数字よりも、生き方として——内沼晋太郎×堀部篤史×中村勇亮(1)

Talk 本屋として生きるということ(1)

 香川・高松で「本屋ルヌガンガ」を営んでいる中村勇亮氏。ぼくが開講している「これからの本屋講座」の卒業生でもある。受講した後、継続的に開店までのサポートをしてほしいということで、協力することにした。

 中村氏は当時、まだ名古屋で商社に勤めていたが、ご本人も夫人も本が好きで、過去に書店に勤めた経験もあった。また、中村氏の実家である高松に、所有されている店舗物件があったことも好条件だった。そこに夫人と二人で、小さい本屋を開くことにした。

 サポートの一環として、運営モデルや規模などの面で最も参考になりそうな、誠光社の堀部篤史氏にお話を伺いにいくことにした。この鼎談はそのときの記録である。

 この後、中村氏は無事「本屋ルヌガンガ」をオープンし、現在も高松で営業を続けている。

事業計画書

中村 さっそく、事業計画書を見ていただけますか。前半部分は今、街の本屋のビジネスモデルが難しい中で、本に出会う機会が減っていることに対して、自分が取り組んでいきたいことを書きました。
 後半のビジネスモデルの部分には、ドリンクやイベントを組み合わせて、本の利益率の低さをカバーしたいと考えていることを書きました。また、本は直取引で仕入れて少しでも利益率を上げることで、営業は家族だけでやっていきたいです。サイズ感は、六〇〇〇冊ぐらいでセレクトして、ここでしか買えない本も入れていきたい、ということが書いてあります。
 立地は高松の中心部から少し離れた路地の中で、二五坪ぐらいの物件です。もともとはCD・レコード屋さんが入っていたんですが、一〇年ぐらい前に撤退して、そのあとは何も入っていません。街の中心部には本屋さんはいくつかありますが、そういった本屋さんとは違うかたちを目指しています。

内沼 近くに「ソレイユ」というミニシアター系の映画館があります。お店は一本細い路地に入ったところで、その道にはあまり何もないんですが、人通りのある商店街と並行していて、アクセスは悪くないです。

中村 その他にも、読書会に力を入れてやっていきたいということ、多少は、観光で来る方もターゲットにしたいということを書きました。イベントもやっていこうと思っています。あとはアイデアレベルですが、店舗を核として、近くの美容室や喫茶店に外商をしていきたいです。予算として最大で一五〇〇万円は使えます。内外装でかなりかかるとは思いますが。

堀部 大手取次との契約は考えていらっしゃらないのですね。

中村 そうですね。あと、事業の見通しですが、月に一五〇万円を売り上げればやっていけるかなと思っています。売上の構成比は書籍が六割、イベント・ドリンク・雑貨で残りを少しずつ補うかたちで考えています。

堀部 家賃がいらないんですね。借金は、見込みの利益から返済する予定ですか?

中村 今のところは、借金はしない予定です。自己資金で一五〇〇万円あります。

堀部 すごいですね。家賃がいらなくて一五〇〇万円あるなら、リスクは低いと感じます。初期費用はあと少し抑えられそうですね。誠光社も一五〇〇万円はかからなかったので。

内沼 なるべく最初の運転資金に残しておいたほうが良いというのはありますね。

中村 あと、クラウドファンディングでお金を集めることも検討しています。

堀部 これだけちゃんと考えられているので、自分のやり方でされるという意味では新鮮だし楽しみです。僕のときはこんな資料は作っていないので。

誠光社を続けて感じたこと

内沼 堀部さんのところに、お店の開業の相談はあるんですか?

堀部 ここまでちゃんとしているのはないですね。僕もこういう事業計画を見て答えられる頭の構造をしていないんです。もちろん数字にしたら説得力もあるし納得できるんだけど。
 僕の場合は、誠光社を一年やってきて、一日の売上平均は七万円です。店舗の売上に、通販やイベントや外商などを合わせれば、三〇〇万円弱。利益率三割として、月の粗利が九〇万。それで家賃一五万円を払って、人件費はほぼ発生しないので、公庫の返済や経費にあてています。これぐらいの感じではやっていけています。でも、店舗の売上はギリギリそれぐらいですね。今の店の坪数(一八坪)だと、一日七万円を保つのも結構大変です。それも、わりと観光客の方も来て下さった上での話ですからね。
 でも、今の店を始めてみて「お客さんが多い」というのは、売上にあんまり関係ないと感じています。買わない人も多いし、買う人はまとめて買って下さいます。それでも、人がたくさん来る京都の立地というアドバンテージはあると思います。
 なので、中村さんのプランにある店舗だけの売上で月一五〇万円というのは、坪数や商品点数を考えると難しいかなと思います。一番簡単なのは、坪数を大きくして商品点数も多くすることです。それで相対的に売上は上がっていくんですよ。普通は広いほど家賃も高いし人件費もかかるんですけど、地の利を活かして家賃が無くて人件費もこの状態が実現可能なら、在庫を多くしていけば見込みに近づいていくと思います。
 実際に僕がやってみて思うのは、数字というよりも価値観というか生き方の問題ですね。例えば「いい車を買って家も買いたい」と思われているなら、結構きついと思います。でも、僕はもともと「ビジネス」の考え方でやってないんです。生き方として自分の好きなもの、本を扱ったりとか、知り合いの作るものを紹介できたりとか、自分の研究していることを発表できたりとか、それらをするために商売を組み立てているんですね。まず数字がありきではないので、僕は現状で十分だと思っています。結果として手許に残る金額自体は同じでも、考え方次第で全然違うんですよね。
 でも、京都と同じで高松はやりやすいと思いますよ。東京だとコストも高いし、同じ場所に違う階層の人が多く住んでいるから、細分化された店が多くあるでしょう。地方だとそういうのに惑わされにくいです。個人的に生活上、一番大事なのは人付き合いです。近しい仕事をする仲間と同じレベルで同じ店で飲めて、ちょっと遊びに行きたいときに気遣いせずに同じぐらいの経済感を持った人と付き合える。これが一番ストレスは少ないんですよね。

数字よりも、生き方としてお店を始める

堀部 なので、数字の目標というよりも、どういう生き方をするか。数字は結果にすぎないんです。ビジネスとしてはこういう資料を作るのが当然ですが、僕は作りませんでした。この数字の通りにならなくても我慢できるか、どれぐらい続けられるか、やっている状態にストレスがないか、ということを重視しています。
  僕なら店を始める際、収益計算の前にソフト面の話をします。それは、価値観としてどんな感じのお店にしたいのか、品揃えはどうしたいかということです。結局一年やって、僕、ほとんどお金貯まってないんです。出版社としても本を五冊出しているんですが、お金ぎりぎりまでアイデアが出てきて、やりたくてやっちゃうんですよね。
  でも、それで満足というか、それが財産になっています。確かに、出した本がある程度売れると収入になるんだけど、それは次に何かやるときの余裕として、もっと工夫して面白いことをやりたい、と考える。だからお金は貯まらないんだけど、そのことが結果的に人を呼び込むことになったりするんです。
  中村さんのプランが間違っているというわけじゃなくて、僕の場合はお店の中身を発信していって、イベントもやって本も作って最終的にこの数字になったということです。なので、中身ありきというか、スピリットありきなんです。精神論に近いんですけど、本屋の仕事は、これからはビジネスモデルありきで始めるのではなくて、そういう生き方がしたい、そういうものが好きだからやる、という人でないとお勧めはしません。
  最近の若い人にも古本屋になりたい、古本屋という商売にあこがれていて、これからいろいろ勉強してから店をやります、という人が僕のところにも来ますけど、そういう人はあまりやらないほうがいいと思います。売るほどの蔵書を持っているのか、それのどこが好きなのか、どういう本を持っているのかとか、そういうことを聞く。これから勉強してもだめで、いまそういうものがなければ、いくらいい条件で、お金があるとしても、やらないほうがいいと思うんです。
  イベントをやる時も、古本屋の在庫の話と一緒で、自分にストックとか蓄積とか人脈がなければイベントもできないですよね。B&Bさんは東京という地の利があるので、交通費もなくゲストを呼べますけど、京都や高松でやるということになると、まずは自分のコネクションを使うことになる。イベントは本の仕入のようにはいかなくて、関係性のないままゲストとしてお招きすることになると、ビジネスであり、利害関係になってしまう。でも、お互いに知り合いで、中身の部分でつながっていれば、結果がどうであれ、しんどくないんですよ。そのほうがなぜこの店でこのイベントをやるかという説明もしやすいし、向こうもこの店でやるということに意味を見出してくれる。
 なので、僕のやり方はどこまでいっても、先に中身がありきなんです。中村さんは本屋に勤められていたキャリアはあるんですか?

中村 三年ぐらい名古屋にある郊外型の大型書店で、店のマネジメントをしていました。でも、マネジメント中心でしたので、棚作りの経験は乏しいです。

堀部 数字の世界でうまくいっていても、コンセプトが機能しないことは結構あると思うんです。信頼もそう。「この人、無名だけど、面白いからうちでもやろう」っていう情緒面でつながるとか、そういうことが遠回りでお店のブランドになったりする。
  イベントに関しても、うちはそんなに儲けるつもりはなくて、本屋の広告のつもりでやっています。夫婦二人で打ち上げに行ったりしたら利益はほぼない。でも、作家さんとかと仲良くなれるし、次はこれを企画しましょうとか、そういう風につながっていくし、やっていると発信ができる。
 数字のなかにある、意味の世界がうまくいっていることが大事なんです。美意識というか価値観というか、数字で組み立てられないところが結構あるんですよね。

時間の積み重ねが、お店の財産になっていく

内沼 中村さんのスピリットの部分を何かしら見せられるといいですね。

中村 妻の趣味もありますが、普通の文系で、小説が好きで映画が好きで……。音楽はシンガーソングライターのものが好きで、例えばレナード・コーエンとか。映画もいろいろ好きですが、特にクラシカル・ハリウッド・シネマと言われるものが好きです。

堀部 まだ映画をスタジオで撮っていたころのものですよね。

中村 そうです。幸福感にあふれている感じが好きですね。映画や音楽もそうですが、批評も好きで、例えば永江朗さんの『批評の事情』という本がありますが、そこに載っているような評論家たちの本が好きです。
  あと、小説は広く読みますが、一番よく読むのはイギリス文学です。器や家具、陶芸なども好きなので、そういうテイストも出していけたらと思っています。こういったものを組み合わせた感じの店をやりたい。暮らし系というか、ほっこりした部分もありつつ、それだけじゃないんだぞ、という無骨さも持ち合わせた店にしていきたいです。

堀部 趣味がいいというか、バランスが取れていて、高松でもこういうものを求める向きはあると思います。ただ、やっぱり本以外で置こうとされているものも、セレクトが大事じゃないですか。本とそれらをどう組み合わせるかでしょうね。
  セレクトは飽和状態というか、セレクトで何かを見せていくというのはだいたいどこもやっているんですよね。なんとなくヒエラルキーみたいなのができてきて、「これはいいもの」という共通項ができてくると途端につまらなくなるんです。中村さんが先ほど挙げられたものは申し分ないと思いつつも、それは資本があってプロデューサーがついたりすれば、中村さんでなくても出来てしまうかもしれない。
  なので、そういった洗練されたものよりも、これまでの中村さんの積み重ねてきたものとか、高松に住んできた土地の縁とかが、そこにしかない面白い店になった結果、わざわざ人の足を向かわせるようになるのかなと思います。やっぱり時間を積み重ねたものが見たいですね。

中村 実家は香川なんですが、大学からずっと出てしまっているので、今のところ香川には人脈もほとんどなくて。もちろん棚を作る能力もほぼゼロのところから始めなければいけないので……。

堀部 でもそれだったら、これからやるお店を続けていって、それをキャリアとしていけばいいじゃないですか。作った時点で完成と思わないことが一番大事ですよ。すぐに結果を求めるのではなくて、全然反応がなくても続けられるようなモチベーションとか、努力するのが楽しいとか、好きなものがどんどん更新されていくとか、そういったことが一番だと思うんですよね。
  長く続けて、自分ならではの時間の積み重ねが、お店の中身になっていくと絶対に面白い。いきなり最初から面白い店って、だいたい店主が変わった趣味をしているとか、色んなことが好きな人がやっている場合です。中村さんの場合は割とフラットな感じだと思うので、何が何でも続けるということで、それが生業になるのではないでしょうか。


中村勇亮(なかむら・ゆうすけ)
一九八二年生まれ。信州大学人文学部卒業。新刊書店で三年勤務した後、商社に勤務。退職後の二〇一七年八月、香川県高松市に本屋ルヌガンガをオープン。

堀部篤史(ほりべ・あつし)
一九七一年生まれ。立命館大学文学部卒業。学生時代より編集執筆、イベント運営に携わりながら恵文社一乗寺店に勤務。二〇〇四年、店長就任。商品構成からイベント企画、店舗運営までを手がける。退職後の二〇一五年一一月、京都・河原町丸太町に誠光社をオープン。

※『これからの本屋読本』P229-P237より転載


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内沼晋太郎

ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。

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