見出し画像

〜記憶に残り続けるデザインを〜

NTSジャーナルのサムネイルとポートレイト

 
 多摩美術大学からCG(コンピュータ・グラフィックス)制作の道に進んだ天野寿美(あまのとしみ)さんは、ゲーム会社でキャラクターの仕事を続けながら、どこか満たされない思いがあったそうです。大学の恩師である山形季央先生(やまがたとしお:元資生堂宣伝制作室長・部長。元多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授)に再び出会い、NTSでデザイナーとしての仕事を始めました。すでにイラストレーターとしても作品を作り続けている、パラレルワーカーとしてNTSに勤める新メンバーです。

イラストレーターとしての作品

 今回、NTS書籍の完成と山形先生の改訂版を制作するに当たり、かつての指導教授とその師弟が揃うタイミングでインタビューを行いました。
 
山形先生:天野さん、最近はどんな作品を手掛けているのですか? ぜひ見たいですね。
 
天野:『味以外のおいしさの科学』、『おいしさの見える化マニュアル』というハードカバーの表紙を担当させていただきました。ご批評をいただければ嬉しいです。それと、先生にご紹介をいただきNTSで仕事を始めましたが、書籍のパンフレット、NTSジャーナルのロゴデザイン、現在進行中のサイエンスファンタジー小説の挿絵なども手掛けさせていただいています。
 

担当した書籍表紙デザイン一部


山形先生:とても良い出来栄えだとおもいますよ。イラストとタイトル、文字の処理も見事ですね。そもそも天野さんは同期の学生の中で、もっとも優れた卒業作品を作られたと先生方の中でも評判でした。良い仕事をされていますね。
 
天野:山形先生が大学でもいつも褒めてくださり、その影響で私は仕事にも自信を持つことができました。今回の書籍はおいしさの科学的なアプローチということで、デザインやイラストより、説明の言葉を中心に本の特徴を差別化するのに苦労しました。恩師の先生に作品を認めていただき、本当に嬉しいです。
 
山形先生:あなたはイラストがやりたかったのですよね。差別化を志向すると、得てしてやりすぎてしまって、悪目立ちや貧相というか、チープになってしまうものです。伝えることの本質を理解して、観た人に何をメッセージとするかを考えることも大事ですよ。
 
天野:私も伝えるべきことをとことん考えて、いろいろな技術を使おうとしていますが、まだまだ途上にあって、しかも飽きっぽい性格のために、自分の軸というか、主張をはっきり持てずに苦労しています。このNTSという会社では、科学技術の書籍が多いので、デザインも言葉による説明を重視するので、その印象をしっかり伝えることが大切だと思うのですが、文字やその配置、空間や書体などでとても苦労しています。どうすれば良い作品になるでしょうか?
 
山形先生:そうですね、言葉や文字にこだわりすぎると、説明が長くなり、逆に印象が薄れてしまうものです。タイトルや説明を記号として伝えるように、まとまりを意識すると良いのではないでしょうか。言葉でデザインを伝えていて見事な作品に、花森安治の『暮しの手帖』があるけれど、参考にしましたか? 花森は雑誌の編集として「嘘を嫌い、真実を読者に」という思いから、雑誌でありながら広告を一切排除して、手書きの文字を多用していました。手書きだからこそそこには嘘はなく、個性と真実があると信じていたからです。彼のように、「自分はなぜ雑誌を作りたいのか、何を伝えたいのか」そこに徹底してこだわり、考え抜いたからこそ、人の記憶に残る雑誌ができたといえませんか
 天野さんも、ご自身の作品が見た人の心に届く、記憶に残るような筋の通った作品づくりを心がけてください。
 
天野:先生のおっしゃることの意味は、デザイナーとしての一番根源にあるレイヤー(基準、原点)を確立させなさいということなのですね。とても貴重なご示唆だと思います。これからのいろいろなジャンルで沢山の仕事をさせていただき、自分の可能性や読者や手に取る人の心に残る作品を作り続けたいと思います。
 

 大学で学ぶことの大切さはわかっていても、それを仕事に生かされるかどうかは別物です。むしろ、学校で学んだことは仕事には通じていないと答える人も多いのではないでしょうか。山形先生とルーキー天野さんの対話には、学びを通じて仕事につなぎ、さらに作品を人の記憶に残るまで昇華させたいという思いがありました。今日はちょうど七夕、二人が久しぶりに出会えた、素敵な師弟関係を覗かせていただけたインタビューでした。

<2023/07/07>