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手足口病 Q&A

手足口病は主に小児期でみられる夏に流行する感染症です.
比較的流行しやすくよく知られた感染症ですが, 2008年秋にフィンランドでコクサッキーウイルスA6による手足口病の流行が起こり, その後2009年にかけて世界中で流行したあとから, 以前と原因ウイルスの状況が変わってきました.
またそれによって症状も従来のものから若干違いが出てきています.
そのあたりも留意した上でQ&Aを作成しました.

*注: 年によって流行するウイルスのタイプは異なるため, 2021年はどのようなウイルスのタイプが流行するかは予測は難しいです.

手足口病はどのような病気ですか

 手足口病は手・足・口などに特徴的な発疹が出現するウイルス感染症です.


手足口病はどのようなウイルスが原因ですか

 原因となるウイルスは何種類かあります. 従来はコクサッキーウイルスA16 (CA16)やエンテロウイルス71 (EV71)が主な原因ウイルスでしたが, 近年ではコクサッキーウイルスA6 (CA6)やコクサッキーウイルスA10 (CA10)も重要な原因ウイルスとなっています(*1, 2, 3).

ここ数年では
・2015-2017年, 2019年: CA6が主な原因ウイルス
・2018年: CA16が主な原因ウイルス
であった可能性が国立感染症研究所のデータから示唆されています.
2021年以降はどのようなウイルスが流行するかはわからないです.

*1  Coxsackievirus A6 and Hand, Foot, and Mouth Disease, Finland. Emerg Infect Dis 2009; 15(9): 1485-8
*2  Coxsackievirus A6: a new emerging pathogen causing hand, foot and mouth disease outbreaks worldwide. Expert Rev Anti Infect Ther 2015; 13(9): 1061-71
*3  国立感染症研究所 ISAR夏の疾患(ヘルパンギーナ/手足口病他)


いつごろ流行しますか

手足口病は1年中みられる可能性がありますが, 主にに流行する傾向があります.
ただし, 時に地域的にそれ以外の時期で流行することはあります.


どのような症状が特徴的ですか

 手足口病の名前のとおり, 手・足・口に赤い発疹や水疱がみられるのが特徴的です.
 手・足には小さくて赤い発疹や水疱がいくつもみられますが, 手のひらや足のうらにそういった発疹がみられることが特徴的です(手のひらや足の裏に発疹がみられる病気の種類は少ない).
 発疹は通常痛みやかゆみはみられませんが, 時に痛みやかゆみを伴うこともあります.
 口の中では, のどに小さな発疹が数個でき水疱を形成します. また痛みを伴うため, 飲んだり食べたりが難しくなることがあります.


手・足・口以外にも発疹がみられることはありますか

従来は手足口以外だとあまり発疹はみられず, おしりなどに一部みられることがある程度でした.
近年みられやすい手足口病では手足の広い範囲や, お腹・背中・おしりなど広範囲にみられやすいことが知られています.
またアトピー性皮膚炎のある児では重症化しやすいことが報告されている(*4)ほか, 皮膚炎の皮膚症状があるところに手足口病の発疹がまとまってみられることがあることも報告されています(*5).

*4  Atypical hand, foot, and mouth disease: a vesiculobullous eruption caused by Coxsacike virus A6. Lancet Infect Dis. 2014; 14(1): 83-6
*5  Atypical hand-foot-and-mouth disease associated with coxsackievirus A6 infection. J Am Acad Dermatol 2013; 69(5): 736-41


発疹以外にどのような症状がみられることがありますか

手足口病では発熱を伴うこともあります.
従来知られていた手足口病では発熱はないかあっても微熱程度のことが多かったです.
ただ近年みられやすい手足口病では従来のものより高熱となる傾向があり(*4), 2-3日間の高熱がみられることも少なくないようです.

発熱以外ではかぜ症状や機嫌が悪いといった症状がみられることがあります.

また近年のタイプでは従来よりも回復後に爪の脱落がみられやすいことも知られています.
台湾からの報告では近年のタイプの主な原因であるCA6では37%でみられたとしています(CA以外のものでは5%)(*8).
また日本からの報告でも回復の爪の脱落がみられやすいことが示唆されています(*9).

*8  An outbreak of coxsackievirus A6 hand, foot, and mouth disease associated with onychomadesis in Taiwan, 2010. BMC Infect Dis 2011; 11: 346
*9  2013年に流行した手足口病の疫学的・臨床的特徴; 日本小児科学会雑誌 2015; 8: 1219-25



どのような合併症が知られていますか

一般的になりやすく注意すべき合併症は脱水です. これは喉の痛みなどで水分がとれないことで起こります.
そのほか, 少ないものの重要な合併症としては髄膜炎や脳炎などの中枢神経系の合併症があります. 
特にEV71と呼ばれるウイルスでは中枢神経系の合併症を引き起こしやすいことが知られています. またEV71が原因として多かった時期を対象とした日本での研究では, 5歳以上と比べて5歳未満の小児で中枢神経系の合併症のリスクが上昇していたことが報告されています(*6).

*6  Nationwide Survey of Pediatric Inpatients With Hand, Foot, and Mouth Disease, Herpangina, and Associated Complications During an Epidemic Period in Japan: Estimated Number of Hospitalized Patients and Factors Associated With Severe Cases. J Epidemiol. 2018 Nov 10


どのように診断されますか

手足口病は特徴的な手・足・口の発疹から診断されます.
手足口病の原因となるウイルスを調べる検査は一般の医療機関では行うことはできません.


どのような治療が行われますか

手足口病に対する特別な治療はありません.
喉が痛いなどで食事・水分がとれなくなることがあり, 症状が強いと脱水となってしまうことがあります. そのため水分摂取に注意しつつ, 必要に応じて点滴が行われることはあります.
また, 血液検査では細菌感染症でみられるような白血球数やCRP値の上昇がみられることがあります. そういった症例では普段よりも抗生剤が投与されやすいことが指摘されていますが(*7), 手足口病はウイルスが原因なので効果はありません.

*7  Understanding physician antibiotic prescribing behavior for children with enterovirus infection. PLoS ONE. 2018; 13(9): 1-12


いつになったら保育園や幼稚園に行ってもよいですか?

手足口病はインフルエンザやおたふくかぜなどのような明確な出席停止の基準は定められていません.

手足口病の登園のめやすに関しては厚生労働省が発表している保育所における感染症対策ガイドライン 2018年改訂版 (PDFファイル)に記載されている内容が参考になります.
そこでは発熱や口腔内の水疱・潰瘍の影響がなく, 普段の食事がとれることとされています.

手足口病では回復後も飛沫や鼻汁からは1~2週間, 便からは数週~数か月間ウイルスが排出され, この期間中は感染させる可能性があります.
その期間を出席停止にすることは現実的ではなく, また手足口病にかかった児が登園を控えることは感染防止の方法としては有効性は低いため上記のような目安が設定されています.
従って, 登園が許可された場合でも人にうつす可能性あるといった意識をもって対応することが大事になります.


<更新履歴>
2019/5/6: 公開
2019/5/6: 症状で"爪の脱落"についての内容を追記(参考文献8, 9追加)

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