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店主も編集者であれ——内沼晋太郎×堀部篤史×中村勇亮(3)

Talk 本屋として生きるということ(3)

お店の運営のしかた

中村 堀部さんはどのように奥さんと二人でお店を回されているんですか?

堀部 シフトとかは作ってないです。本当に相談。でもこれはタイプというか、性格だと思うんですよ。きっちりしてないと嫌とか。うちは幸いにして両方とも感覚的な人間なので、この日は入ったからこの日は休ませて、というような感じです。でも、基本的には僕が入っているのが前提なので、どちらかというと入ってほしい日にお願いしています。
 僕は外に働きに出ているわけではないので、それができる。店も奥さんの友達とか共通の友達が来るので、いてもプライベートに近い状態だったりもします。毎日誰かしら知り合いとか友達は来るので。イベントの時は基本二人でやります。もちろん一人の時もありますけど。

内沼 たまにバイトの人にお願いされていますよね。

堀部 火曜日に入ってもらっていて、それは今も継続しています。奥さんと二人で休みを取るためですね。

内沼 例えば火曜日は定休日にするという考え方もあると思うんですけど、本屋は毎日開いておくべき、みたいな考えでやられているんですか?

堀部 そうですね。それと、何らかの売上があるのであれば、開けようということです。アルバイトには一日八〇〇〇円払っているんですが、三割の利幅だと売上が三万円しかいかなければ、トントンですよね。利益はない。けれど支払いは毎月あるので、開いている日に三、四万の売上が入ってくるだけでも全然違うんですよ。売上が入らないと仕入れもできないので。利益が出なくても、本を回転させるほうがよいということです。

返品はしない

内沼 そこは誠光社の独自の考え方かもしれませんね。大きな取次と委託でやっているところでは、支払いが厳しければ返品で調整する、という考えになりそうです。

堀部 うちでは返品はしないですね。そもそも、支払いを返品で調整できるというのが異常なんですよ。それはおかしいことだと思わないと。本がお金に換算されてしまうわけでしょう。そうなると、本が固有の存在でなくなってしまうというか。

中村 返品をしないということで、日常的に本が汚れたりした時はどうするのでしょうか?

堀部 返品率が低ければ、最悪は処分してもいいし、古本屋に売りに行ってもいいと考えています。また、本は全て選んでいるので、売れない本はあっても、棚を作るうえで無駄な本ってないんですよ。全部意味があって仕入れているわけだから、文脈を作るために、売れなくても置いておく必要のある本は存在します。その本は劣化していくけれど、代わりに隣の本が売れる。それは、備品みたいに考えたらいいと思うんですよね。

直取引のメリット

内沼 出版社と直取引をする際に、なにか契約のフォーマットや基準はあるんですか?

堀部 七掛買取で、月末締め、支払は翌月が基本です。送料は各出版社さんで変わりますが、例えば最低限の注文部数があればお教えくださいという感じですね。掛率と支払タームと送料に関して最初に取り決めをするだけです。あと、規模の大きいところでは覚書を交わすこともあります。覚書といっても、名前を書いてハンコ押してそれぞれが一部ずつ持っておく程度のものです。収入印紙が必要なところは少ないですね。

内沼 例えば、掛率を七〇%ではなく七五%にしてほしいと言われた時には、どうされていますか?

堀部 自分でお願いをしている段階で、どうしても店に置きたい本なので、七五%でも受け入れることはあります。逆に扱ってほしいというオファーも来るんですけど、置きたい本が少なくとも一〇タイトルあるかどうかを基準にしています。一〇タイトルないと出版社側も、それなりの金額にならないですから。

中村 最初に本を揃える時に、どうやって出版社にアプローチしていったんですか?

堀部 主要なところにはまずメールをして、アポを取って直接行きました。でも、いくつかの出版社と取引ができれば、あとは子どもの文化普及協会で何とかやっていけると思ってました。それで店の体裁を保って、発信を続けたら直取引への考え方は絶対変わってくるという確信があったんです。
 それはやみくもな確信ではなくて、現に出版社側からそうなってきていますよね。ミシマ社さんや、夏葉社さんなど、小さい出版社が当たり前になってきて、小規模化していくのは目に見えている。恵文社時代も直取引はかなりやっていたし、いろいろ、ある程度は今までやってきたことの延長ですね。もちろん、ゼロからやることもたくさんあります。ずっとやり続けていれば経験になるし、スキルになると思うんですよ。

店にあるものを買ってほしい

内沼 お客さんからの注文は、どうしているんですか。

堀部 客注対応は、積極的には発信していません。注文があったらいろんなルート使って受けてますが、場合によってはAmazonで取り寄せて利益ゼロであっても売っています。時間もかかるので、受けることは可能だけど推奨はしてません。
 客注する、つまり欲しいものを買うなら誰にでもAmazonで取り寄せできるじゃないですか。なので、そこを柱にしてはダメだなと思っています。「本を探しに来るんじゃなくて、あるものを買って欲しい」という姿勢であり続けると、そういうお客さんが付いてきます。
 全部にいい顔しようとするとダメだし、そもそも自分の店の広さに収まるわけがないので、品揃えの良さを志向しだすと、単に資本とか面積の違いで決まりますね。そうすると、こちらには勝ち目がない。考え方を全く変えないといけないと思います。

「自宅兼店舗」という生き方

中村 開店してみて、「想定と違ったな」ということはありますか?

堀部 そうですね、経営上はイメージ通りです。家賃を抑えられるので一階を店、二階を住居にしてるんですが、店舗の二階に住むことが「もっとしんどいかな」「もっとストレス溜まるかな」とは思っていたんですが、意外なほどなかったですね。

中村 開店してみて、「これはもっと準備しておけばよかったな」ということはありますか?

堀部 あんまりないですけれど、収納スペースはどんどん欲しくなってきますね。在庫は基本持たないように考えているんですけど、居住スペースに在庫がたくさん置いてあります。それこそ不良在庫みたいなものもありますが、棚に入れてみて売れないから下げたわけではなくて、出し切れないからストックとして置いてあるとか。

内沼 店の上に住んでいることは、生活ともフィットしていますか?

堀部 そうですね、なんにせよ楽ですね。一人で店番していても釘付けされていないというか。私生活と地続きなので気が楽です。二人いたら休憩もできますし。通勤している感じがないので、早く帰りたいな、とも思わないですね。営業している時に上でゆっくりできない、というのはありますけど。

内沼 休みはあった方がいいですか? 週一でアルバイトを雇われていてその日に休まれていますが、極論、全部自分で営業することもできなくはないですよね。

堀部 ずっと自分が店に居ると、なかなか店の空気が変わらないかな。あとは、インプットのために出かけるのは大事ですね。
 でも、基本それも仕事というか、出かけないと新しい本の判断が徐々にできなくなってくる。直接的に本を見なくても、常に色んなものを見るということは絶対で、店を運営する上で外に出ることがないとやっていけないだろうな、と思いますね。本屋さんはあんまり行きませんが、新しくできた飲食店とかは好きなので、結構行きますね。

内沼 本屋さんにあんまり行かないというのは?

堀部 大型書店は行くんですが、お店の参考に小さい本屋に行こう、というのはあまりないですね。こういう店をやっておいてなんですが、自分は全部ある中から選びたいので、買い物に行くのは大型書店です。マーケティングとして本屋さんを見たくないので、お店の面白さは他の業種を見て、商品の情報は大型書店でいろいろなものを見て自分で判断したい。こと本に関しては「お店」よりも「本の中身」の方に興味があるので。

大人な客と子どもな客

中村 買う人は年配の人、という話がありましたが、若い人は本を買いませんか?

堀部 もちろん買う人もいますけど、割合としては少ないです。でもそういう人は大事にしないとね。

中村 年齢層はどんな感じですか?

堀部 歯切れの悪い答え方かもしれないですけど、僕の認識のしかたがそういう感じではないんですよ。数字とかで分類するのではなくて……。例えば、一八歳でも佇まいが「大人」な場合とかあるじゃないですか。でも、写真撮りながらお店に入ってきたりとか、大勢でワイワイしながら来たりとか、そういう人は概して「子ども」なんですよ。だから何というか、割と成熟した若い人もいたりとかします。その中に学生もいますね。

内沼 今の話と関係していると思うんですが、さっき「買う人は年配の人」だったり「遠くから来る人」だという話でした。買わない若い人とか、観光スポットの一つとして来る人は、感覚的に「正直来ないでほしい」のか、それとも「そういう人が来てることって結構大事だな」と思っていますか?

堀部 それは微妙ですね……。実際「本に興味のない人まで来んでいいのに」ってめちゃくちゃ思いますよ。でも、客観的に見たらやっぱりそういう人が来て、店がにぎわっている感じは大事なんだろうなとは思います。
 現場にいる感じとしたら「なんで来るんだろう」みたいな。店が暇な日とかはものすごいストレスになりますよ。一時間ぐらいいて「全然買う気ないな」とか、手をつなぎながら入ってくるカップルとか、これはどう考えてもうちの客ではない。これは恵文社の時に感じていたストレスでもあって、そういうものも、ある程度敷居を高くしようと思って今のお店を始めた理由でもあるから。
 でも、それも程度ですよね。そういう人が多くなりすぎると、じっくり本を読んで棚見て買ってくださって、レジで一言二言しゃべっていく人が居づらくなったりするかもしれないし。かといってお店が閑散としていて、ピンポイントで来て買ってくれればそれでいいかというと、そうではないですし。
 これは主観ですけど、よくあるじゃないですか。海外の頑固な本屋さんで、すごく客に怒ったりとか追い返したりとか。その気持ち、すごくわかるんですよ。「触んな!」とか言って。それは良し悪しというか。店の存在を知ってくれて来てくれるのは嬉しいけれど、観光地ではないから、メディアに露出する時とかもそういうことには気を遣わないといけないなと思ってます。

メディアとの付き合い方

内沼 それではメディアに出る時に、わざとやや偏屈な感じを出そうとしていたりしますか。

堀部 偏屈な感じを出そうとしているわけではないんですけど、トンチンカンな質問をされたら、結構いちいち説明するというか。だからある程度きちんと取材を受けないといけないな、と思います。「思い」とか「オシャレ」みたいに抽象化されることへの危惧はありますね。
 取材の方が来た時に、作られたストーリーを持って来られたら「うちはそういうのではないんで」とは言います。そういう人はストーリーをあらかじめ作っているから、そこに巻き込まれてしまうのは避けたいです。それが頑固っぽい感じで出てしまうこともあるでしょうね。例えば、「秋にお勧めの本一〇冊を紹介してください」という取材がきたら、はじめに「秋といっても抽象的なので、こんな感じの本とさせてもらいます」みたいな提案をするとか。

本屋の店主も編集者であれ

内沼 「面白いことをしたい」「面白いからやっている」と仰っていました。イベントをやるにしても、本を作るにしても「面白い」が先にあるわけですよね。難しい質問かもしれませんが、堀部さんの「面白い」を、自分ではどういうものだと思われていますか?

堀部 ひとつ言えるのは、「編集」することの面白さですね。例えば、こんなものを誠光社から出すということ自体が面白いとか、みんながパブリックイメージを持っている人を別の切り口で紹介して、こういう装丁にするから面白いとか。位置関係の面白さです。
 だから、ジャンルは何であってもいい。逆に言うと、自分が一個一個のものを最高に好きじゃなくてもいいんです。例えば、たまに政治的なものがあってもいい。けれど政治的なお店としてずっと発信し続けるのは面白くないんですよ。うちでやるんだったら少し違う切り口でやりましょう、と言ってみたり。ギャラリーなんかも同じです。
 やっぱり、位置関係の面白さなんですよね。純粋に「これがものすごく好き!」とか、「こういう小説が大好きで、この作家さんを紹介したい!」という面白さではないです。「この人はすごい作家だ」とか「この人はすごい画家だ」ということではなくて、その作家や画家のいろんな面を「編集」して面白がれることだと思います。

内沼 ただ「編集」ということだと、店をつくらなくても、本やウェブを編集すればいいのではないか、と思う人もいますよね。いま堀部さんがやられていることが進んでいったら、出版がメインなっていくことってあると思いますか?

堀部 たぶんないと思います。出版がめっちゃ儲かってないですから。それで成立したらそういう可能性もあるかもしれませんけど。つまり本屋のほうがダメになったりとかして、出版がよかったりとか。でもそれは成り行きですよね。
 でも僕の中では、本を作ることと、本屋で本を売ることは同じなんです。僕は性格的に「これがものすごく好きで、これは最高!」とは言いきれない。あれもこれも好きで、組み合わせるのが面白い。だから、「生涯の一冊は?」と聞かれても困るんです。「本当に好きなのかな」と思うし。イベントもやりながら、販売もやるし、展示もやって、本作りもやることが、自分の「編集」ということですね。
 だから「これがすごい!」という感じではない。もともと人的なつながりがあって、だからやろう、というところからスタートする。でも、ただやるわけではありません。その中にはそこまで好きではないものもあります。その場合は「こんなことしませんか」と提案します。余力があればですけどね。だから「編集」なんです。中心がないから変わり続けられるんですよ。もちろんそれにも感性は要ると思います。「中心がある」というのもカッコイイと思うんですけど、僕はそれがないんで、このバランスは変わらない。変わらないんだけど、その中で扱っているもの、好きなものがどんどん更新されていくんです。

内沼 堀部さんは「中心を持ちたいな」と思うことはあるんですか?

堀部 ありますよ。たまにイベントに来る同い年くらいの「どっぷりいってるやつ」とかと話していると「あ、僕も一つのことだけ研究したいな」と思うし。でも、僕の生き方はそうではないんです。
 例えば、イベントをまとめて『コテージのビッグ・ウェンズデー』という本をつくりました。そこではタモリや伊丹十三や村上春樹について話していますが、素人である僕らがしゃべる面白さでやっているわけで。専門家になってしまうと優劣のある競争になりますよね。そうではないところでやっているんです。


中村勇亮(なかむら・ゆうすけ)
一九八二年生まれ。信州大学人文学部卒業。新刊書店で三年勤務した後、商社に勤務。退職後の二〇一七年八月、香川県高松市に本屋ルヌガンガをオープン。

堀部篤史(ほりべ・あつし)
一九七一年生まれ。立命館大学文学部卒業。学生時代より編集執筆、イベント運営に携わりながら恵文社一乗寺店に勤務。二〇〇四年、店長就任。商品構成からイベント企画、店舗運営までを手がける。退職後の二〇一五年一一月、京都・河原町丸太町に誠光社をオープン。

※『これからの本屋読本』P245-P254より転載


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