『危機の現場に立つ』 中満泉 著

2017年5月に国連にて軍縮担当事務次長・上級代表のポストに就任されている著者の自伝的な本。

大学留学時代から国連・スウェーデンでの国際機関・日本での大学教授、そして国連への再就職とキャリアの変遷を追ってあり、その中での家族のこと子育てのことも著者の目線から語られている。

私がこの本を書こうと思った理由の一つは、飛行機でほんの数時間のところにある、日本の外で起こっていることを若いみなさんに知ってもらいたいからです。そして、一人ひとりの力は小さいかもしれませんが、力を合わせて努力することによって、私たちが世界をよりよいところにすることができるということも、また知ってもらいたいのです。知ってもらいたい、というより、感じてもらいたいと言ったほうが正確かもしれません。そしてこれは、みなさんと同じ年ごろの、私の二人の娘たちへのメッセージでもあります。

と記載あるように、中高生くらいを対象としているようですが、キャリアに悩むアラサーの私にも響いてくる内容でした。(中高生対象だからかすべての漢字にルビが振ってあり、少し読みにくかったのだけが残念。Kindle本でルビを削除する機能があればよいのに)

印象に残った点をいくつか。

女性は世の中を変えるために仕事をしなくちゃいけないのよ。

著者が学部でのアメリカ留学時代にインターンをしていた際に、インターン先の議員からかけてもらった言葉だそう。男性・女性といつも分けて考える必要はないけれど、でも仕事をする意義としては素敵なセリフだなーと心に残ったし、そう思って私自身も仕事をしたいなー。

(当時の緒方難民口頭弁務官との初対面にあたり)笑い話のようですが、実は、私は日本を遠く離れて自由な生活を楽しんでおり、ちょうどそのころ、長く伸ばした髪の毛を金髪に染めていたのです。今はそうでもありませんが、当時の日本では考えられないことでした。初めてお目にかかる日本人の高等弁務官に、日本人の私が金髪で会うことはできない、との私の説明にダンは大笑いし、すぐに黒髪に染めなおしに美容院にいくことを許してくれました。

お茶目なエピソードすぎて笑ってしまいました。こういう些細な事ってきっといつまで経っても忘れられないんでしょうね。なんというか、国連とか国際協力とかの世界で働く人ってすごく崇高なイメージを持たれがちだけど、こんなお茶目な話を挟んであって親近感がぐっと沸きました。

モラル・コンパス

難民や紛争と向き合う仕事では常に「モラル・コンパス」を心がけているとのこと。難しい判断をする事になった場合、何を軸にするのか。その信念があれば道を外れることはないとの指針のことなんだと思います。本を通じて、中満さんの信念がいたるところで垣間観れたのも刺激的でした。例えば、クルド難民を支援する際に、リエゾン・オフィサー(連絡調整官)として国連と多国籍軍を調整する仕事に任命された時、仕事のポリシーとして下記のようなことを考えていたとのこと。

わからないことは、わからない、とすぐに正直に言うこと
私たち文民の国連人道支援機関には私たちの考え方や仕事のやり方があるということを、臆せずにはっきりと言うこと。その上で、なるべく歩み寄る方策を考えること
多国籍軍なので、アメリカ軍だけでなく、他の国の軍隊とも関係を構築し、よい協力関係ができるように、いろいろな集まりに顔を出して、彼らと仲よくなること。他方、「多勢に無勢」、私はたった一人ですから、取り込まれてしまわないように注意すること。

簡単なようでいてどれも実践するのが難しいことのように思います。でも、1991年の仕事について今でも覚えてらっしゃるということは、何度も考え、自らに律しながら仕事をされたんだろうなーと想像できて、しかもこの時の年齢が今の私よりも若いのではと思い至り、本当に尊敬でした。

そのほか、スウェーデン・日本での子育ての様子が詳細に書かれていたのもよかった。保育園も認可保育園には入れなくて認証保育園だったとか、目の前でバスの扉を閉められたとか、こんなえらい人でも苦労しながら、でもいろいろと乗り越えてきてるんだと勝手に共感。そして、家族一体となってキャリアと家庭生活を一致させながら進めていっているのはさすが、の一言。私の夫は国際協力や国を変えながら生きていく世界の人ではないけれど、でもきっと二人で同じ方向を見て歩いていけるはず、とエールももらった気がします。そのためにも自分のスキルも磨き続けなければいけないけれどね。


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