チャイルドシート

チャイルドシートは子どもを事故から守るためなどの目的で使用されるものです. 以前はチャイルドシートの着用は自由でしたが, 法律がかわって2000年に義務化されました.
チャイルドシートは子どもが守ってくれ, かつ義務にもかかわらず実際には着用せずに子どもが乗車していることも少なくないようです.
そこには色々事情はあると思いますが, 使用した場合のメリットの大きさから考えるとチャイルドシートは絶対に着用すべきです.
今回はチャイルドシートについて簡単に述べています.

はじめに

チャイルドシートは「体格が小さいために座席ベルトを適切に使用できない子どもを自動車乗車中の事故から守るための, 座席ベルトに代わる乗員保護装置」です(神奈川県警HP チャイルドシートQ&Aから引用)(*)
シートベルトは適切な着用をすることで十分な効果を発揮します. 従って, シートベルトが適切に使用できない子どもに着用した場合に効果が得られない可能性が考えられます.
自動車事故が起こったときに子どもを事故から守る目的でチャイルドシートは使用されます.

*1  神奈川県警 チャイルドシートQ&A


現在の使用率と最近の使用率の推移

ではチャイルドシートはどの程度使用されているでしょうか.
警察庁とJAFで毎年全国調査を行なっており, 現在公表されている最も新しい情報は「2018年チャイルドシート使用状況全国調査」になります. こちらのデータはウェブサイトでも掲載されておりみることができます(*2)
それによる 6歳未満でのチャイルドシートの使用率は66.2%と決して高くありませんでした. 17.3%が車両シートにそのまま着座, 6.3%が大人用シートベルト着用という状況でした.
また使用率の推移でみると, 年々使用率は高まってはいますが, その上昇はわずかであり横ばいに近い状況ともいえます.
もちろんこの調査ですべてを把握できているわけではないと思われますが, チャイルドシートが使用されていないケースは少なからずあることが推定されます.

*2  2018年チャイルドシート使用状況全国調査. 警察庁・日本自動車連盟(JAF)


チャイルドシートの着用は義務

道路交通法の改正により2000年(平成12年)4月に6歳未満の小児において, 一般乗用車のチャイルドシート着用が義務化されました(*3).
じゃあチャイルドシートの着用は義務だから使用するのかといえば, それはもちろん違います. チャイルドシートは子どもを事故から守る目的で使用します.
ただしチャイルドシートは一部で義務が免除されています. いくつか例はありますが,
・タクシーやバスに乗車する場合
・授乳中やおむつ交換中の場合
・子どもがけがをしていて, チャイルドシートを使うのが困難な場合
などが挙げられます.
ではこういった免除される理由があるのなら, 本当に必要なのかと思われる場合もあるかもしれません. ただこれはあくまで法律上の問題であって, 実際に着用することの必要性とは関係なく, 別の問題です.

*3  道路交通法


チャイルドシートの効果

チャイルドシートは実際には効果はあるのでしょうか?
チャイルドシートについてはいくつか研究が行われていますが, それをまとめたものがアメリカ疾病予防管理センター (CDC)で紹介されています(*4)

主な効果としては以下の通りです:
・チャイルドシートの使用は, シートベルト単独と比べて, 交通事故によるけがのリスクを71-82%減らす
・4-8歳でのシート(いわゆるジュニアシート)の使用は, シートベルト単独と比べて, 重篤なけがのリスクを45%減らす
 従ってチャイルドシートは事故に遭遇した際の問題を小さくしてくれることが十分に期待できそうです.

またチャイルドシートの使用などについては米国小児科学会でも指針が発表されており, 2018年に最新版が公表されています(*5).
その指針でもチャイルドシートは使用すべきであることが述べられています.

*4  CDC. Child Passenger Safety: Get the Facts
*5  Child Passenger Safety. Pediatrics. 2018; 142(5): e20182460


チャイルドシートが着用されない理由の考察

チャイルドシートが使用されない理由はいくつかあると思いますが, 主に考えられるものとしては
・コスト
・子供がいやがる
・事故のリスクの軽視
が挙げられるかと思います.

<コスト>
子どもがいるといろいろお金がかかる. チャイルドシートを買うタイミングの多くは出生前. その時にはいろいろお金がかかるため, 少しでもその負担を減らしたいと思うかもしれない

<子どもがいやがる>
チャイルドシートは行動を制限するものですから, 着用することは子どもにとっては決していい気分はしないかもしれません.
年齢にもよりますが, 乳児なら機嫌を悪くして泣いてしまったりすることもあるでしょうし, また年齢が上がってくると自分で外してしまうこともあるかもしれません.
少しくらいなら大丈夫でしょ?と思うかもしれません. 確かに時間が短いほど事故に遭遇するリスクは下がるとは思いますが, リスクが0になるわけではないので, やはり短時間でも着用すべきです.
もちろん「そんなことわかっているけど!」という思われる方は多いと思いますし, それは重々承知はしていますが, それでもあえてここでは再確認の意味で触れました.

<事故のリスクの軽視>
運転している限り, 自動車事故のリスクは0にはなりませんので, 必然的に事故が発生した場合のリスクについて考える必要があります.
事故は大きな問題となることは印象としてもちろんあると思いますが, 実際には体験したことない人が多いと思いますので, そういった意味ではイメージしづらいかもしれません. そういった理由で事故そのものを軽視してしまう可能性はあると思います.
また, 事故が発生した場合に子どもに起こる問題を軽視してしまう可能性もあると思います. 具体的にはしっかり抱っこしていれば大丈夫だろうという, という考えです. その事故の程度によってもちろん変わってくると思いますが, 事故の衝撃は非常に強いものですので, 抱っこなどのチャイルドシートに変わる方法で本当に大丈夫という保証はありません. 従って, チャイルドシートに替わる方法を用いることは好ましいとはいえないでしょう.
また昔は使用していなかったけど大丈夫だったから大丈夫, という意見もあるかもしれません. ただ, 実際に本当に昔が安全だったと言えませんし, 上述の通りの効果があることが示されていますので, やはりチャイルドシートはしていた方がよさそうです.


小さいうちは後ろ向きに?

チャイルドシートは新生児期から使用すべきです.
チャイルドシートを使い始めた特に小さいころは後ろ向きに設置するように勧められています. これは後ろ向きの方が前向きよりも有利な点があるためです.
・後ろ向きの場合, 事故の衝撃はチャイルドシートの硬い部分で吸収されるため, 体の弱い部分の多くを保護されやすくなる
・前向きの場合, 体はハーネスで支えられるものの, 頭は特に保護されていない. 子供はバランス的に頭が大きく重たいため, 事故により前向きに放り出されることで頭や背骨に傷害を受けやすい.

実際に前向きと後ろ向きでの効果の違いを比較した研究が行われ, 2007年に発表されてましたが, その後再分析が行われて撤回されました.
それらの結果としては, 後ろ向きの方が前向きよりも安全かもしれないが, 何とも言えない, というようなものでした.

ただ, 事故によるリスクを軽くする目的で後ろ向きの効果が否定されたわけではなく, また上述の米国小児科学会の指針でも「なるべく長い期間後ろ向きにした方がよい」という旨の内容になっています(*5).

確かになるべくなら子供の顔が見えるようになった方が良さそうな印象を受けるかもしれません. また子供にとっても顔が前向きになることで他の人々が見えた方が機嫌が良い, あるいは安心するかもしれません.
ただこれまでも述べた通り, 安全面を重視した方がよいと思われますので, しばらくの間は後ろ向きを続けた方がよいと思われます.


さいごに

チャイルドシートにおいては, 優先的に考えることは効果と安全性です.
効果については上述の通り, 事故に遭遇した際の問題を小さくしてくれる可能性が十分あります. また安全性については今回は触れていませんが, 適正に使用すれば安全性はとても高いです.
もちろん, 使用しないという理由も色々あるでしょうが, やはり優先順位で考えれば使用することが極めて望ましいのではないでしょうか.

*2019/2/25: 公開
*2019/7/26: 文章を一部改訂, 参考文献5を追加, 「小さいうちは後ろ向きに?」を追加

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