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鳥屋野潟の娘の5400秒–ep.12–

飛び込んできたニュースに

その日は突然だった。クラブから、そのシーズンルーキーとして入団した選手が、急性白血病に罹患した、というニュースが発表された。

その次の試合は、FC東京とのアウェイの試合だったと思う。暑くなり始めた時期だった。突然のニュースに、それぞれが今、できることを考えた。ありったけの応援の言葉を記した横断幕。みんなでメッセージを書き込む。

有難いことに、相手チームも応援の横断幕を掲げてくれた。中継でその声を届けるべく、その選手の名前を叫ぶ。届け、そして、生きてみんなの前に戻ってきてほしい、そんなことを思った。

1210日の道のり

それからというもの、ホームゲームの度、選手たちは募金活動を行い、ベンチにはいつでも帰ってきてほしいという思いをこめて、彼のユニフォームを掲げた。サポーターも試合前に彼の名前を呼び続けた。

スポーツ選手というキャリアを歩み続けた矢先の病魔。どれほど本人が辛かっただろうか。度重なる治療に、抜け落ちていく髪、鍛えたはずの筋肉が衰え、体重は減少する。

クラブは彼との契約を凍結し、病気の克服を願った。サポーターは名前を呼び待ち続けた。病気から徐々に回復し、体力を取り戻す作業にかかっている様がクラブから発信されるたび、喜び、そして待ちわびた。ベテラン選手の引退試合において、少しだけ彼がピッチでプレーした際惜しみない拍手を送った。昨シーズン末には契約の復帰を宣言。ひたすらに練習する彼をみんなが見続けた。

そして、その日は訪れた。

8月17日ホーム山形戦。自らの努力とその実力で、彼はベンチ入りした。実に戻ってくるまで1210日の日が経っていた。

人生で起こる全てが必然、なんて、簡単に言えはしない。なぜ、こんな直向きな青年に病魔という難題を与えたのか、理解し得ない。それでも、自力で彼は生き残り、帰ってきた。みんながその姿を見つめ、暑いものが込み上げてきた。

意志あるところに道はあるか

全員の想いがこもった試合、これ以上上位に引き離される訳にもいかない試合、絶対に勝たねば、と誰もが思っていた試合は、思いもよらぬ方向へ。

前節もそうだったが、ジャッジが驚くほど偏っている。決して全てがジャッジのせいではないし、それも含めてフットボールだという人もいる。がしかし、全く試合がうまく回らない。イライラと思い通りにならないプレーに、空回りが続く。あっけなく失点を繰り返し、必要もないPKまで献上。リーグトップの得点力を誇っていたクラブが、2試合連続得点なしで負けている。

みんなの落胆ぶりが満ちるスタジアム。

簡単にいくわけない。勝負事も人生もまったくもって同じだ。今シーズンこそ昇格を目指している中の敗戦。痛すぎる。

どれだけ走ることができるか

どんなことがあろうとも、最後はやっぱり走り切れたチームが勝つと思っている。どんなにうまかろうが、きっと最後の最後はここだと思う。今回の試合は走りきれていなかった。最後まで、自分の責任でボールを追うことができたか。諦めなかったか。

これは自分にも言える。本気でボールを追うことができたか。

きっとそこで捉えたボールが誰かの希望になるはずだ。

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