風に恋う β版|第1章|12

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「瑛太郎先生もさあ、昔みたいにガツンとビシッとやってくれればいいんだよな」

 朝練のことを堂林は昼休みまで引き摺っていた。弁当を広げる基の前の席に座って、コンビニのメンチカツサンドをかじりながら、同じことばかりを繰り返す。

「正直、それを期待してたのに」
「さすがにコーチになったばかりだから、いきなりそうするわけにもいかないんじゃないかな……」

 自分の言葉尻がどんどん弱々しくなっていくのは、堂林と同じことを思っているからだろう。瑛太郎がコーチに就任し、一体どんな指導をされるのか、恐れおののきながらも楽しみにしていた。

 しかし五月に入っても瑛太郎は「今まで通り練習して」と指示を出すだけで、合奏では今年のコンクールの課題曲をひたすら攫っている。あまりにも普通だった。肩すかしを食らった気分だ。

 裏を返すと、自分達がそれ以上のものに値しないということなのかもしれない。

 基が弁当箱を空にして、堂林がコンビニで買ったパンを食べ終えた頃、クラスメイトの一人が駆け寄ってきて基と堂林を呼んだ。

「なんか、先生みたいな人が呼んでるけど」

 教室の出入り口を確認するより早く、二人は立ち上がった。廊下に飛び出すと、瑛太郎が驚いた様子で「昼飯食ったか……?」と聞いてくる。大きな返事と共に基と堂林が首を縦に振ると、表情を和らげた瑛太郎は基達を特別棟の四階へと連れて行った。

 普段練習をしている第一音楽室ではなく、その隣の音楽準備室に。


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『風に恋う』β版|額賀澪|試し読み

7/13刊行の音楽×青春小説『風に恋う』(文藝春秋)の校了前の文章(β版)です。ほとんど初稿の状態です。なので、誤字脱字など、未校正の部分がありますことをご了承ください。(『拝啓、本が売れません』(KKベストセラーズ)に先行掲載したものとほぼ同じ内容です)イラスト:hiko
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