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まだ名前のない愛 ~ケイタ推しの私がボイプラを終えて~ 前編

推しがオーディションに落ちた翌朝は皮肉にも快晴だった。
一緒にサバイバルオーディション番組の最終回を見るため我が家に泊まっていた友達を起こし、カーテンを開けると、希望そのものみたいな眩しい光がリビングに飛び込んできた。

友達の推しも、私の推しも落ちてしまったので、上手く笑えないままコーヒーを啜り、ぽつぽつと昨夜の感想を語って朝のうちに解散した。

その後、昼から予約した病院に行くため、駅に向かって川沿いの道を歩いた。
まだ四月の中旬なのに、夏みたいに暑い。よく気温を確かめないまま、長袖のトップスにトレンチコートを羽織ってきてしまった。すれ違う人は皆半袖で、なんだか私だけが前の季節に取り残されているように感じた。
少し前まで満開の桜で彩られていた川沿いは新緑の景色に変わり、土手には鮮やかな赤や黄色の花が咲いている。

ここ三ヶ月間、サバイバルオーディション番組『ボーイズプラネット』の放送に夢中になっていた。
デビューグループに推しのケイタがいない事実が受け入れがたく、それまで毎日楽しく見ていた関連動画が見られなくなってしまった。
今までサバイバル番組は色々見てきたけど、推しが落ちたのは今回が初めてだった。

ボーイズプラネットとは

グローバルボーイズグループを作る韓国のサバイバルオーディション番組。
通称ボイプラ。
2023年2月2日~4月20日まで、日本ではAbemaTVで放送されていた。
今でもアーカイブで全話視聴することができる。
https://abema.tv/video/title/458-24

韓国人だけで構成されるKグループ49人、
日本や中国、アメリカなど、韓国以外の戸籍を持つメンバーで構成されるGグループ(Gはグローバルの略)49人で競い、
視聴者の投票によって、最終的に9人のデビューメンバーを決める番組である。

詳しくは、公式が出しているこちらの動画をご覧ください。(K-POPオタク・ドランクドラゴンの塚地さんが案内人役)

ケイタ推しになった経緯

私の推しは日本人の寺園佳汰(てらぞのけいた)くんだ。

ケイタ

ケイタとの最初の出会いは、2022年の夏。
YouTube番組『JO1 HELL?O TOUR』のEp.2を見たときだった。

私はもともとJO1のファンなので、JO1のメンバー目当てに見た番組だった。
そこでケイタは、韓国で暮らす日本人アイドルとしてMCを担当していた。
ケイタが出てきたときは、性格が良さそうで真面目な雰囲気の子だな、と好感を抱いたものの、ケイタや、ケイタの所属グループのことを特に調べたりはしなかった。

そのまま時は過ぎ、2022年12月。
ボイプラの全参加者が公開された中にケイタはいた。
JO1のファンが「ハローツアーのMCをしてくれたケイタくんがいる!」とザワザワしていたので、推しがお世話になったお礼に一票くらいは入れようかなと思った。
この時点では、以前熱心に見ていたオーディション番組の参加者であるアントニーや、分かりやすくビジュアルが華やかな子に惹かれていた。

2023年2月。放送が始まっても特に気持ちは変わらず、一週目はケイタに一回しか投票していなかった。

潮目が変わったのは放送二週目。

ボイプラでは一番最初に、パフォーマンスを披露して審査員に評価してもらうミッションがある。
そこでケイタは大阪出身の日本人練習生たちと組んでBASTARZの『品行ZERO』をカバーした。

ケイタの正確で力強いラップは審査員や他の練習生に絶賛された。
また、パフォーマンス前の審査員とのやり取りで、ケイタが約9年もの長い練習生生活を送った苦労人であること、アイドルグループ『Ciipher』のメンバーとしてデビューしたものの「自分の前には大きな壁がある」と語り、現状があまり上手くいっていないことが明かされた。

映像の中に韓国の大手事務所である「YG」の文字が見えたので、少し調べてみた。
ケイタは約6000人がオーディションに参加したうち、2人しか合格できなかったYG JAPAN初の練習生だったこと、アイドルグループ『TREASURE』を輩出したサバイバルオーディション番組『YG宝石箱』に参加し、惜しいところで脱落していたことが分かった。

ケイタのグループ『Ciipher』は知らなかったが、『TREASURE』は有名だし、何曲も聞いたことがあった。
この子はかつて一緒に練習した子たちの活躍を見ながら、きっと悔しい思いを沢山してきたのだろうなと感じた。

そして全練習生のパフォーマンスと評価が終了し、次の課題が、ボイプラの表題曲『난 빛나(Here I Am)』であると告げられる。(난 빛나=私は輝く)
そこで評価別に部屋が分けられ、同じレベルの子たちで歌とダンスを練習をする場面が放送された。
ケイタは最上位レベルであるオールスターになり、レッスンで歌声を披露した。
その歌声に私は度肝を抜かれた。

ラッパーだから歌はさほどかも、という予想に反して、めちゃくちゃ上手かったのだ。
音程も正確だし、声量もあって、ニュアンスに色気もある。
この動画の中にも、あまりの上手さに韓国の練習生たちが思わず顔を上げる場面が映っている。
更にはダンスも高いレベルで踊れることが判明した。自らアピールしている「オールラウンダー」に少しの偽りもなかったのだ。
自然と、画面の中にケイタが映ると目で追うようになった。

更に、こんな場面もあった。

オールスターランクに選ばれたものの、ダンスが苦手で落ち込むジェイに、ケイタは振り付けを教えてあげている。
ジェイが自信を持てるように励まし、再評価でジェイがオールスターを獲得すると、我が事のように一緒に喜ぶ。
全員がライバルのオーディション番組では、他の人を助けることは〝敵に塩を送る〟行為になりかねない。
それでも躊躇なく他人に手を差し伸べる優しいケイタに感銘を受けた。

そして三週目、私はケイタに完落ちする。

三週目のミッションは「グループバトル」。
KグループとGグループそれぞれ7人ずつでグループを組み、同じ曲で対決をする課題だ。
ただ、辞退者が出てKグループとGグループの人数が異なるため、BLACKPINK『Kill This Love』をカバーするチームだけは、Kグループ5人、Gグループ6人となる。
ケイタはこの縛りを上手く活用してみせた。

グループを組む方法は指名制。
番組が始まる前にYouTubeで公開されたチッケム(大勢パフォーマンスをする中で一人だけをクローズアップした映像。推しカメラ)の再生回数が多かった人から、好きな練習生を選べる方式だった。
当然、人気も実力も上位の練習生から選ばれてゆく。

ケイタに指名権が回ってきたのは、Kグループ2組、Gグループ1組がチームを組み終えた時だった。
ケイタは残っているGグループの実力者たちを次々と呼んでいき、チームが自分を含め6人になったところでニヤリと笑いながら「(選択は)終わりました」と言った。
この時点で自動的に曲は『Kill This Love』に決定。
既に選ばれているKグループの練習生14人は、他の曲をカバーするため、有力な練習生との対決を避けられる。確実に勝つための戦略だった。
会場をざわつかせ、ベロを出しながらいたずらっぽく笑うケイタに痺れた。

しかもBLACKPINKはケイタが元いた事務所、YG所属のアイドルである。
自分をデビューメンバーに選ばなかった事務所の曲をあえて選ぶ果敢さにも好感を持った。

そして迎えた本番。
真っ赤に染まったステージでケイタはまず「22 in your area」と高らかに言い放った。
22とはメンバー全員で獲った星の数である。
ケイタ、マシュー、ジャンハオ、ワンツーハオ(オールスター 4×4=16)
クァンルイ、ミン(スリースター 3×2=6)の計22個。
つまり、「実力者だらけのメンツだから覚悟しろよ」というメッセージだ。
この意味を知ったときは震えた。

ケイタはメンバー内投票でキリングパート担当に選ばれた。
(キリングパート…曲の中で重要だったり美味しい箇所。≒センター)
誰よりも長い尺の見せ場を、気持ちのいいところでアクセントを打つラップと多彩な表情で魅力的に表現してみせた。
普段の可愛らしい雰囲気とはガラリと変わった覇気のあるパフォーマンスに会場は大いに沸いた。

Kグループ対Gグループの勝敗は、観客の投票で決まる。
韓国の会場で、韓国人の観客が圧倒的に多い、Gグループには極めて不利な状況だった。
他のチームは軒並みKグループに負けてしまうが、ケイタ率いる『Kill This Love』Gチームだけは、見事に勝利した。

この放送以降、私は毎日ケイタに投票することになる。

~後編へ続く~

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