2019年上半期ドラマベスト10

1. My Brilliant Friend
2. チェルノブイリ
3. DEUCE S2
4.グッド・プレイス S3
5. ワンデイ 家族のうた S3
6. フリーバッグ S2
7. セックス・エデュケーション
8. キリング・イヴ S2
9. カウンターパート S2
10. ボクらを見る目

⚪Honorable Mention
スター・トレック:ディスカバリー S2
世にも不幸なできごと S3
ザ・グッド・ファイト S3

 2018年の総評で述べたように、2019年はこの10年間のドラマシーンを支えてきた作品たちがフィナーレを迎えている。空前絶後の現象となったHBO『ゲーム・オブ・スローンズ』を筆頭に、ネットワーク局CBS『ビッグバン・セオリー』Netflix最初期の人気作『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』、政権交代から更に鋭さを増したHBO『VEEP』と、とりわけコメディ作品が多い。
 この中で最も笑える作品を選べば『VEEP』になるが、作風の変化がよくわかるのは『ビッグバン・セオリー』だろう。『ビッグバン・セオリー』はCBSによるオーソドックスなシットコムで、アパートに暮らすレナードとシェルドンら科学者たちのお向かいさんに、女優志望のペニーが越してくることから始まる物語だ。日本ではシーズン9まで視聴ができる現状、ここでシーズン12を語るわけではない。2018年にシーズン1からビンジした筆者が強く感じたのは、非モテ/ナードのレナードたちとジョックス/ビッチのペニーの描き方の変化だ。たとえば未視聴の人が「いま」シーズン初期を観ると、キャラクターたちのネガティブな面を馬鹿にしたような笑いの取り方が受け入れ難いかもしれない。そこがどう変化したかはぜひ観て頂くとして、昨今のドラマの「いま」もしくは「ライヴ感」というのは、オーディエンスを獲得するうえで必須といって良い。その最たるものは、ド直球の反共和党でありムラー報告書からゴールデンシャワーまでネタにする『グッド・ファイト』にみてとれる。

 ということでまず始めに、年初にNetflixで配信されてスマッシュヒットになった『セックス・エデュケーション』を取り上げたい。「セックス・セラピストの母にもつ男子高校生が、未経験にも関わらず同級生の性の相談に乗ることになる」という色物の粗筋を核に、典型的なジョックス/ナードの構図にならない学園模様、冗談めいた性の悩みに真摯に応える主人公たち、セクシャリティや妊娠中絶、性加害・被害といった現実の課題をしっかり抑えている。キャストでは奔放なセックス・セラピストを快活に演じたジリアン・アンダーソンのほか、パンクな同級生メイヴ役の新生エマ・マッキーに注目だ。

 2020年が近づき21世紀も1/5を終わろうかというこの時期、改めて20世紀の出来事を振り返り、これまで/これからを捉えようする作品も近年のトレンドのように思う。2016年の傑作『アメリカン・クライム・ストーリー』ではO・J・シンプソンの刑事裁判から過去50年のアメリカ人権運動を描き、新シーズンが控える『ザ・クラウン』はイギリス帝国主義の遺恨と疲弊する王政を鋭く批判し続けている。
 2019年でこの流れにあるのは、1986年のチェルノブイリ原発事故を題材にしたHBO『チェルノブイリ』と、前述のシンプソン裁判にも結果が影響しただろうセントラルパーク・ジョガー事件を扱った『ボクらを見る目』だ。
 『チェルノブイリ』の評判については耳にしている人も多いだろう。『ゲーム・オブ・スローンズ』の熱狂で大量のHBOウォッチャーがいた時期のオンエアで、反応炉の爆発という前例のない事故が起きた現場の混乱、極めて高い放射線量のなか決死の収束に望んだ作業員の姿、事故を引き起こした数々の「嘘」を暴くポリティカルドラマまでを綴った傑作である。このドラマの意味は日本に住む人たちにとって自明であるが、世界中で話題になった理由は、内外政の不祥事を隠蔽しようとする権力側の姿勢が、旧ソビエト連邦の体制下云々を超えたところで響いたからではないだろうか。日本でも今秋にスターチャンネルでのオンエアが予定されていて、周囲の反応が楽しみだ。

 ある程度の熱量を持ってドラマを追っていると、ノア・ホーリーやサム・エスメイルといった映画だけを観ていると気付けない才能があるとわかってくる。『フリーバッグ』『キリング・イヴ』を世に送り出したフィービー・ウォーラー=ブリッジもその一人だ。『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』ではランド・カルリジアンの相方を演じた彼女の真価は脚本にある。
 『キリング・イヴ』は北米版を視聴したのでシーズン2の感想になる。シーズン1に続き、派手な暗殺を続けるヴィラネルと、彼女を追うイヴ。ふたりの関係は敵同士に留まらず、奇妙な協力関係になっていく。エミー賞等ではドラマにカテゴライズされた本作は、日本でも春にオンエアされたシーズン1を観ればわかる通り、コメディとしても優れている。とりわけヴィラネルを演じるジョディ・カマーの活躍は目覚ましく、イヴの気を惹きたくて可笑しな暗殺に興じ、パリとローマに移った舞台にてエレガントなファッションで周囲を欺き、ボケまで難無くこなす独壇場だ。昨年のエミー賞ではイヴ役のサンドラ・オーに譲ったが、今年の‘should win’の筆頭だろう。

 FOXが打ち切った『ブルックリン・ナイン−ナイン』をNBCに獲得した件が話題になった件は記憶に新しい。『ワンデイ 家族のうた』と『カウンターパート』もキャンセルの憂き目にあった秀作だ。『ワンデイ 家族のうた』は先日PBSにて継続が決まったものの、ジャスティン・マークスはショウランナーを務めるStarz『カウンターパート』は存続が怪しいままだ。
 『キリング・イヴ』と同様に日本でもシーズン1が観賞できるようになった『カウンターパート』は、シーズン2では入れ換わってしまったJK・シモンズが一人二役で扮するハワードたちを追いながら、組織の謎と、分断された世界の真実を解き明かしていく。30年前に突如現れた平行世界を巡るスパイ・サスペンスが軸にある物語だが、それぞれの世界で交錯するキャラクターたちのドラマが真におもしろい。その真骨頂はジャスティン・マークス自らが監督したエピソード‘Twin Cities’だろう。物語の核になる部分なので書けることは少ないが、レギュラーキャストが一切登場せず30年前の出来事だけを映すこのエピソードは、他の優れたドラマがこぞって挑戦しているシーズンにひとつの「異色のエピソード」に当たるもので、一際非情で哀しい一篇になっている。

 『ゲーム・オブ・スローンズ』が終わっても、HBOは素晴らしい作品を送り出し続けている。「My Brilliant Friend」はエレナ・フェッランテの小説『ナポリの物語』を映像化する作品で、イタリアの放送局RAIにHBOが協力している。60年に渡る主人公エレナとリラの友情を綴る全4章のうちシーズン1となる。
 第二次世界大戦後の南部イタリアの歴史をなぞりながら、ナポリの郊外に暮らすエレナがあるきっかけで芽生えたリラとの友情を描く本作は、日本でいうとNHKの大河ドラマに近い。まず原作から優れている要素として、ふたりの「友情」がただの仲良しを意味しないことだ。学校の成績や仕事で競いあい、パートナーについて嫉妬し、清濁入り交じりながら大人になっていくふたり。そしてドラマ版では数千人のオーディションから選ばれたMargherita MazzuccoとGaia Giraceのふたりがエレナとリラを見事に演じ、また荒廃したナポリ郊外の街Rioneのセットも素晴らしい。
 現時点で日本での配信予定は無いものの、日本でも原作小説が第3章まで刊行されているので、ほぼ変更のないドラマ版の前に読むのも良いだろう。

 2019年下半期はドラマシリーズの最終章が続く。サム・エスメイルの『ミスター・ロボット』、ジェンジ・コハンの『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』、デヴィッド・サイモンの『DEUCE』、ノア・ホーリーの『レギオン』と、どれも優れた作品ばかりだ。このうち『レギオン』は6月から既にオンエアが始まっていて、さらに奇抜で狂った世界が繰り広げられている。8/9からの日本での配信を楽しみにしてほしい。

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