呪い

僕は社会人になって8年目になる。高校を卒業してすぐに働きはじめて、自分でもそんなに働いていたのか、と少し驚きがある。

僕のこれまでの社会人人生は、社会人人生と言っていいほどはまだ長くはないけれど、順風満帆ではなかった。

実際僕は未熟だった。新人として配属されて、コミュニケーションもうまく取れず、ミスもした。それは、働きはじめてすぐの学生がする程度のかわいらしい範疇ではあったとは思うのだけれど、僕は非難の対象になった。

周囲の人に手酷く非難され、それを見た人が更に僕を非難する。僕はなんとかしようと頑張るけれど、それでも空回りばかりして状況は改善しない。そのうち、何がいいことで何がいけないことなのか分からなくなった。完全に負のスパイラルに入っていた。

そんな中で言われる言葉は、僕の尊厳を酷く傷つけた。『お前はなんにもできない』『本当にお前はダメなやつだ』それは呪詛のように僕を蝕んだ。最初はそんなことはないと、思えていたのだけれど、うまくいかない状況が繰り返される度に『自分はダメなやつだ』という思い込みが強化されていった。

そんな状況が数年経って、もともとの我慢強さもありしぶとく頑張り続けていた僕は、部署が変わり、不遇な扱いを受けることも無くなった。そして不当に脅かされることもなく、日々を過ごしていたのだけれど、『自分はダメなやつだ』という思い込みからは解放されずにずっと苦しみを抱えていた。

これは『呪い』なんだと、感じる。言葉は『呪い』だ。これはそもそも一例に過ぎなくて、別に仕事に限った話じゃなく、『親』から『友人』から『先輩』から関わる人全てから、僕達は『呪い』を受けているし、僕達は『呪い』を発している。

『呪い』に対して自覚的になるべきで、自分は他人にどんな呪いをかけているのか、自分はどんな呪いを受けてきたのか、『呪い』は思い込みであって真実じゃない。

真実じゃないから、ひとつひとつ事実と照らし合わせて、思い込みから解放してやらないと、一生みじめで悲しい思いを抱えたまま過ごすことになる。また、自分の傷を見つめ直し呪いをかけられた自分に自覚的になることで、他人に対して思いやりの心を持つことができようになると思う。他人を自分の思い込みによって呪ってしまうこともまた、有り得るのだから。