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京都大学の大人気講義 稀代の名経営者たちは何を語るのか。

こんにちは。NVIC note編集チームです。

私たちは、京都大学で「企業価値創造と評価」と題する寄附講義を開設しています。

毎年、ユニークなビジネスモデルを持つ企業や新進気鋭のベンチャー企業の経営者を招き、これから社会に羽ばたいていく学生たちに向けて、企業の理念や自身の経験、経営哲学などを存分に語ってもらっています。

2014年から始めて今年で6年目を迎えていますが、評判が評判を呼び、いまや京大の大教室が一杯になり立ち見が出るほどの人気講義になっています。

前回はCIO奥野の思いからこの講義が生まれ、そしてどうやって講義の中身が決まっていったかをお話しました。

今回は、迎える本番へのドキドキ、そしてあの経営者の登壇にまつわるエピソードをお伝えしたいと思います。

稀代の名経営者への手紙
「若者たちに『価値』を伝えたい」

この講義を発想した当初から、奥野がとりわけご登壇いただきたいと思っていた経営者、それが日本電産の永守社長です。

従業員4人で自宅の納屋を改造して立ち上げた日本電産を40年ほどで1兆円企業へ成長させた稀代の名経営者です。そのスケールの大きな経営哲学と、ち密な経営手腕は、必ず学生たちの心を熱くたぎらせるはず、そう考えていました。

しかし、「元旦の午前中以外は364日働く」とまで言われた超多忙な永守社長に登壇いただくのはひと際難しいように感じられました。

川北教授が懇意にされているとある経営者の方の紹介で、永守社長の秘書にはお会いできることになりましたが、ご本人にはお会いできません。

奥野は渾身の想いを込めて、手紙を書きました。

毛筆でしたためられたその手紙の写しが、「礼儀正しく書くための手紙の書き方とマナー」なる本とともに手元に残っています(乱筆の奥野に代わって、部下の書道有段者K君が清書したのはここだけの秘密です)。
一部を抜粋します。

「この度、『企業価値創造と評価』と題した特別講義を開催することになり、世界を代表するモーター企業である貴社に同講義におけるスピーカーをお願いさせていただきたく~(中略)~次代を担う若者に貴社の経営哲学や「価値を創造するとはどういうことか」を伝えていただきたいと考えております。永守社長が創業期にモーターのサンプルを持ってスリーエム社に乗り込んでいかれた時のことなどを語ってほしいのです」

「我々の仕事は、優れた企業、経営者が長期的に行う価値創造を辛抱強くかつ冷徹に評価し、保有し続けることで投資家にリターンを返すことですが、本当に優れた企業様の姿を、この国の未来を担う若者たちに伝えることもまた、同様に重要な仕事であると考えております」

この手紙を永守社長がどう読まれたのかは分かりません。

しかし程なくして、永守社長ご登壇承諾の報せを受けました。
このプロジェクトに関わるメンバー全員がハイタッチで喜んだことは言うまでもありません。

こうして全ての登壇者が決まったのは2014年4月。
実はもう新学期を迎え、この講義が始まったタイミングでした。

講義の成功、そして講義は続く
「人材育成こそ最良の長期投資」

ギリギリのタイミングでプログラムが決まり、いよいよ講義が始まりました。最初の3回はガイダンスや川北教授の講義など、いわば従来通りの大学の講義です。

履修者はそれなりに多いと聞いていましたが、いざ企業経営者の講義にどれだけの学生が集まるか、ドキドキしながら5月15日のオムロン立石会長の講義を迎えました。

午前10時25分、講義開始5分前です。立石会長は控室から教室に入られ、すでに教壇の上でスタンバイされています。

学生はというと・・・まばらです。

数十名は席に付いているでしょうが、明らかに空席が目立ちます。時刻は間もなく10時30分になろうとしています。

「これでは折角登壇していただいた立石会長に申し訳ない」

関係者が天を仰いだその時、教室の入り口から雪崩を打ったように学生が流れ込んできました。

なんのことはない、授業開始ギリギリに教室に入るのも、教室の後ろの方から埋まっていくのも、私たちのころから変わらない学生の習性なのです。

少し遅れて入ってくる不届き者もいましたが、その学生たちはもう後ろに席はなく、しずしずと最前列に着席し、立石会長の語るオムロンの経営理念に耳を傾けていました。

授業が終わって出席表を集めてみると、220名以上の出席があったようです。質疑も途切れず、盛況のうちに授業は終了しました。

そして、迎えた5月29日、永守社長の講義です。

「なんで日本電産の株価が30倍になってるか分かるか?」

冒頭、バブル崩壊後株価が低迷する有名企業群と自社の株価チャートを並べて永守社長が問いかけました。

伏し目がちに何も言わない学生達を一瞥して、「君らみたいなエリートがうちには来ないからや」と言い放ったのです。
学生で溢れかえった教室の空気が一瞬にして永守社長に支配された瞬間でした。

その後も続く壮大なスケールの「永守節」に引き込まれていく学生たち、その心に永守社長の野心の火が燃え移るのを見ながら、この講義の成功を確信するとともに、もしかしたらこの中から将来世界を変える若者が出るかもしれない、そんな期待を持ちました。

その後も出席者の数は減らず、初年度全14回の講義は大成功に終わりました。

でも、1年で終わってしまっては意味がありません。
人材育成は長く継続することに意味があります。

初年度の成功、そして、名だたる経営者に出ていただけた「実績」のお陰で、2年目以降は随分とお願いに行きやすくはなりました。

でも、プログラム作りの苦労はあまり変わっていません。
毎年、秋ごろにはメンバー全員で集まって、翌春から始まる講義に登壇してもらう企業のアイデアを練ります。

「この前、決算説明会で聞いた〇〇社長の話はすごく勉強になった

「××って、たぶん学生は誰も知らないけど、すごく面白いビジネスモデルだよ」

「△△の社史の中の、あの経営判断、その背景の話が聞けたらいいなあ」

そんなことを議論しながら、初年度と同様、手紙を書いたり、知り合いの知り合いを探したり、あいかわらずのあの手この手でお願いをしています。

それでも今年で6年目、経営者の皆様にご理解をいただきながら、何とか講義を続けることができています。

【図表:過去の登壇者一覧】

このプロジェクトに携わっていると、時折うれしいことがあります。

私たちが投資している企業や過去の登壇企業、他の投資関連会社などで、「あの講義を聞いていまの会社を選びました」という若者に出会うことがあるのです。

彼らが価値創造の現場として選んだその会社で、新たな価値を生み出す人材に育ってくれることを願ってやみません。

「人材育成は最良の長期投資である。」

これはNVICの社是のひとつです。
これからもなるべく長く、この講義を続けていきたいと思っています。

「あれ?本物の『投資』を教えるはずだったのに、経営学の講義になってるんじゃないの?」

そんなことはありません。
経営者による「投資」の講義なのです。
そのこころは、次回、本講義のひとこまである奥野の授業を通じて、感じてもらいたいと考えています。

寄附講義の講義内容を、今後このnoteアカウントで少しずつ公開していきます。

各回の企業経営者の方々のリアルで現在進行系の経営の話を、学生との質疑応答まで、ライブ感溢れるほぼ全文書き起こしの形でお届けします。

ぜひ、お楽しみに。