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選書から場づくりへ

第9章 ぼくはこうして本屋になった(8)

「本屋B&B」をはじめてから、店を気に入ってくれた人たちからの依頼で、ありがたいことに仕事の幅はさらに広がっていった。そのうちの一つが二〇一四年六月、横浜・みなとみらいの造船ドック跡地に開業した、大人のためのシェアスペース「BUKATSUDO」だ。ぼくはその施設のクリエイティブ・ディレクターとして、施設名称の提案にはじまり、内装を田中裕之建築設計事務所、グラフィックを「groovisions」に依頼して、全体のディレクションを行った。

 コワーキングスペースと、時間貸しのキッチンやスタジオなど様々なレンタルスペース、月額契約の「部室」、そしてコーヒースタンドが一体となっていて、あたらしい公民館のような施設ともいえる。利用者に自由に使ってもらうための場所とはいえ、場の空気をつくっていくためには、運営側も継続的にコンテンツをつくっていかなければならない。そこで開業後も、そこで開催される講座の企画に携わることになった。毎日イベントをやっている経験も生きて、開業から今に至るまで続いている。

 ぼく自身の講座も、ここで開講している。二〇一三年一二月に、それまでの経験をもとに『本の逆襲』(朝日出版社)という本を上梓したことで、それを読んで実際に本屋をはじめようと考える人に向けた、実践的な受け皿の必要性をちょうど感じていた。そこで二〇一四年八月、「これからの本屋講座」をはじめることにした。いまも続けているその講義の内容が、本書の原点となっている。

「本屋B&B」をつくったことによって増えたのは、店づくり、場づくりに関する仕事だ。もちろんその多くは本屋だ。福岡・天神「Rethink Books」、東京・銀座「EDIT TOKYO」などは期間限定の本屋として直営し、東京・渋谷の「HMV&BOOKS TOKYO(現HMV & BOOKS SHIBUYA)」の立ち上げにも深く携わった。けれど、たとえそこに本がなくとも、イベントや講座やワークショップ、あるいは店や集まる人そのものが、届け方を考えるべきコンテンツであるとすれば、それらはすべて広義の「本」であり、ぼくにとっては「本屋」の仕事として、延長線上にあると考えるようになった。

※『これからの本屋読本』P306-307より転載


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