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内装と陳列

第4章 小売業としての本屋(5)

 本屋の空間はシンプルだ。大した内装をしなくても、特別な設備を用意しなくても、最低限の明るさや清潔さ、快適な温度を保つことができれば、あとは本棚と平台を並べ、そこに本を陳列して、レジさえ置けば開店することができる。そのため、開店時にはとくにインテリアデザイナーなどを入れず、最低限の工事だけを施工業者や大工さんにお願いするということも多い。

 だからこそ、ともいえるだろうが、ホテルや飲食、アパレルなどと比較すると、多くの本屋は質素で、古臭い印象を与える。他の業種の空間に見られるような、こだわった内装、完璧な清掃、絶妙な明るさ、快適な温度と湿度、心地よい音楽、ほのかな香り、興味を引く装飾、そして訪れる客の雰囲気……挙げだすとキリがないが、そうした演出の行き届いた空間の価値については、本屋においては相対的に、それほど重視されてこなかった。POPやポスターなどを積極的に使うのか使わないのか、立ち読みを禁止するのか奨励するのか、といったことは、よく議論されてきた。このことも、かつては日常生活に必要な場所だったことと関連しているだろう。演出を重視する意味がそれほどなかったのだ。

 けれど、もはやそうではなくなった以上、空間をどう演出するかは、小売店として考えるべき大きな要素のひとつだ。逆にいえば、新しくはじめる本屋にとって、この部分にはまだまだ力を入れる余地がたくさん残されている。大型書店においてはここ数年、台湾の「誠品書店」や、日本の「蔦屋書店」を真似たような空間づくりが流行している。けれどいま、これから新しくはじめようという人が、その後を追わなくてもよいだろう。大小問わず、空間演出の可能性は、もっと自由に考えて、それぞれの個性を追求するべきだ。

 とはいえ本の場合、商品の特性として、陳列だけで見た目のインパクトを出すのは難しい。まず、ほとんどがむき出しの状態であるから、傷まないための配慮が必要だ。そもそも、ほぼすべての本が長方形であるため、何十年も前からせいぜい、積み木のようにタワー状に積むくらいしかできず、代わり映えがしない。表紙と背表紙しかない要素を、什器を含めて、どのように魅力的に見せるかは課題のひとつだ。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P172-P173より転載


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