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「死女の唄」 各曲テキスト紹介

歌というものは大抵詩のなかに物語が込められていると考えることができる。あるいは、バックボーンとなる物語の中でもっとも美しい瞬間を抽出したものが歌とも言える。それは例えばギリシャ神話などかもしれないし、オペラの中のアリアかもしれない。宗教的賛歌かもしれないし政治的な吐露かもしれない。あるいはアイドルソングのようにストーリーがお客と共に動いていくか、あるいはエディット・ピアフの愛の讃歌に込められた愛人への別離の想いのように歌手個人のプライヴェートが込められているものかもしれない。

連作歌曲「死女の唄」もまたそうしたバックボーンから抽出したエッセンス集であり、いずれも執着的な愛をテーマに抜き出している。その執着は作品の壁の向こうにいる観客、すなわちあなたへの愛であり、それは時に恐ろしく、時に寂しく、ある時は対等に、ある時は神に語りかけるように歌われる。

第1曲「胎児よ」 - 夢野久作「ドグラ・マグラ」

胎児よ
胎児よ
なぜ踊る
⺟親の⼼が分かって
恐ろしいのか

ドグラ・マグラ」は日本探偵小説三大奇書ということで有名な作品であり、解釈が極めて困難なミステリー小説で「読んだ人間は発狂する」と恐れられていた。その理由の一つに、例えば主人公が作中で「ドグラ・マグラ」を見つけるなどのメタ・フィクション(注:超虚構。作品自らを批評する作品のことを言う。例として、ギャグ漫画の「漫画だからあっという間にできるんだ」と己を虚構と自己紹介する節回など。)の手法が使われており作品の実像を捉えることが困難だからである。

「胎児よ」はこの作品の巻頭歌であり、オペラで言えば序曲のような立ち位置に相当する詩だが、すでにこの詩が「メタ」を象徴している。なぜならば人間と同じ意識があるのかどうかもわからない胎児が、母親の心を理解していると書かれているからだ。生まれるものが自らを生む母胎を対等に理解する構造は、まるで作品の登場人物が作品であると気づくような逆転の構造が感じ取れる。

「死女の唄」において第一曲のこの詩は、この作品全体のメタ的な構造を示唆する序曲として、一つのミクロコスモス・小宇宙をシンプルな対位法を用いて表現する。

第2曲「お兄さま、お兄さま」 - 夢野久作「ドグラ・マグラ」

……お兄さま。お兄さま。
お兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さま。
……モウ⼀度……今のお声を……聞かしてエーッ…………

このテキストもまた「ドグラ・マグラ」の始めの方に登場する。精神病棟で突如目覚めた主人公のいる部屋の隣の壁から聞こえてくる女の微かな叫びである。その女は主人公の従姉妹を名乗り、なおかつ主人公の結婚相手であったとも語り、そしてその「お兄さま」である主人公に殺されて蘇ったのだと涙を流しながら語る。
「ドグラ・マグラ」の主人公は終始読み手と同調するような形で全てが混乱したまま話が進むため、読者自身があたかも主人公であるような錯誤を起こすことがあるわけだが(参考 Togetter)、「死女の唄」においてもこの構造は踏襲され、歌の「お兄さま」は観客である観客・あなたのことを歌うものとなる。あなたがたとえ女性でありお兄さまでなかろうが性別をもたぬ"音"にとってはそのような分類など知ったことではない。音楽はあなたを求めているのだ。永遠に。

3:「百年待っていて下さい」
-  夏⽬漱⽯「夢⼗夜」の「第⼀夜」

死んだら、埋めて下さい。
⼤きな真珠⾙で⽳を掘って。

夏目漱石の「夢十夜」は、それこそ睡眠時に見る夢のようにとりとめもない、しかし妙に印象に残る幻想が十篇描かれている小説集である。第一夜は死にかけの女が遺言を語りかける夢であり、「死女の唄」においてはその女のテキストのみが抽出されている。おそらくこの作品においてもっとも穏やかなテキストであろう。

4:「恨みわび」- 百⼈⼀⾸ より6選

うらみわび ほさぬそでだに あるものを
こひにくちなむ なこそをしけれ

恨みに恨み、この涙で乾かぬ袖が朽ちるのも惜しいのに、
その上この恋のために私の名も朽ちるのが惜しい。【相模】

百人一首は百人の歌人の和歌を一人一首で選び出した秀歌撰であり、中でも藤原定家の「小倉百人一首」が最も有名でありこちらが今でもかるたなどで親しまれている。多くは恋歌であったり季節を歌うものであったりの内容を持つ。
「死女の唄」においては女流の恋歌、それも恨みを含んだ熱烈な恋歌を選出しており、この曲自体がひとつの曲集のような集合体をなしている。

5:わが⼼の楽しさを思ひ⽟へ - 森鴎外「舞姫」より

わが⼼の楽しさを思ひ⽟へ。
産れん⼦は君に似て黒き瞳⼦(ひとみ)をや持ちたらん。

「舞姫」は森鴎外の代表作であり留学中に執筆された作品であり、彼自身および彼の友人の生涯が投影されている。テキストは主人公の太田豊太郎と恋仲になる留学先の少女エリスのセリフで、その言葉は一見して幸せな家族計画を夢見る少女のようであるが、本心としては、彼が帰国しこのドイツを去ってしまうかもしれない恐怖から引き止める形で訴えてもいる。
「死女の唄」においては母になることを夢見る様が1曲めと共鳴する。

6:わたしを覚えて

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