風に恋う|第1章|10

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「いくらなんでも酷すぎるだろ、あの朝練」

 弁当を広げる基の前の席に座って、コンビニのメンチカツサンドを囓りながら、堂林は同じことばかりを繰り返していた。

「瑛太郎先生も、昔みたいにガツンとビシッとやればいいんだよ。正直、それを期待してたのにさ」

 不破先生ではなく瑛太郎先生という呼び方を広めたのは、三好先生だ。

「コーチになったばかりだから、いきなりってわけにもいかないんじゃないかな……」

 自分の言葉尻がどんどん弱々しくなっていくのは、堂林と同じことを思っているからだろう。

 瑛太郎がコーチに就任し、一体どんな指導をされるのか、恐れおののきながらも楽しみにしていた。しかし五月に入っても瑛太郎は「今まで通り練習して」と指示を出すだけで、合奏では今年のコンクールの課題曲をひたすらさらっている。あまりにも普通だった。

 基が弁当箱を空にして、堂林がコンビニで買ったパンを食べ終えた頃、クラスメイトの一人が駆け寄ってきて基と堂林を呼んだ。

「なんか、先生みたいな人が呼んでるけど」

 教室の出入り口を確認するより早く、二人は立ち上がって教室を飛び出した。




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