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接客

第4章 小売業としての本屋(6)

 接客とは文字通り、客に接することだ。表情や声のトーン、ことば遣いなどを意識し、使い分けながら、客の考えていることを読み取り、気持ちのよいコミュニケーションを心がけるのが基本だ。

 そもそも小売には、店員のほうから積極的に話しかけて接客する業態と、そうではない業態がある。たとえば百貨店に行き、洋服や化粧品を買おうとすると、店員のほうから話しかけられる。これらの商品には説明が必要であり、話しかけたほうが売れる、と考えられてきたからだ。けれども一方で、話しかけられないほうがいい、自分で選びたいという人もいる。洋服でいえばユニクロなどのファストファッション、化粧品でいえばマツモトキヨシなどのドラッグストアは、そうした人が増えることに合わせて伸びていった。

 本屋はどうか。先に引いた江戸時代の例では「店員が呉服屋のように品物を出してきて見せる」のが一般的だった。しかし明治中期以降は、本棚と平台に陳列し、客が自ら選ぶ方法に変わっている。そもそも利益率が低いので、一人ずつに丁寧な接客をして、説明しながら販売していては商売にならない。もし、売るものが車であれば、一台を売るのに三時間でも三日でもかけることができるが、本屋で一冊を売ることだけに三時間かけていては人件費で大赤字になってしまう。また、読書という行為が基本的に一人で行われるように、本という商品自体も、非常にプライベートなものでもある。だから元来、できるだけコミュニケーションをとらずに、自分一人で選んで買いたいと感じる人が多い。

 とはいえ、小さな地域コミュニティで店をやっていく場合、接客販売とまではいかなくとも、コミュニケーションは必要とされる。広島県庄原市東城町という人口八〇〇〇人の町にありながら、全国的にその名を知られる本屋である「ウィー東城店」の佐藤友則氏は、地元の客の顔はほぼ覚えており、名前や家族構成などもかなり頭に入っているという。客のニーズにこたえる形で、本だけでなく文具やタバコや化粧品も扱い、美容室やコインランドリーを併設し、年賀状の印刷まで行う同店は、町のコミュニティの中心的な拠点となっている。この「ウィー東城店」ほどには徹底できないとしても、少なくとも常連客に対して「この人はミステリファンだったな」「あの作家の新作が出たら、必ず買っていく人だな」といったことを覚えるくらいのことは、多くの本屋に求められる基本的なことといえるだろう。

 インターネットで何でも買えるようになって以降、リアル店舗の存在意義のひとつは、そこに生身の人がいることだ。接客は当然、そのうちの重要な要素であるといえる。一方、テクノロジーの進化はリアル店舗にも訪れており、これまで人が担ってきた部分も自動化が進みつつある。二〇一八年現在、専用アプリと店内のセンサーを駆使しレジ無しで決済される、アメリカの「Amazon Go」や、モバイル決済IDで鍵を開けてセルフレジで会計する、中国の「Bingo Box」などが話題だ。これからの小売がどうなっていくかは未知数だが、一方で無人化し、一方で高度に人間的な接客へと、二極化していくのかもしれない。その中で本屋はどうあるべきか。考えるのが面白い時代になってきている。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P173-P175より転載


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