続・下着のブランド問題

かつて、「下着のブランド問題」というnoteを投稿した。

「アラサーになったら、さすがに20代につけてたような下着のブランドは卒業しなければならないよね……」
という切実な悩みを投稿したら結構な人数の皆様にご覧いただいた(ありがとうございます!!)。


今回は、この件にまつわる続報を、淡々とお伝えしたいと思う。淡々と。努力する。

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昨年の話になるが、アウトレットに行く機会があった。
だいたいのアウトレットには、服だけでなく、靴やアクセサリーや時計など、ありとあらゆる「身につける」商品の店が軒を連ねている。そしてその中にはもちろん、下着の店もあった。

そう、着用するだけで胸のサイズが2カップアップすると評判(※身内調べ)のワ○ール直営店である。

私がかつて愛用していたショップは、ワコー○の末っ子的存在の若者ブランドの直営店だったが、こちらの○コールは違う。
若者から熟女まで、さまざまな年齢の乳房を(物理的に)受け止めてくれるあらゆるブランドを網羅している、真の直営店と言えよう。

おまけにここはアウトレット。
ここなら大丈夫だ。
きっと、大人の階段へと一歩を踏み出すための(※アラサー)、大人のブランドの下着が取り揃えてあるに違いない。

私は、店内の自らのサイズがならべてある壁へと直行した。
さすがというかなんというか、宝石でも扱うかのようにブラジャーを整えて陳列している通常店舗と異なり、アウトレット店は壁一面にハンガーにかけた下着をつるしている。かなりラフな雰囲気で、これなら高級品も手に取りやすい。

そして、私は何気なく手に取ったオトナな色気漂うブラの値札を二度見した。


四桁後半のン千円である。


え、あともう少し足したら、ポケモンウルトラサンムーンセット買える……(持ってるけど)。


そっ……と、ハンガーを壁にかけ直した。
やれやれ、まだまだレベルが足りなかったようだ。

***

その後、店内を目を皿のようにしてくまなく歩き回り、以前のブランドよりやや格上、ややお姉さんめ、お値段ほどほどのアイテムを何点か拾い出した。

さあ、試着である。

「すみません、試着いいですか?」
と声をかけると、「はいどうぞ~」と、ころころしたイメージの、感じのいい中年女性が笑顔で現れた。子どもが「おばちゃーん!」って、じゃれていきそうなタイプの人である。
これまで下着屋でこの手のタイプの店員さんに出会ったことがない。
しかし、ワ○ールの接客は全国共通。

「店員の手によって、正しく、下着を、つけさせる!!」

だ。むろん、おばちゃん(仮称)もこれまで下着屋で出会った女性店員たちと遜色ない、どころかやや上か? くらいの手際で、試着を手伝ってくれる。
さすがワコー○……と感嘆しながら、次の下着を身に付けるために一人になり、ふと鏡の横の壁に目を止めたそのときである。


『加齢と共に、えぐれ胸に!』


ぐわん!!

と、えぐれました。
いや、胸じゃないです。心です。

正直、本当にこう書いてあったかは覚えていない。だがしかし、現在の私の頭にはこの印象しか残っていない。
すなわち、婉曲的だろうがオブラートに包まれていようが、その貼り紙にかかれてあった情報はただ一つ、「あなたの胸、えぐれるよ」と、それだけなのだ。

なになになに、どゆことどゆこと!?と近づいて、よくよく読んでみた内容がこちらである。

ブラジャーの精とか、乳房の精とか、そういうのを想像しながら読んでいただくといいかもしれない。



「大きさ問わず、若いときは胸にボリュームがあるよ!」

「ニットを着たときに全方位にまんまるになる感じ、ほらあれあれ!」

「でも、そんな上乳は、年と共にだんだんとはりがなくなり、ボリュームがなくなり」

「端的にいうとえぐれるよ!」

「でもまぁみんなそうだからね! しょうがないね!」

「問題は、若い頃のブラをそのままつけ続けたときに起こるよ!」

「はりのあった頃の胸にはぴったりだったブラジャー、今つけると上の方が隙間が空いてカパカパしない? それ、えぐれてるってことだよ!」

「だから、えぐれ始めた胸にはえぐれたなりのブラがあるからね、ちゃんと年相応のブランドのブラをつけようね! ブランドはたくさんあるんだからさ、ねっ!」

「年相応のやつね!!」


なんてこった。

みなさま、聞いてください。若い子しかいない店で、ラブリーすぎるデザインの安い下着を買ってるアラサーはちょっとイタタ☆――そういう問題じゃなかったらしい。

色気のある大人っぽい下着はお高い。
それは、単にデザインや素材の問題ではなかった。
相応に加齢した胸のリカバリーをはかるために、○コールさんが研究に研究を重ねたその努力の結晶にお支払する、技術料だった…………!!

ちなみに、はりのある胸とえぐれた胸が同じブラをつけてる写真も掲載されていた。
その差は一目瞭然だ。
今更ながら、「ほしのあき3○歳の奇跡!」なんてほしのあきがもてはやされていた理由がわかった。

確かに彼女は奇跡の人だったのだ。

***

試着どうですか~?

とおばちゃんの声がして、ハッとした。
お願いします、と言うと、二重になったカーテンの奥から人好きする顔が現れた。
じゃあヒモの調整するねー、と肩紐をずらしてくれるおばちゃんに、件の貼り紙を指し示し、
「あの、あそこに書いてあるのって……」
とおそるおそる聞いてみる。
ふっと顔をあげたおばちゃんが、ああ、とうなづき、私に問う。

「何歳?」
「30歳です」
「じゃあまだ大丈夫!!」

じゃあって……と遠い目をする私に、おばちゃんはハハハと笑ってふくよかな体を見せつけた。

「私なんてえぐれるどころかすっかり垂れちゃったわよう!」

なるほど。
垂れるというのは、えぐれた後にやってくるイベントだったのですね。
また一つ知りたくもなかった事実を知って、私は当初とは違った方法で大人への階段を大股スキップしてしまいました。


***

おばちゃんにひきつった笑顔で会釈して、二重カーテンをピシリと整えつつ、私は心に決めたのだ。

歳を重ねるに従って、本当のことを言ってくれる人は少なくなる、と聞く。こんなに厳しい現実を突きつけてくれるワコー○さんに、これからもずっとついていこう……って。


サポートをご検討いただきありがとうございます! 主に息子のミルク代になります……笑。