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2017年ドラマベスト10

1. ベター・コール・ソウル S3 (AMC)
2. 侍女の物語 (hulu)
3. 13の理由 (Netflix)
4. ザ・クラウン S2 (Netflix)
5. ビッグ・リトル・ライズ (HBO)
6. ストレンジャー・シングス S2 (Netflix)
7. フュード/確執 (FX)
8. ミスター・ロボット S3 (USA)
9. ボージャック・ホースマン S4 (Netflix)
10. マーベラス・ミセス・メイゼル (Amazon)
11. レギオン (FX)
12. アンという名の少女 (CBC)
13. マスター・オブ・ゼロ S2 (Netflix)
14. ゲーム・オブ・スローンズ S7 (HBO)
15. ワン・ミシシッピ S2 (Amazon)
16. フリーバッグ (BBC)
17. 高い城の男 S2 (Amazon)
18. マインドハンター (Netflix)
19. ゴッドレス (Netflix)
20. ブルックリン・ナイン-ナイン S3 (FOX)

●Honorable Mentions
GLOW (Netflix)
オレンジ・イズ・ニュー・ブラック S5 (Netflix)
グッド・プレイス S1 (NBC)

●総評
 2017年は昨年より数多くのドラマを観賞できた。過去シリーズのキャッチアップが進んでいるのもあり、ほとんどが今年開始の新シリーズである。海外では"Golden Age of Television"と称されるモダン・ドラマは、評判の作品を聞けば枚挙に暇がないほど豊作だ。Netflixどころか既に時代を象徴するSFジュブナイルになった『ストレンジャー・シングス』から、ストリーミング・サービスに遅れはとらぬと地上波から現れた『This Is Us』『グッド・プレイス』まで、制作局・ジャンル・人種性別を問わず楽しめる作品ばかりである。
 選出を詳しくみるまえに、観賞費用に触れておきたい。ある程度ドラマを追っている方ならお分かりかと思うが、月額1,000円程度のNetflixかHuluがあれば、人気作品を広範囲に抑えることができるはずだ。通販をよく利用するならばAmazonプライムに入ればいいし、熱量をもってるならスターチャンネル等の有料チャンネルも選択肢だが、これも元来映画をエアチェックしているなら録画本数を増やすだけである。2017年枠の新作を観ることに限れば、交通費諸々を含めた私の年間の劇場観賞より安上がりであった。
 なお、このエントリのネタバレは最低限にしている。

 さて、本来ならば第1位から話したいところだが、2017年を代表する作品は第7位の『フュード/確執』ではないだろうか。FXネットワークの重鎮となったライアン・マーフィーのリミテッド・シリーズは、映画『何がジェーンに起こったか?』に関わるジョーン・クロフォードとべティ・デイヴィスの確執を描く。"確執とは憎悪ではなく苦痛である"という言葉で始まる全8話は、単なるゴシップとは全く別のものだ。スタアに為らざるを得なかったジョーンとアクターを追い求めたべティの生きざまを、ジェシカ・ラングとスーザン・サランドンが熱演している。私は北米iTunesで購入して春先に観賞したのだが、日本のスターチャンネルで秋にオンエアされるまでにワインスタイン事件が起こるのだ。
(ハリウッドが根幹から変わる事件になっているが、強姦・恐喝を含むなら端から刑事責任が問われる件であって、<事件>である。セクハラ騒動などとゴシップじみた表記は止めるべきだ)
 このドラマでとりわけ生々しく描かれるのは、ハリウッドの男性中心社会やセクシズム・エイジズムだ。男性が齢を重ねても主役になれるのに対して、高齢の女性には役が廻ってこない。有名な男性監督が、若いブロンド美女を起用する。スタアのジョーンは常に美しさに追い求めて体を壊し、べティはジョーンのような色気がないと言われた過去を拭えない。

 ワインスタイン事件が明るみに出る前から、今年のドラマの中心は様々な女性たちであった。第3位『13の理由』では映画『スポットライト』のトム・マッカーシー監督が、高校生の残酷な迫害や強姦の末に自殺した生徒を真正面から映し出した。第5位『ビッグ・リトル・ライズ』では夫からの家庭内暴力に悩む女性をニコール・キッドマンがキャリア最高の演技で表現し、見事エミー賞に輝いた。
 社会風刺ならお得意のコメディアンから産まれたコメディでも同様だ。共に第2章に進んだアジズ・アンサリの『マスター・オブ・ゼロ』とティグ・ノタロの『ワン・ミシシッピ』は、どちらもセクハラで訴えられるプロデューサーが登場した。後者は従業員の前で自慰をする人物がいるのだが、なんと配信後に現実のプロデューサーであるルイス・C・Kが同じ行為で訴えられてしまうのである。もはや沈黙してはいられないのだ。もちろん、両作品ともに暖かいラヴロマンスが魅力の傑作なのでお観逃しなく。
 ドキュメンタリーなので選出しなかったが、Netflixの『キーパーズ』は先述の映画『スポットライト』の姉妹編といった内容で、ボルチモアで起きていた聖職者の組織的な売春と殺人事件を詳細に追っていた。暴かれる事件と同様の衝撃なのは、このドキュメンタリーがNetflixを通して全世界に同時配信され、事実上の公開書簡になっていることだ。ミソジニーやセクシズムが今日明日でなくなるとは思わないが、加害行為があったなら瞬時に告発できる情報時代にいるのは確かだ。
 こうした流れは作品の内容だけでなく製作背景にも顕著だ。重要な年の先陣を切った『ビッグ・リトル・ライズ』のニコール・キッドマンとリース・ウィザースプーンや『フュード/確執』のジェシカ・ラングとスーザン・サランドンは自ら制作にも名を連ね、特にエミー賞でニコールとリースが行ったスピーチは記憶に残っている人も多いではないだろうか。

 昨夏に彗星の如く現れた『ストレンジャー・シングス』は、ハロウィーンを舞台に遥かにパワーアップして帰ってきてくれたのが嬉しい。ショウランナーのダファー兄弟の創る物語とキャラクターは熱くいとおしく、ピクサーからはアンドリュー・スタントンが参戦してシーズン中盤の恐怖を巧みに演出していた。おそらくクリスマスと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がキーワードになりそうな次章ではさらなる世界の拡張を期待したい。

 BTTFといえば『ミスター・ロボット』はサム・エスメイルの才気を力強く感じたシーズンだった。プロットが散乱しがちだったS2から一転、対ダーク・アーミーに絞った展開は撮影から音楽までクールな演出が山盛りだ。特に1エピソード42分/疑似ワンカットの第5話は、ドラマ史に残るド級の傑作である。また、これまでみえてこなかったキャラクターたちの人間らしい部分が良く描かれていた。まさかミスター・ロボットで泣くとは...。
 映像表現では『レギオン』を忘れてはいけない。映画『X-MEN 2』にも登場したプロフェッサーXの息子デヴィッド・ハラーを主人公に、ドラマ版『ファーゴ』で頭角を現したノア・ホーリーの世界が文字通り爆発する。デヴィッドの脳に潜む恐怖を描く第3,5話や、2016年に『アトランタ』で話題になった日系監督のヒロ・ムライによる奇妙な第6話、オーブリー・プラザの血気迫る演技とボレロが狂宴する怒濤の第7話と、「正義の味方が悪いやつを倒しにいく」ジャンルの定石には到底収まらない、アメコミファンでなくとも必見の快作だ。
 まこと、SF新時代である。2016年にドラマ版『ウエストワールド』で絶賛されたジョナサン・ノーランと、ダファー兄弟、サム・エスメイル、ノア・ホーリーはこれからもドラマ黄金期を牽引していくに違いない。

 こうした才能面からも新しいドラマを発見していかなければならないと痛感した2017年である。
 第12位の『アンという名の少女』は「赤毛のアン」の何度めかわからない映像化となるが、ショウランナーと脚本を務めるモイラ・ウォーリー・ベケットが『ブレイキング・バッド』で活躍した女傑だったので、よし観てみようという人が周りに多かった。それが大正解だった。主人公アンや彼女を見守るマシューとマリラの新たな側面がみられる脚本はもちろん、グリーンゲーブルの美しい風景を捉えた撮影、そして2,000人規模のオーディションから選ばれたアン役エイミーベス・マクナルティーの演技が一際輝いていた。
 ようやく日本上陸となった『ブルックリン・ナイン-ナイン』と勢いを増すNBCの『グッド・プレイス』のショウランナーであるマイケル・シュアーにも注目だ。ニューヨークのブルックリン99分署を舞台に刑事たちが活躍する『ブルックリン・ナイン-ナイン』は外出先で観るのが恥ずかしかったほど抱腹絶倒で、天国で哲学を学ぶ『グッド・プレイス』は地上波とは思えないほどハイセンスな脚本と奇抜な世界観が楽しめる。ちなみにマイケル・シュアーの過去作「Peaks and Recreation」は残念ながら日本版が無いので、ぜひともNetflixに動いてもらいたい。
 映画『ローガン』を手掛けたジェームズ・マンゴールド組の脚本家スコット・フランクは、Netflixで本格西部劇『ゴッドレス』を製作した。もともと映画向けに企画したそうだが、スティーブン・ソダーバーグがプロデューサーについてドラマになったのである。全7話の時間で描かれるのは銃が巧みな男性だけではない。水を求めて井戸を堀り、草原を駈る馬を育み、読み書きや音楽を教えるささやかな暮らしがあることを教えてくれる。とりわけ馬の描写はこれまでにないほど美しく逞しい。

 逆に配信されるまで注目していなかったのが、各所で今年最高のドラマと名高い『侍女の物語(The Handmaid's Tale)』だ。カナダの作家マーガレッド・アトウッドの同名小説の映像化で、日本では2018年に配信予定となっているが、どうしても観たかったので北米iTunesで購入した次第だ。エリザベス・モスやアレクシス・ブレデルらキャストは『マッドメン』で知られているものの、リード・モラノやケイト・デニスといったスタッフには馴染みがなかった。

 このドラマを待ちわびている人も多いので詳しい内容を避けて評するなら、非常に優れた「映像化」が為されているのが特徴だ。シーズン全体で多用される表情のクロースアップと狭いフォーカスは極度の緊張を与え、色彩で区別された衣装と美術は役割の分断された世界を巧みに伝えている。アダム・タイラーの重苦しいスコアとサウンド・エフェクトまでもが秀逸で、とあるフラッシュバックでのデモ行進は現実の出来事と相まって観る者の心を削るだろう。
 至近距離のカメラに耐えうる多彩な表情でキャリア最高の演技を提供したエリザベス・モスを筆頭に、素晴らしいキャストにも恵まれている。アン・ダウドは厳しく謎めいたおばを演じ、イヴォンヌ・ストラホフスキーが権力者の妻でありながら才能を潰された過去を持つセレーナ・ジョイに扮する。『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』からの抜擢となったサミラ・ワイリーとマデリーン・ブルーワーは、若手ながらも重要なキャラクターを任されていた。

 第9位の『ボージャック・ホースマン』は熱心な布教活動の甲斐があって、Netflixで徐々に人気を集めている馬のアニメだ。そう、馬である。犬や猫といった動物たちが人間とともに暮らす世界で、落ちぶれたハリウーのスタアの馬ボージャックを描く...と聞けば奇妙に思えるかも知れない。しかしシーズンが進むにつれ鋭さを増していく脚本と演出は、キャラクターたちの抱える不安や後悔を精緻に汲み取り、私たちの精神を蝕んでいく。いや、説明するより観てもらったほうが良いだろう。信じてほしい、『ボージャック・ホースマン』はここに挙げたドラマと同格の傑作である。
 ところで周囲の評判を聞いていると、実写ドラマと同じくカートゥーンも異変が起きているらしい。旧作ではディズニーチャンネルの『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』を観賞してみたら、ユニバーサルのモンスター映画等々のオマージュを土台にして、奇妙な出来事を体験する少年少女のアドベンチャーであると同時に、いつか終わる夏休みを経て成長するこどもたちの傑作ジュブナイルであった。
 ほかにも『スティーブン・ユニバース』や『アドベンチャー・タイム』『リック・アンド・モーティ』といった作品が優れていると聞くので、2018年はカートゥーンもできるだけ観ていきたい。

 少々長くなってきた。ここまでの間『ベター・コール・ソウル』と『ザ・クラウン』に触れないでしまったが、正直なところ私の拙文では紹介できないほど、脚本から演技まで非凡なシリーズであることだけ伝えておきたい。当代随一の脚本家であるヴィンス・ギリガンとピーター・モーガンの、キャラクターへのアプローチを比べてみるのも良いだろう。とりわけ現エリザベス二世を主人公に英国王室とその半世紀を描く『ザ・クラウン』は、皇位継承で揺れる日本にぴったりの作品だ。
(そも、S1配信が今上天皇の退位の意向と重なったのは驚いた。)
(NHKで東京裁判を描くドラマがあったが、マールブルク文書を取り上げて過去の君主を糾弾するほどの挑戦はあったのだろうか。)

 2018年はモダン・ドラマの興隆を決定付けた『ブレイキング・バッド』が始まってから10年になる。この傑作と同列に語られる『ゲーム・オブ・スローンズ』も、原作を飛び越えて終わりを迎えようとしている。順位では後方にしたが、200ヶ国近い地域で同時放送される人気と勢い、映像史に残る一大スペクタクルで魅せてくれる製作規模、無数の登場人物と歴史で綴る長大な物語は、後にも先にも『ゲーム・オブ・スローンズ』があるのみだろう。2019年になる予定の最終章までまだ時間はある。ドラマを観賞し、原作「氷と炎の歌」を読み、ファンと存分に語り合って備えよう。誇張でもなんでもなく、21世紀の神話である。

 以上、2017年で印象に残ったドラマの紹介でした。過去シリーズの予習が必要でない作品でおすすめなのは、Amazonプライムの『マーベラス・ミセス・メイゼル』!『ギルモア・ガールズ』のエイミー・シャーマン・パラディーノによる小気味の良い台詞群と、それに応えるレイチェル・ブロズナハンの好演が光ります。新春の初笑いにぜひ!

それでは。

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