見出し画像

時間がねぇ

この記事はトロオドン怪文書アドベントカレンダー Advent Calendar 2023の12/18分に寄稿したものです。
このお話はフィクションです。

トロオドン怪文書アドベントカレンダー Advent Calendar 2023 - ( https://adventar.org/calendars/9036?s=09 )

はじめに

現在2023/12/18 23:00です。今カレンダーの12/18の枠を取ったのは同日0:06。タイムアタックだバカヤロー。

フィクションスタート

『10年に1度の大寒波が来ます』

大寒波と聞いて、ちょうど10年前のことを思い出していた。今年はどうも冬が荒れるらしい。

大雪ともなると毎朝の除雪が億劫で、明朝5時には雪かきを始めないと車も出せやしない。だから冬の、特に雪が多い冬って季節が嫌いだ。雪かきが大変でよ。

翌朝、ドサッと大きい音が鳴ったもんだから目が覚めた。おいおい嘘だろ。一晩で降りすぎだ。時計は6時を指していた。まぁまだ間に合うか。

雪かきってのははじめは良いんだけど、じきに暑くなってきていけない。ジャンパーなんて羽織ってたのがいつの間にかロンT1枚で、それでいて汗ばんでる。暑いんだもん仕方がない。

せっせと雪かきをしたおかげで仕事にも行けるってもんで、今日の予定は、うわ、嫌だね、山の方だ。遠いだけならまだマシってもんだがこの時期だから雪にハマっちまうんだよな。スコップも積んでいくか。

雪国の道路は除雪が行き届いていて案外走りやすい。毎年ドカッと降る町ほど除雪が上手い。流石だね、ここの道路もまだまだ黒い。これが白くなってガタガタしてるようじゃ走れたもんじゃない。下手なところは白線まで剥いじまって毎年ライン引きの工事をしてる。

しかしまぁ道が綺麗なのも麓まで。少しずつ灰色から茶色くなって白くなる。こんなとこに住んでるお客さんも珍しいんだがね、今日はその珍しいお客さんのとこへ行かなきゃいけないんだなぁ。

「こんにちはー。毎度どうも。」

出てきた爺さんもこっちが何言ってるかわかってんのかわかってねぇのかわかんねぇ。でもまぁそういう仕事だから淡々とこなしてりゃいい。こんな山奥くんだりまで来て、やることはせいぜい1時間で終わっちまう。

「いやぁ、悪かったね、雪で大変だったろ。」

「いえいえ。麓までは除雪もしっかりされててむしろ走りやすかったくらいです。流石ですね。」

テメェが褒められたわけでもないのに鼻高々にしてやがる。

「今年は雪が多いみたいだから気をつけなよ。」

「あぁ、そうですね。10年前に1回やっちゃったんでトラウマですよ。」

「見えづらいからねぇアレは。もう1杯お茶どうだい。」

「来る時もコーヒー飲んできちゃって。お腹チャポチャポなんで遠慮しときます。」

爺さんの言うとおり。アレは見えづらいんだ。目を凝らしてても雪の中だから擬態して見えたもんじゃない。大体そんなところに埋まってるのがおかしいってんだよな。

最近、こういう山の方に来るときは昼飯を山で食べている。バーナーとポットでお湯を沸かして、注いで3分であったかいメシが食える。近頃はカレーも食えるってんで探してみたらハヤシライスもあった。これが美味い。

メシを食ったら一服。インスタントのコーヒーでもこういう飲み方をすると格別だ。お供のタバコに火をつけて、ふーっと吹いた煙はじんわり青く見える。自分の息が白くなるのと、タバコの煙じゃあ光の加減で色が若干違うんだな。

ボケーッと山を眺めてたら20mほど先に生えてる木の根本。妙にこんもりしてる。たぶんアレだ。10年ぶり。前回は車で轢いちまったもんだから息もしてなかったが、今回はスコップも持ってらぁ。いっちょ掘り出してみっかな。

サラッと表面の雪を払うと、どうだ見たことか、やっぱりそうだ。こりゃあベースボールキャップだ。白いから雪に紛れて見えねぇんだ。傷をつけねぇように慎重にスコップで掘り進めていく。口元まで掘り出したところで声を上げた。

「ちょっと早いんちゃう?昨日の今日やで?髭切んなよ。」

気にせず掘り進める。黄色いトレーナーは土で汚れて少し茶色くなっている。その間にも、昨日気温が下がり始めてすぐ雪がこんなに降るのはおかしいという謎の講義を繰り返している。

なんとか掘り終えた。こんな状態がいいのは初めてだった。記念に1枚パシャリ。

「なんしとんねんボケェェ!誰が撮ってええちゅうてんコラァ!」

おぉ、これだこれ。この地域の特産物、トロオドン。昔は雪男なんて呼ばれていたらしい。大雪の日に雪の下の地面から生えてくる。声を発しているがこれは植物だそうだ。昔の人は本当に人だと思ってよく拾ってペットにしていたそうなのだが、夏になると『夏は陽キャが多いから嫌い』という言葉を残して死んでいってしまう。大人は子供が雪男を拾ってくるのを止めていたとか。ちなみに当時は拾った雪男に相撲をさせるのが流行っていたそうだ。

時代の進歩でこれが植物だということが解明された。ヤマノイモ科の越年生植物だ。「声以外は全て食べられる」と言われるほど美味しい。特に指が格別だそうだ。

トロオドンの調理は少々厄介。植物なので抵抗まではしないのだが、切っていると文句を言ってくる。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!痛いっちゅうねん!!!」

「ほんま痛いって。やめて、ほんまに痛いって。」

「痛いねんて……ほんまに痛いねんて………。」

終盤になると勢いが沈んでくる。トロオドンを知らない料理人がこれを調理してノイローゼになったこともあるとかないとか。ヴィーガンに聞かせたいね。実は簡単な対処法がある。首のようなクビレた部分と、おでこのように張り出た部分を最初に切り落とすと声を出さなくなる。

さて、どうやって食おうか。なんて考えて車の方を向いたら、おい、勘弁してくれよ、車が雪で埋もれてんじゃねぇか。この時期は嫌いだね、雪かきが大変でよ。

おわり

えー、23:48!!!!!

よっしゃー!!!!!間に合ったーーーー!!!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?