大阪の、おばちゃんの、パワーはものすごい。
それを確信したのは、スーパー銭湯のスチームサウナの中でだった。

去年の師走、クリスマス直前の土曜日の昼間に、私は近所のスーパー銭湯にいた。三連休初日の土曜日だったけれど、それほど混んではいなかったように思う。
ここは実家からとても近く、ゆっくり天然湯に浸かりたい時、体を休めたい時に行くことにしている。ここは天然湯の露天風呂が2種類にサウナも2種類あって、座敷の食事処もあるのだ。お風呂上がりには、このお食事何処で生ビールを飲む。最高だ。
そういう訳で私は日本の実家に滞在している時、日々の隙間を見つけては、このスーパー銭湯に足を運んでいる。

その日は普段は利用しない、スチームサウナに入ることにした。もう一方のサウナに比べるとこのスチームサウナは室内が6畳程であり、かなり小さい。その6畳程の空間の両側は腰掛、奥にはサウナの装置があって室内は暑くてスチームで視界が悪いという、かなり密な一室になっている。密な空間の上にほぼ満員ではあったが、なんとか一人分の空いている空間に腰を下ろした。
スチームの蒸気と熱気で、意識はだんだんと遠くなっていきそうである。このままここから外に出られなくなってしまったら、息絶えるまでには相当に悶え苦しむだろうなと想像したりする。
そんなことをぼんやりと考えている私の横で、ここの銭湯の常連らしい年配のおばちゃんたちの陽気なトークは繰り広げられていた。

「ここにはよく来られるんですか？」
「ええ。もう家のお風呂には、何年も入ってませんわ」

そっか、昼間によく来はる人なんかなー。

「やっぱりここの極楽湯ですか？」
「そうやね、〇〇の所もたまに行くけど、まあ、ここやねぇ」

ふうん、そうですかぁ。

「ほら、今の時期、お風呂場の中めっちゃ寒いでしょ？もう、うち、お風呂場は冷蔵庫として使ってますねん！」
「はあー、ああ、そおう」

へえー、そうなんだ。

「よっく冷えるからねー、冷蔵庫、要りませんわ！あっはははー！」
「そうですかぁ、いやぁー、あはははは！」
「おほほほほほほー！」

一体全体何なんだ、この会話は。
面白すぎでしょう、しかも、熱々でむわっとしたサウナの中で。
その状況で笑いを堪えるのは大変だったが、何とか声を上げて笑わずに済んだ。いや、顔の表情は微かに笑みを浮かべていたことだろうとおもう。
そんな楽しいおばちゃんたちを横目にして、私は先に、サウナの外へと出た。

「何なん、大阪のおばちゃん達、面白すぎるやろ。ほんま、何なん！」

大阪のおばちゃんの面白さを目の当たりにした私はそれとまた同時に、その3ヶ月前に見たニュースでの動画を思い出していた。

それは台風21号、名称はJebi(チェービー)の威力とその被害の大きさを伝える英国のBBCニュースでの記事だ。
記事ではこの台風が過去25年間で最も強い台風であることや死者が出ていること、関西空港の機能がストップしたことや各地での多大な被害を伝えている。
問題の動画は記事のトップに配置されているのだけど、その動画が、すごい。本当に本当に、すごい。
凄まじい破壊力で、こちらの観る側の心を突いてくるのだ。

何がすごいかのって、大阪のおばちゃんのトークが、だ。

「原付はあのバイクについていったん……」

………………、

「あーーーー！あほやいってよった……」
「横転やぁ～、うわぁ～……」
「いや、落ちる落ちる落ちる、いやあぁーーーーー」
「嘘やん…」

と、書き起こしてしまうと然程でもなさそうに見えるが、音声でこれを聞くと、びっくりたまげること間違いないといっても過言ではない位に、ものすごいのだ。
そしてこの発言の後ろで、ずっと「うお、うおーっ」と、絶妙なタイミングでリズミカルに「うおー」だけを発するおばちゃんの声。
このおばちゃん達のやり取りが面白すぎて、肝心の台風被害の情報は、私の中でその存在がニュースの記事から小さくなってしまっていた。
この動画を見たあとの感じ、それはまるで、漫才かコントを観ているようであった。

こんなふうに記事を取り上げると、死者をも出している被害の災害のニュースで何をいっているんだと怒る人もいるだろうなとは思うけれど、それはそれとして、この動画の面白さを感じてもらいたいとおもっている。

私はこの動画を見て、大袈裟にではなく、大阪のおばちゃんの底計り知れない力を感じた。サウナの一室で一緒になったおばちゃんも同様に、だ。
そこで私がおもうのは、この大阪のおばちゃんの破壊的な力には、いろいろな可能性を秘めているではないかと。
例えば、このサウナや動画のようなトークの勢いで、大勢のおばちゃんが政治や行政などに対する抗議行動を起こしたならば、それは相当な影響を、この社会に与えるのではないだろうかと想像する。
大阪のおばちゃんがどどどどっと目的に詰め寄り、その威力を発揮する。
ちらっとその様子を頭の中に思い浮かべると、ぞわっとしてしまう。
とても大きな原動力になるし、前述した通り、そのトークの破壊力ったら半端ないのだから…。

サウナで一緒になったおばちゃんたちが、銭湯に設置されているテレビで流れているようなワイドショーやニュース番組を観る代わりにインターネットを使いこなし、世界の報道機関が報じるニュースとかを見てくれたらな、と思わずにはいられない。

もしも、大阪のおばちゃんの波が国会議事堂前でデモを起こしたら、府庁に詰め寄ったならば…。

もう、そんなことになったら、すごいとしかいいようがない。
私は、そんなような風景を見てみたい。
事態がそのことで良くなろうが悪くなろうが、そういうことは問題じゃない。
カラカラ笑って面白い視点で物事を読み取り、明るく話す、大阪のおばちゃん。
そのエネルギーが一丸となったら、どうなるか。

大阪のおばちゃんのパワーを、未来に活かせたら、すごい。
私は、真面目にそうおもっている。