、よく吟味する必要があるかと思います。
1.2の8Vと16Vには乗ったことがありませんが、ラテンのノリのいいエンジン(ロボットが作ってますけど)ぶん回してシフトレバーをチャカポコ操作して走りたいという方であれば、少なくともこの1.4は選外となるんではないでしょうか。
それはそれとして、ぼくはこのイマイチ回らない1.4がなかなか気に入りました。回す楽しさでは到底1.1とは比べるべくもないエンジンも、あらゆる面でいつでも他人より二歩三歩、あるいは百歩先を行くことを信条としてきた[出典なし]先進・革新的な高級車メーカー・ランチアの造った上質なコンパクトカーにはちょうどよく似合っているように思います。

と、ここまでがPratola SerraをFIREだと思い込んで乗っていた男の感想でした。

最後にという題の9.9割訂正

結論としてこのランチア・イプシロン、ぼくはとても欲しいです。
所謂“モデルノ”で“スポルト”なランチアでしかランチアを知らない身としては、まだ比較的身近に“ランチアの本流”の片鱗を味わえるという意味でイプシロンはかなり希少な存在で、とても魅力的であると感じました。
願わくばいい内外装の1.4Lを1.1LのFIRE積んだ走れるフィアット車と2台持ちしたい限りです。ありがとうございました。ばいばい。

↓以降訂正の欄
しかしなんかおかしいとは思ったんですよね。当時のCGTVでも1.4L 12Vエンジンはスーパーファイアと言われていて、とはいえいくらスーパーでもなんでも1.4になった途端こんな変わるもんなのかと。しかもウィキペディア見たらFIREの1.4って12Vないし、2004年からだし、じゃあこれはなんなんだと。
なんとなく見に行ったイプシロンの英語版のウィキペディアに答えがありました。
1.4だけ全く別のエンジンでした
1.4だけパンダや500のFIREユニットではなく、ランチア・カッパとともにデビューし、リブラやテージス、プントHGTやクーペやバルケッタ、155から4Cまでの近代アルファのほぼ全てに搭載された(ターボディーゼルを含む)4気筒(Family B)・5気筒(Family C)エンジンのモジュラーエンジン“Pratola Serra”ユニット、その中の最小排気量のものが採用されていました。まだまだ知らないことがいっぱいですね。あ、今更なんですけどイプシロンのシフトフィールはチンクエチェントと比べて明らかにハッキリしっかりしたものでとても驚きました。


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