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本屋として生きる

第8章 本屋を本業から切り離す(6)

 自由度の高い仕事をしている人や、不労所得があるような人を除いて、大半の人が生計を立てるための本業に、それなりの時間、身体を拘束される。それが平日の日中であるならば、「本屋」としての活動につかえる時間は自ずと、平日の夜と土日だけになる。

 前述の小山氏や松井氏の生活は、ほぼ休みもなく、多くの読者は大変だと思われるかもしれない。けれど本人たちは、きっと周りが思うほどには大変だと感じてはいないのではないか、と勝手ながらぼくは思う。

 優雅な暮らしがしたいわけではない。最低限のお金があれば、それよりも大切なのは時間だ。自分なりに、幸せを感じられる時間の使い方をしたい。今の時代を代表する価値観は、そうした方向に変化してきている。本業の傍ら、儲からなくても、自由になる時間のほぼすべてを捧げてでも「本屋」をやろうという人は、本を人に手渡すこと、本を介して人と触れ合うことに、幸せを感じる人なのだと思う。自分の大切な時間を「本屋」であることに使う。それは「本屋」として生きるということだ。

 とはいえ、それは決して大げさなことではない。もちろん、生涯を捧げるライフワークとして、「つとめ」としての使命感を持って取り組む人もいるだろうが、本業のストレス解消のために、「あそび」のひとつとして軽い気持ちではじめる人もいるだろう。わざわざやろうというのだから、どちらも「本屋」として生きる人であることに変わりはない。どんな小さな形であれ、そのような人がひとりでも増えることを願っている。

※『これからの本屋読本』P293-294より転載


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