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「おもちゃの人形のような街、アイスランド」 アイスランド/2014.11

アイスランドの街並み。それは、多くの人々を魅了する。
初めてアイスランドを訪れる人は先ず、首都のレイキャビクに向かうだろう。そしてそれが昼間であろうが夜間であろうが、或いは冬場の真っ暗で強風が吹き荒れる日であろうとも、“人々は街に魅了される”のである。

私が初めてアイスランドの地に降り立った時、空港からレイキャビクに向かうバスの中だった。車窓から見ることができる風景、アイスランドの圧倒的な自然の存在に、私はただただ夢中になった。バスの窓に顔を張り付けて、外を貪り見ていた。レイキャビクのケプラヴィーク国際空港から一歩外に出ると、そこには自然がそのまま置かれた風景が広がっている。私と同じく前日のレイキャビク行きの飛行機に乗り遅れてしまい、一夜を空港で一緒に過ごしたアルゼンチン人の女の子も、アイスランドの自然に興奮していた。「今までに訪れた国とは全然違うわ。こんな風に感じるの、初めてよ」

有名なコンサートホールのハルパの前で、バスは停車した。着いたのは昼間だった。バス停前で知り合った台湾の留学生の男の子が、予約している宿まで荷物を運ぶのを手伝ってくれると言う。大きなスーツケースとバックパックを引きずるように歩き、二人でふうふう言いながら、何とか宿まで辿り着くことができた。ハルパから宿まではレイキャビクのメインストリートを抜けて、街のシンボルとも言えるハットルグリムス教会の裏手に出る。レイキャビクの街歩きの大部分を、これではかなり過ごしてしまったのではないだろうか。その時は大きな荷物を抱えて気持ちに余裕がなかった為に「ああ、写真で見ていたような素敵な街だな」程度にしか、感情が動かなかった。


しかし、日が暮れて外が暗くなった後に街に出ると、昼間とはがらりと違った街並みが目に飛び込んできた。その予想もしていなかった様変わりと、期待を超えた街のドラマチックな雰囲気に、私は一気に心を奪われてしまった。昼間の余雑は夜の闇に隠れたようだ。
食料品店、有名アウトドアブランドの店、大きな本屋、レコード店、静かな佇まいのカフェ、土産物屋、高級そうなレストラン、バー、スタンド式ホットドッグ店…。幅の小さな通りに並んだ建物は、どれもみな決して大きくはない。こぢんまりとした軒先からこぼれる温かな明かりが、とても懐かしく感じられた。凍てつく寒さだったけれど、私は街を歩かずにはいられなかった。夜の街の様子、それは子どもの頃に見た、デパートの大きなショーウィンドウのクリスマスの飾りに似ている。「まるで人形の街の中に、入り込んだみたい」そう、おもった。私は体の芯が冷えるまで、歩き続けた。

レイキャビクで開催の音楽フェスティバル、アイスランド・エアウェイブスが終わった後、私は予定していた友人と合流した。そしてレンタカーで、レイキャビクの外へ旅に出た。その中で出会った街、スティッキスホールムル。フィヨルド地方に向かうフェリーに乗船する為に立ち寄ったのだが、この街の港がとてもかわいらしいものだった。ほとんど人気がない港に留められた、小さくて彩り鮮やかなたくさんの船。北欧らしいカラフルな家屋に囲まれ、さらに背後には岩壁が高く立ち、海。完璧な程に、人形の街だ。フェリーが出港するまでの間、私は夢中になってカメラのシャッターを押した。カメラのファインダー越しに見える景色、それは絵本を読んでいるような感覚だった。「ここはレゴだ、おもちゃのレゴの街だよ!」私は友人に、そう言った。

イーサフィヨルズルの手前の風景でも、人形の街に出会う。フィヨルド地帯の山道を走って小さなトンネルを抜けると、突然目の前に美しい渓谷が現れた。谷間には曲がりくねる小川、それに架かかる簡素な橋。疎らに立った家屋と、遠くに見える大きくない集落。ここも正に、人形の街だ…。私は幼少の時に好きだった、シルバニアファミリーを思い出さずにはいられなかった。

首都から小さな街まで、アイスランドの街はたくさんの愛らしいもので溢れている。アイスランドの大自然が、これらの街の可愛らしさを一層引き出しているといえる。とにかくアイスランドの街は、間違いなく魅力的である。私もまたアイスランドの街に魅了された者の一人であることは、言うまでもない。


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