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小児におけるオゼックス (工事中)

(この内容はまだ工事中です)

オゼックスはトスフロキサシンという抗菌薬(抗生物質[●注1])の商品名です. 現時点では, 小児で唯一使用できる内服のニューキノロン系抗菌薬であり, 幅広く処方されているようです. ただ実際には必要な場面は限られているため, 適切ではない処方は少なくないと考えられます.
アメリカでは発売されていないことも関係しているのか, 

ここではオゼックスについて, 簡単にではありますがまとめてみることにします.

●注1: 抗菌薬(抗生物質)
「抗菌薬」は一般的には「抗生物質」や「抗生剤」と呼ばれるものとほぼ同じものになります.
ただし, 抗生物質・抗生剤は「微生物が産生し, ほかの微生物の発育を阻害する物質」であるのに対して, ニューキノロン系が人工的に合成されたものなので, 厳密には抗生物質・抗生剤ではありません.
一般的にイメージされている抗生物質・抗生剤には含まれるとは思いますが, ここでは基本的に「抗菌薬」という名称のみで記載しています.

どのような感染症に使われるか

小児で用いられるオゼックスには細粒(粉薬)と錠剤がありますが, いずれの添付文書でも適応症としては肺炎, コレラ, 中耳炎, 炭疽が記載されています. ただしコレラと炭疽は一般ではまずみることのない疾患ですので, 一般的では肺炎と中耳炎で使用される可能性がある抗菌薬と言えます.

余談ですが, 成人で使用する錠剤では他にも多くの適応症として記載されています.

肺炎

肺炎は小児においてよくみられる呼吸器疾患で, そのうちで感染症による肺炎が多くを占めます.
様々な細菌やウイルスが肺炎を引き起こす可能性がありますが, オゼックスが必要となるのは主にマイコプラズマ肺炎が疑われるケースです.

マイコプラズマ肺炎は一般的な細菌性肺炎で第1選択で用いられるペニシリン系の抗菌薬は無効で, マクロライド系, テトラサイクリン系, ニューキノロン系抗菌薬が有効であることが知られています.
(実際に, マイコプラズマ肺炎で抗菌薬治療が本当に有効かどうかは, 実は難しいのですがここではその話は置いておきます)

有効であればどの抗菌薬も好きに使用してよいわけではありません. それぞれの抗菌薬の性質なども考慮してより選択すべき優先順位があります.
日本小児科学会から2013年に出された「小児肺炎マイコプラズマ肺炎の診断と治療に関する考え方」(*1), 日本小児呼吸器学会・日本小児感染症学会から2017年に出された「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017」(*2)および米国小児科学会から2011年に出された3歳以上での市中肺炎の管理に関するガイドライン(*3)では, いずれもマクロライド系が第1選択薬とされています.

オゼックスがマクロライド系よりも優先度が低い理由は, オゼックスは幅広い菌に効果を示し, より耐性菌が生まれることの問題を抱えていることが挙げられます. また後述しますが副作用も理由として挙げられます.

時々マイコプラズマがマクロライド耐性(マクロライド系が効かない)を有することがあります. そういった場合にはオゼックスは有効な選択肢の一つとなりえます.
ただし, 小児のマイコプラズマによる肺炎を対象とした研究では, オゼックスは発熱期間を短縮させなかった可能性が示唆されており, オゼックスが有効な手段かどうかについてはさらなる検討が必要かもしれません(*4).
また抗菌薬治療の開始時から耐性菌であるかどうかはわかりませんので, 抗菌薬治療の最初からオゼックスを使用するという選択にはなりません.
また, マクロライド系抗菌薬にアレルギーがある場合もオゼックスは有効な選択肢の一つとなりえます. 従って明らかにアレルギーがあることがわかっている場合には, 特に8歳未満ではオゼックスが選択される可能性はあるでしょう.

ちなみに, 頻度は下がりますが肺炎クラミジア(Chlamydophilia pneumoniae)による肺炎でもオゼックスは選択肢となりえますが, やはり第1選択はマクロライド系になります.

以上をまとめると, マクロライド系抗菌薬にアレルギーがある場合を除いて, 肺炎の診断で最初から使用するということは基本的にはありません.

<参考文献>
*1: 小児肺炎マイコプラズマ肺炎の診断と治療に関する考え方. 日本小児科学会, 2013年2月19日公表
*2: 小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会作成. 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017
*3: The management of community-acquired pneumonia in infants and children older than 3 months of age: clinical practice guidelines by the Pediatric Infectious Diseases Society and the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2011 Oct;53(7):e25-76
*4: Therapeutic efficacy of azithromycin, clarithromycin, minocycline and tosufloxacin against macrolide-resistant and macrolide-sensitive Mycoplasma pneumoniae pneumonia in pediatric patients. PLoS One. 2017 Mar 13;12(3):e0173635


急性中耳炎

急性中耳炎は小児でよくみられる感染症であり, 抗菌薬治療が対象となる感染症のなかでも頻度の高い感染症の1つです.

急性中耳炎では抗菌薬が必要となった場合, どのような抗菌薬が用いられるのでしょうか. 「小児急性中耳炎診療ガイドライン 2018年版」(*5)ではペニシリン系抗菌薬であるアモキシシリン(商品名: サワシリン, ワイドシリン, パセトシン)が第1選択薬として挙げられています.
そのガイドラインにおいて, オゼックスは「他の経口抗菌薬による治療効果が期待できない症例に限って使用するべきである」と記載されています.
少なくとも, 急性中耳炎に関しても, 最初の診断で最初から使用するということは基本的にはありません.

ではどのような場合に急性中耳炎でオゼックスが用いられるでしょうか. 大雑把に必要な場面を考えれば
・クラバモックスでも改善しない
・中耳液の培養で感受性が確認されている
を満たすときに選択肢に挙げられるかもしれません. ただこの状況はあまり多くないと思います.


よくわからない発熱

適切な使用には「適切な診断」が不可欠です. よって診断がない場合には適切ではない可能性がより高いと思われます.
確かに全身状態が悪く. 細菌性が少しでも考えられる状況では抗菌薬投与を行いますが, その場合にオゼックスが選択されることはありません.


副作用

オゼックスはその他のニューキノロン系と比べて
・重篤な血小板減少
・腎炎
のリスクが高い可能性が指摘されているため, 使用する場合でもこの点を頭において使用することになります(*5).
(もちろん「必要」な場合には投与します)クラビット(レボフロキサシン)より高い血小板減少の頻度ですかね. 日本の市販後調査での頻度は3.6%と報告されています.

<参考文献>
*5  History of quinolones and their side effects. Chemotherapy. 2001;47 Suppl 3:3-8

まとめ


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