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韓国/栄州①/2017.06

韓国の地方の都市に行きたい。私は今まで、ソウルの外を旅したことがなかった。全てソウル市内の滞在で、外に行ったといえば、ソウルから日帰りで烏頭山統一展望台に行っただけだ。ソウル以外の都市といえば思い浮かぶものは釜山や済州くらいで、そのイメージはぼんやりとしている。韓国にはよく行くけれど、ソウルにしか行ったことがないという人は、意外と多いのではないか。
関西空港の出発ロビーでもらっておいた韓国の観光案内のパンフレットを参考にして、思案する。出発の前日ではあったが、駅の窓口で運良く電車のチケットを取ることができた。行き先は栄州(ヨンジュ)に決まった。
朝、宿のアパートメントを出てソウル駅に向かう。アパートメントの目の前がソウル駅だったので、徒歩の移動だけで駅に着いた。毎度の事だけれども、旅中に少しずつ買い込んだ食料が重たい。
人気の少ないプラットフォームからソウル発の観光列車、O-trainに乗り込む。観光列車といっても、人々の移動手段として普通に利用されているようである。ソウルから汾川(プンチョン)まで、約5時間の電車の旅だ。汾川からはV-trainという名のトロッコ電車に乗る。
旅程の半ばを過ぎると、最初の方から乗っていた乗客は殆ど降りていなくなり、車内はガラ空きに近い。途中で乗り合わせた韓国人の母娘と親しくなった。子どもに歌を歌ったり、一緒に遊んでくれる。韓国人は子どもに優しい。子どもにだけではなく、人に優しい。本当にみんな優しいのだ。これまでの韓国の旅で、何度も韓国人の優しさに出会った。何といえばいいか、韓国人の優しさは根っからずっとそこにある気質というか。韓国人の優しさに触れる度に、そんなようなことをおもう。
親しくなった母娘と別れ、程なくして電車は汾川に着いた。ここからは渓谷を走り抜けるトロッコ電車、V-trainに乗る。


V-trainの発車まで時間が少しあるので、駅周辺の散策に出た。駅周辺はちょっとした観光地になっている。何故だかこの汾川駅をサンタ村として打ち出しており、至るところにサンタクロースやトナカイの像などのクリスマスの装飾が設置されている。せっかくなので、私たちも他の観光客と同じように記念撮影などをする。この駅がフィンランドのサンタ村と関わりがありそうなものは見なかったが、まあいいやと思うことにした。路の端まで行ったところでトロッコ電車の中で食べる用にと、売店でチヂミを買う。後々考えるとかなり高い値段だったなと思うが、こういう事は旅ではよくありがちだ。観光地では仕方がないなとも思う。


韓国で、楽しい電車はないか。そのこともあって、旅の行き先を栄州に決めた。この汾川の時点で既に栄州は通り過ぎているが、V-trainに乗った後、折り返して栄州に戻ることが出来る。双方の乗り継ぎの間隔も程よい。
さていよいよ楽しみにしていたトロッコ電車、V-trainに乗車する。全席指定なので適当に座る訳にはいかない。乗ると、予想に反して車内は満席であった。前日にチケットを買えたことは、本当に運が良かったのかもしれない。トロッコ電車は汾川~鉄岩(チョラム)を約1時間で走行する。韓国のトロッコ電車は、どんな感じなんだろう。楽しみだな。


トロッコ電車は、定刻通りに汾川駅を発車した。緩やかなスピードでぐんぐんと山間を走る。季節は夏直前、トロッコ電車を楽しむには丁度良い気温だ。しかし冬場はえらく冷えるのか、車内にはストーブが設置されている。このトロッコ電車は韓国人にも人気があるらしく、かなりの人がツアーで訪れている様子だ。韓国語で何かしらの説明のアナウンスが流れる度に、乗客から歓声が上がる。時折、歌を歌う声が聞こえたりもする。とにかくみんな陽気で大変に楽しんでいる。こんなに盛り上がっていればこちらまでも、陽気な気分になってくる。やっぱり電車の旅はいいね。
汾川~鉄岩間の停車駅は3駅で、両元と承富では写真を撮ったりビールを買ったりした。これらの駅でも韓国人の陽気さに圧倒されながら、同じように楽しむに身を任せた。本当にみんな、楽しむことを全力で楽しんでいるなと感心する。同じ場所にいて気持ちがいいほどだった。


鉄岩駅に着くと、そこは思いの外に何もない場所だった。トロッコ電車に乗っていた乗客の殆どは、降りると同時に駅で待ち伏せしていたツアー用の観光バスに乗ってさっさと駅を立ち去って行った。小さな駅舎は売店と待合室があるだけだ。さてこれからどうするか、戻りの電車まではまだ時間がある。カフェでもないかと辺りを見回すが、何も無さそうだ。外は、小雨。荷物置いて一人で探索に出ることにした。まず、駅を出て右手側に行ってみる。歩いてぐるっと周れる程のこじんまりとした集落には、数軒の家屋と廃れた小さな団地風の建物があった。家屋には人が住んでいるが、建物の方はほぼ人の気配がない。しかし古い建物には壁画があったり、なかなか味のある場所だった。どうやらここは書いて文字のごとく、炭鉱で栄えた町らしい。駅の反対側に行くと線路にはそれらしき電車が置かれているし、かつては商店街だった場所を博物館にして炭鉱の歴史やら、いろいろな展示がなされている。寂れた商店街の建物をそのままに使っているし、アートとしても見応えがあって面白かった。しかし、誰もいない…。トロッコ電車に乗っていた人たちが、着いた場所には見向きもせずに立ち去るのだと思うと、少し悲しい。
鉄岩から戻りの電車に乗り、今日の最終目的地である栄州を目指す。トロッコ電車ではなくこれは通常の電車なので、ゆっくりと外を眺めなおす。工場からの排水なのか、川が汚れているのに気がついた。それもかなり濁っていた。トロッコ電車が走っていてハイキングも楽しめる場所なのに、残念だと思う。
栄州駅に着くと、もう日は暮れて外は暗くなり始めていた。WiFiが繋がっている駅前のカフェに入る。実は、まだ今夜の宿を予約していない。それでも栄州のホテルはいくつか調べていたので、栄州ホテルに決めた。本当は近くの温泉宿に泊まりたかったのだけれど、値段が高いので諦めたのだった。どこに行こうが、できれば温泉施設のある宿に泊まりたいといつも思う。
駅前のタクシー乗り場から栄州ホテルまでは、川を越えて約15分だった。早速チェックインを済ませて部屋に入り、重たい荷物を下ろす。値段の割には部屋は大きくて浴室も広い。ゆっくり過ごすことができそうだ。ほっと一息をつく。
荷を解いて息を整え、夕食を取りにホテルを出る。ホテルを出たところで、韓国人のおじさん三人組に声を掛けられた。子どもがかわいいねと言って、そして子どもに取ってくれと1万ウォンも差し出してくる。いいですとこちらが言っても、いいから持って行ってよ、と。断りきれなくて、ありがたくお金を受け取った。おじさんたちは陽気に笑いながら、車で立ち去った。なんだか夢みたいな出来事だったなと思う。
あっという間の出来事に圧倒された後、ホテルの近くの焼肉屋さんに入った。ここ栄州は、韓牛の名産地らしい。調べていたお店に食べに行く体力はなくなってしまったが、このお店もなかなか良さそうな感じだ。靴を脱いで座敷のテーブルにつかせてもらう。メニューはハングル表記のみ、英語も日本語もフランス語も通じない。壁に貼ってあるメニューの牛と豚の絵で注文をした。ハヌ?と、韓牛かどうかも聞く。身振り手振りで意思を伝えたのは、いつが最後だったかな。。言葉が通じなくてもどうにかはなるけれど、やっぱりメニューを読めるくらいにはなりたいなと思う。疲れて汗をかいた体に、ビールが染み込む。出てきたお肉は新鮮で、今まで食べた焼肉の中で一番においしい。菜っ葉に巻いて、好みで醬やキムチを乗せる。ビールと合わないわけがない。ばりばりといっぱい食べた。店員さんもとても感じがよく、素敵なお店に出会えたことが嬉しい。充実感いっぱいで、栄州の一日目は終わった。


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