見出し画像

京都大学での大人気講義はどうやって出来たのか? その舞台裏。

こんにちは。NVIC note編集チームです。

私たちは、京都大学で「企業価値創造と評価」と題する寄附講義を開設しています。

毎年、ユニークなビジネスモデルを持つ企業や新進気鋭のベンチャー企業の経営者を招き、これから社会に羽ばたいていく学生たちに向けて、企業の理念や自身の経験、経営哲学などを存分に語ってもらっています。

2014年から始めて今年で6年目を迎えていますが、評判が評判を呼び、いまや京大の大教室が一杯になり立ち見が出るほどの人気講義になっています。

なぜ、投資会社が大学で講義をするのか?
どうやって、毎年著名な経営者に登壇してもらっているのか?

今回は、この講義にかける私たちの思いと舞台裏をお伝えしたいと思います。

始まりは1通のメール
「京都大学を投資のメッカに」

この講義は、弊社のCIO奥野と京都大学の川北特認教授とタッグを組んで開設しています。

2013年に川北教授編著の下で出版された「市場ではなく企業を買う株式投資」(きんざい)。

みさき投資の中神社長(現在)やコモンズ投信の伊井社長など、日本を代表する長期投資家が参画した同著に、奥野も共著者の一人として名を連ねています。

日本株式市場の構造的な問題を指摘し、個別企業への「厳選投資」の重要性を訴えた同著の、その問題意識は本講義にも受け継がれています。

しかし、実は奥野と川北教授の出会いはこの本の出版の少し前にさかのぼります。

当時、NVICの前身である農中信託銀行の企業投資部長として、機関投資家向けに日本株長期厳選ファンドの助言を行っていた奥野は、日本で個別企業への投資があまりに理解されていない現実に直面していました。

「20社への集中投資?そんなリスクの高い投資できるわけないだろ」
「『売らない投資』って、売らないでどうやってリターンあげるの?」
「株式投資なんて、タイミングが全てでしょ。企業を選んでも仕方ないよ」

先進的な運用を行っているとされる年金基金でさえ、コンセプトやパフォーマンス実績を説明する以前に、門前払いに近い反応が多かったのです。

それでも20社を訪問すると3社くらいに「こういう面白いやつ待ってたんだよね」と言ってくださる担当者がいて、そういった方々のご支持を得ながら、一端のファンドとして相応の規模になってきた頃でした。

「日本人は、プロの投資家ですら株式投資を誤解している。若いうちに本当の投資を学ぶ機会がなければ、この国は世界の中でどんどん置いて行かれる」

そう考えた奥野は、若者へ投資教育を行う機会を模索しました。
でも、いちファンドマネジャーが「投資教育!」と勇んだところで、話を聞いてくれる人は多くないでしょう。

それに「本物の投資」を伝えるには、「価値を評価する」ファンドマネジャーだけでなく、「価値を創造する」企業経営者の話を聞かなければ、十分ではありません。

そんなことを考えていた奥野が知ったのが、日本生命で長らく投資に携わられ、アカデミックに転じてからは日本の株式市場、(全体としての)日本企業の問題を指摘し、優良企業を選んで投資をすることの重要性を訴えている、川北教授の存在でした。

自身も京大を出ている奥野は、京大生が持つ「東京とは違う、面白(おもろ)いことやるんや」という気位を良く知っていました。
また、千年の都があった「京都」というブランドの価値には、かねてから強い思いがありました。

「一緒にやるなら、この人しかいない」

そう感じた奥野は、早速、面識も何もない川北教授にメールを書きました。自身の投資哲学、長期厳選投資の取り組み、日本人の「投資」に対する認識不足、教育機会の重要性・・・長文に渡るメールはこんな言葉で締めくくられていました。

「一緒に、京都大学を本物の企業投資のメッカにしましょう!」

数日後、川北教授から返信がありました。
「面白(おもろ)いですね。一度会って話しましょう」

後の大人気講義、誕生の瞬間でした。

講義開設は決まったけれど
「社長って、どうやって呼ぶの?」

初めて会った奥野と川北教授でしたが、同じ問題意識を持ってきた者同士、すぐに意気投合し「一緒に特別講義をやろう」と盛り上がりました。

学生が「価値」について考え、それを創り出すこと、また評価することを、リアルに想像できるような講義。
彼らが社会に出た後も時折思い出し、自身の「価値」創造のヒントとなるような講義。

そんな講義にしたいと考え、社会に価値を創造する企業経営者、それも日本を代表するような一流経営者5~6人の講義を目玉に据え、価値評価を担う者としてのファンドマネジャー2~3名、その間のインベストメントチェーン構築を担う者としての政府機関やコンサルタント2~3名、川北教授含めたアカデミック2~3名というバランスで、全14回の講義を構成するアイデアを練りました。

農林中金グループ内を説得し、京大内での承認プロセスを終え、講義開催が決定しました。

講義タイトルは「企業価値創造と評価」に決まりました。2013年の暮れのことです。

でも、まだ肝心の登壇企業、経営者が決まっていません。

「投資家なんだから、ちょちょいと経営者にお願いできるんじゃないの?」

そう思われるかもしれません。
でも、多忙な経営者の予定を半日~1日いただくことになるのです。
そう簡単ではありません。

そもそも私たちは20社にしか投資をしていないので、投資先企業だけにお願いしていては、4年で講義が終わってしまいます。

それになによりも、株主に言われたから渋々出るのではなく、この講義の主旨に賛同して登壇してもらいたいと考えました。

そのためには経営者に直接、もしくはそれに近い立場の人にお会いして講義の主旨を訴える必要があります。考えた結果、初年度は「京都企業」に絞ってお願いをすることにしました。

地元なので話を聞いてもらいやすいだろうということもありますが、「進取の気性」を持つと言われる京都企業であれば、まだ実績もないこの講義であっても、「面白(おもろ)い」とさえ思ってもらえれば、出てもらえるのではないかと考えたのです。

それからは、京都商工会議所に掛け合ってみたり、知り合いの知り合いをたどったりと、あの手この手で経営者のアポを取り、一つずつお願いに回りました。

最初に登壇をご承諾いただいたのはオムロンの立石会長です。
講義の主旨に賛同くださり、快諾していただきました。

その後も堀場製作所の堀場会長兼社長、島津製作所の服部会長、ワコールの塚本社長(役職は当時のもの、以下同じ)と錚々たる企業経営者が登壇を決めてくださりました。

そして、ようやく講義本番へと話は進んでいきます。この続きは後編で。