伝染性紅斑 (りんご病) Q&A

伝染性紅斑(りんご病)はどのような病気でしょうか?

伝染性紅斑(りんご病)はヒトパルボウイルスB19と呼ばれるウイルスによって引き起こされる, 主に小児でみられる発疹性の感染症です.


何歳ごろにかかりやすいでしょうか?

幼児から学童期にかかりやすいことが知られています.
2019年の報告では5歳に発症のピークがみられ, 7歳以下の小児が全報告数の約80%を占めていました(*1).

*1  IDWR 2019年第14号<注目すべき感染症>伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19感染症)


どのような発疹がみられるのでしょうか?

主な発疹としては顔にみられる発疹と, 手足や体(胸やお腹・背中)の発疹があります. 発疹には軽いかゆみを伴うことがあります.

まず感染してから平均して14-18日後に典型的な両頬の紅斑がみられます.

顔の発疹と同時, もしくはやや遅れて上肢に直径数mmから2cm程度ほどの紅斑が出現し, その後下肢にも発疹が出現します. 発疹は融合したあとに中心から退色するため, 伝染性紅斑で特徴的な網状もしくはレース状の発疹となります.
発疹は伸側でより目立ちやすいです. また通常, 手のひらや足底には発疹はみられません.
胸やお腹などにも発疹がみられますが, レース状となることは少ないです.

小児・成人ともに5%程度で典型的ではない発疹がみられることが報告されています(*4

発疹は7-10日程度で自然に消えていきます.

*2  日常診療に役立つ 小児感染症マニュアル2012
*3  Nelson Textbook of Pediatrics 20th edition.
*4  Atypical exanthems associated with Parvovirus B19 (B19V) infection in children and adults. J Med Virol. 2015; 87(11): 1981-4


発疹以外ではどのような症状がみられることがありますか?

発疹出現前と発疹出現時に, 様々な症状がみられることがあります.

発疹出現前
感染してから7-10日程度でウイルス血症が起こります. この時期には15-30%の症例で微熱がみられることがあります. また頭痛や咽頭痛, 倦怠感もみられることがあります.

発疹出現時
発疹出現時にも約25%の症例で微熱がみられることがあります(*6). 
また関節痛がみられることがありますが, 小児では少なく10%未満とされています(*5). 関節痛は成人の特に女性でみられやすいことが知られており, 発疹がなく関節痛のみがみられる場合もあります.
関節痛は小児では膝がもっとも起こりやすい場所ですが, 成人では膝や指など様々な関節で左右対称に起こりやすいです.

*5  RED BOOK 2015 Report of the Committee on Infectious Diseases
*6  Moffet's Pediatric Infectious Diseases. 9th edition


感染してしまったら必ず伝染性紅斑(りんご病)を発症してしまうのでしょうか?

約25%(報告によっては20-50%)の症例では症状がみられないことがあります. これを不顕性感染といいます.


どのように診断されるでしょうか?

通常は特徴的な症状や流行状況などから診断されます.
確実に判定するための方法として血液検査が用いられることはあります.


どのような治療が行われますか?

伝染性紅斑はヒトパルボウイルスB19と呼ばれるウイルスが原因ですので抗生剤は効果がありません.
またインフルエンザで用いられる様な抗ウイルス薬もありません.
したがって症状にあわせた治療が行われることはありますが, 通常は特に治療は不要です.


発疹がなくなった後に再び発疹が出てきました. またかかってしまったのでしょうか?

伝染性紅斑の発疹は自然に消失しますが, 時に短期間のうちに発疹が再出現することがあります.
具体的には2割弱の割合の患者で, 日光照射や運動, 機械的刺激, 入浴などにより発疹が再び出現することがあります. この症状は再び感染したわけではなく, 回復後の一時的な経過でみられるものです.(*2, 3)


伝染性紅斑(りんご病)に2回かかることはありますか?

免疫が正常の場合, 伝染性紅斑にかかると終生免疫が得られるため2回以上繰り返してかかることはありません.
2回以上同じ様な症状がみられる場合にはその他の診断を考える必要があると言えます.


伝染性紅斑(りんご病)と診断されました. 出席停止については特に案内されませんでしたが, いつから出席してよいでしょうか?

特徴的な発疹がみられ診断される時期には, 体からはほとんどウイルスは排泄されない状態となっています.
従ってヒトに感染させるおそれは低いと考えられ出席停止が感染拡大を防ぐ目的としては効果的ではないため, 全身状態良好であれば出席可と考えるのが一般的です.


他の人にうつしてしまいやすい時期はいつでしょうか?

前述の通り, 感染してから7-10日程度でウイルス血症が起こります. この時期には大量のウイルスが口腔内や唾液から排出されます.
ただしこの時期は特徴的な発疹がみられる前の時期であり, 発熱などの症状がみられたとしても伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19)が原因だとわかることはまずありません.

一方, 前述のとおり, 発疹が出現して伝染性紅斑と診断されるような時期にはウイルスは体内で大幅に減少しているため, 他の人に感染させる可能性はほとんどないと考えられています.


どのような人では特に注意が必要ですか?

ヒトパルボウイルスB19感染では, 通常は合併症は稀であり基本的は問題なく自然治癒します.
ただし溶血性貧血と呼ばれる病気がある人や妊娠している女性では特別な注意が必要です.

溶血性貧血のある人 (無形性発作)
遺伝性球状赤血球症などの慢性的な溶血性貧血がある人では無形性発作(aplastic crisis)と呼ばれる病気が引き起こされることがあります.
これは発熱や頭痛などがみられ, その後重症の貧血が起こるものです.
無形性発作では血小板減少や白血球減少といったその他の血球系の減少も伴うことがあります.
無形性発作は2週間以内には落ち着きますが, それまでの貧血の程度によっては経過中に赤血球輸血を必要となる場合があります.
また無形性発作中では体内のウイルス量がとても多い状態となっており特に感染性が高い状態となっています. そのため接する場合には注意が必要です.

妊娠している女性 (胎児水腫)
妊娠している女性に感染して, さらに胎児に感染が起こることがあります. この時に胎児に重度の貧血が起こり胎児水腫と呼ばれる重症な病気が引き起こされることがあります.
妊娠20週までで特にリスクは高いですが, 妊娠している女性で感染したからといってみんなが発症する訳ではありません.
ただし胎児水腫の死亡率は2-6%ともされており(*5), 油断ならない病気であることには変わりありません.
したがって妊娠している女性ではなるべく感染しないような方法をとったほうがよいかもしれません.


どのような予防方法がありますか?

上述のとおり, 伝染性紅斑と診断される前にもっとも人に感染させやすい状態となります. したがって感染している人を避けたり隔離したりする方法での感染防御は難しいです.
ウイルスに感染するリスクを下げる方法としては手洗いやマスクといった一般的な方法が提示されています(*5)ので, これらを普段から(特に流行期で子供と接触する様な機会がある場合には)徹底することが有効かもしれません.

またヒトパルボウイルスB19ではワクチンはありません. (余談ですが, イヌパルボウイルスではワクチンが存在し, 日常で用いられています.)

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