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実はコワイ強風 春一番

― 春の訪れを告げる強い風と備え ―

著・佐々木 恭子(気象予報士、合同会社てんコロ. 代表)

「世界気象カレンダー」は、気象衛星ひまわり8号をはじめとした世界の地球観測衛星からとらえた画像や、宇宙ステーションから撮影した迫力ある画像を掲載し、気象現象や地球環境問題をわかりやすく解説しているのが特徴のカレンダーです。
 現在発売中の2018年版から、3月に掲載の佐々木恭子氏(気象予報士、合同会社てんコロ. 代表)による「実はコワイ強風 春一番 ―春の訪れを告げる強い風と備え―」を全文公開いたします。(編集部)

「春一番が吹く」と聞いたら?

 天気予報で「明日は春一番が吹くでしょう」と聞いたら、キャンディーズの楽曲「春一番」にあるように、雪がとけて土筆(つくし)が顔を出して風が吹いて暖かさを運んでくることを想像し、春の訪れに心躍るかもしれません。しかし、「春一番」は暖かさを運んでくるだけの生ぬるい現象ではありません。昔から漁業関係者の間では船舶の遭難につながる危険な風として警戒されていたほどのとてもコワイ強風なのです。

「春一番」とは

 2月4日頃の立春から3月20日頃の春分までの間、まさに冬から春へと季節が移り変わる時期に初めて吹く、秒速8m以上の南よりの風を「春一番」と言います。衛星画像は、2017年2月17日に関東で春一番が観測された時のもので、この日の天気図(図1)によると、日本の南海上に高気圧が張り出している一方、日本海には低気圧からのびる寒冷前線が横たわり、日本付近の気圧傾度は大きくなっています。

(画像1)ひまわり8号 可視画像 2017年2月17日12時(JST)
[衛星画像を詳しく見る] ひまわり8号リアルタイムWeb(協力:情報通信研究機構)

画像1をみると、寒冷前線に向かって湿った南西の風が吹いて日本列島は一面雲に覆われていますが、関東地方だけはぽっかりと雲がありません。これは南西の湿った風が中部山岳にさえぎられ、風下の関東地方には湿った空気が届かなかったためです。春一番が吹いて気温が上がり、確かに春を告げてはくれましたが、東京では最大風速10.5 m/s、最大瞬間風速19.2m/sを記録し、かなり荒々しいお知らせとなりました。

冬から春への過渡期は

 春一番が吹く時は、このような気圧配置になることがほとんどです。なぜなら、寒候期と暖候期の過渡期は特に中緯度帯で南北に温度差が大きくなり易く、温度差をエネルギー源とする温帯低気圧にとって、日本付近は発達し易い場所になるからです。いわば、春先の日本は温帯低気圧が発達しながら通過する高速道路上に位置しているようなものですね。中でも、低気圧の中心が日本海を進む形になると、日本付近は広い範囲で低気圧に向かって吹く強い南寄りの風に見舞われることになるわけです。春というと穏やかな陽気を想像しがちですが、実は春先は一年で最も風が強く吹きやすい時期でもあるのです(図2)。

 強風が吹く機会は、台風や強い冬型の気圧配置など年間を通して何度もあります。ただ、この時期に吹く南寄りの強風だからこそ、気をつけなければならないことがあります。例えば、酷い土埃(つちぼこり)や砂埃で視界が悪くなることです(画像3:掲載出来ず。カレンダー本文でご覧下さい)。春先はまだ空気も乾燥していますし、畑には何も栽培されていない所が多いため、衛星画像でも映るほどの土埃が舞い上がることがあります。この土埃がひまわりで捉えられていました。画像2でみると、関東地方から鹿島灘に薄い茶色の帯が流れだしているのがそれです。

(画像2)ひまわり8号トゥルーカラー合成画像 2017年2月17日12 時(JST)
[衛星画像を詳しく見る] ひまわり8号リアルタイムWeb(協力:情報通信研究機構)

「強風」への備え

 気象庁のホームページには「風の強さと吹き方」の目安として、秒速10m以上の風について、人への影響や走行中の車に対する影響など具体的にまとめられています(図3)。

(図3)風の強さと吹き方
出典:気象庁ホームページ(画像クリックでリンクします。)

 これによると、平均10m/s で早くも「風に向かって歩きにくく」「傘がさせない」状態になり、しかも瞬間的にはその倍程度の突風が吹いて「やや強い」段階からかなり危険であることが分かります。天気予報で強風が予想されている場合や、強風の注意報が出たら、飛来物に注意するとか車の運転に注意するなどは当然のこととして、壊れた傘をその辺に放置しない、飛びそうな物をベランダから片付けるなど、周りへの影響も考えていかなければならないと思います。

(世界気象カレンダー2018年版 3月より)

【著者プロフィール】

佐々木 恭子

(気象予報士、合同会社てんコロ.代表)

早稲田大学第一文学部卒業後、テレビ番組制作会社に入社。バラエティー番組のディレクターを経て、2007年なぜか気象予報士の資格を取得し民間気象会社へ。
自治体防災向け局地予報、高速道路・国道向け雪氷予測などを担当し「冬の予報士は心をぼこぼこにへこまされる」という天気予報のウラの顔を知ってその魅力にはまる。その他に、現在は「天気ってオモシロイかも!」と思ってもらうことから防災につながるように、
お天気のカルチャースクールや気象予報士スクールの開催、動画配信などの活動を行っている。
小中学生向けの気象関連書籍「天気でわかる四季のくらし」(新日本出版社)執筆
NHK Eテレ「学ぼうBOSAI(雷・竜巻・猛暑編)」出演
YouTube「てんコロ.のラジオっぽいTV!」毎日夜な夜な更新
Team SABOTEN 気象専門STREAM.」平日毎日更新



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「世界気象カレンダー」は、気象衛星ひまわり8号をはじめとした世界の地球観測衛星からとらえた画像や、宇宙ステーションから撮影した迫力ある画像を掲載し、気象現象や地球環境問題を総勢11名の監修執筆陣により、わかりやすく解説しているのが特徴のカレンダーです。

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