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京大生 VS 奥野 【 京都大学特別講義から】

今回は、奥野の講義の最後に行われた学生との質疑応答をお届けします。

日本企業とアメリカ企業

質問者1:
NVICのホームページで投資パフォーマンスを示されていますが、その中で結構日本株ファンドの方がパフォーマンスが良いように見えたんですが、それはやはりアメリカ企業を分析したり、対話するのが難しくてなかなかいい企業を選ぶことが難しいということなのか、それとも、日本とアメリカのパフォーマンスは分けて考えるべきなのか、いかがでしょうか。

奥野:
まず事実を正確に知っていただきたいのですが、アメリカ株のパフォーマンスが悪いっていうことはないです。

相対的な話として日本とどうかって言われると日本の方が運用期間が長いですね。2007年からやっていて、累積では4倍くらいになっています。

アメリカ株は始めたのが2012年からなので1.7倍くらいだと思います。
僕らは時間とともに着々と上がっていく会社にしか投資しませんので、累積のパフォーマンスは時間に比例すると思っています。

日本とアメリカで経営者との対話のところで何かが違いがあるのかと言われると、完全にないとは言い切れないと思いますが、これも時間の問題が大きいです。

日本であってもアメリカであっても最初はやっぱり社長には会えません。

13年前、日本株への投資を始める時に、「ウォーレン・バフェットのような投資をやります」って企業のIR(投資家向け広報)の人に言っても全然わかってもらえませんでした。だって日本でそんな人いなかったんだから。

でも今となっては、13年間投資している間に向こうから社長が出てくれるようになりました。

「いや、前の社長の時は・・・」とかね、そういう話ができる。相当めずらしい投資家になっている。
そういう意味でコミュニケーションが時間とともに深くなっているのは間違いありません。

それはアメリカ企業であっても同じようにできていると思っています。

最初はやっぱりIR的な人が相手なんですけど、だんだんと、例えば2012年からずっと投資している3Mなんかでも今ではCEOと話ができます。

なので対話のクオリティとしてはあまり変わらないかなと思っています。

ただ、最終的にどっちがパフォーマンスがつむぎやすいのかという観点で言うと圧倒的にアメリカです。
これは日本人が聞くと「それはちょっと寂しいな」って思うかもしれませんけど。

いや、それは日本の企業で働く人間からするとそうかもしれないですけど、投資家の立場でみてみたら、別に国境なんてすぐにまたげるわけですよ。

日本人だから日本の株に投資しなきゃいけないなんていうのはリスクの集中だと思います。

うちの奥さんも長銀なんですけどね。当時、従業員持ち株会ってあったんですよ。給料から天引きで長銀の株を買っていたわけです。

でも、長銀つぶれましたよね。ゼロです。

僕からしたら「アホじゃないか」と思ってたんですよ。

だって自分が働いている会社の株を買ったら、自分が失業する時はその会社の株もゼロですよね。
ものすごいリスクを集中させているわけですよね。

話がそれましたが、アメリカ企業の方が有利な立場にいるのは間違いありません。

アメリカには3億2千万人がいて、1%ずつ増えています。
それで世界のGDPの4分の1がアメリカです。
毎年世界の富の4分の1はアメリカで生まれるんです。

それに加えてアメリカでビジネスをやって成功したら、世界中の残り70億人の人に訴求できます。

コカ・コーラ、ディズニー、ナイキ、ティファニー…全部そうです。
アメリカでビジネスをやるっていうことは下駄を履いているんです。

だから日本株なのかアメリカ株なのかっていうより、アメリカでビジネスをやっていて強い企業を買うべきなんです。

だから実は僕たちが持っている日本企業はアメリカでも圧倒的に強い企業が多いです。

信越化学であるとか、ファナックであるとかね。アメリカで強い企業というのが多分長期投資をやりやすい。
それはアメリカ企業である確率が高いですね。

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ユニークな企業の見つけ方

質問者2:
実際に投資先の選定をするにあたって、いかにスクリーニングしていくかっていうところなんですけども、つまりいかにしてユニークな企業を見つけるかっていうところを教えてください。お願いします。

奥野:
定量的にスクリーニングしていい会社が出てくる可能性はほぼないです。

これは何を言っているかっていうと、どんな会社でも一つの商品だけやってる企業ってあんまりないです。しかも日本だけでやってることも少ないです。いろんなビジネスを持っているんですよね。

スクリーニングかける時って大体その会社全体として「営業利益率どうですか?」とか「売上成長率どうですか?」とか出てくじゃないですか。

でもそれって、いくつかのビジネスの集合体ですよね。
全部のビジネスが強いなんていうのはあまりありません。

大体の場合、いくつもビジネスがあると、一つはいいビジネスで、一つはそこそこで、一つはダメとか。

だとすると、そういうところで本当に持ちたいビジネスは最初のビジネスですね。

だけど全社で定量スクリーニングをしても、そもそもどんなビジネスがあるかもわからないし、いいビジネスだけ浮き上がってくる確率は高くない。
それがスクリーニングの弱点ですね。

じゃあどういう風にやるのかというと、これが日本企業の場合結構簡単です。

会社四季報ってあるじゃないですか。四季報をパッとめくって数字を見ます。それから何を作っているかを見ます。

それで長期投資に向いているか向いてないかを瞬間に判断できるようになることをお勧めします。
ほとんどはダメです。

数字と何を作っているかっていうのを考えた時にそこにチャリンチャリンというお金の音が聞こえるかどうかまで想像力を高める。

もしくは失敗の数を増やす。
最初は失敗するんです。
でも頭の中で想像すればいいんですよ。この会社面白いと。
自分で買った気になればいいんです。
実際にお金を投資して損したら悲しいじゃないですか。

でも最初は想像だけでもいいんです。

この会社の業績は「多分こうなるんじゃないかな」というものを作ってみて、四半期に1回は必ず向こうが正解を出してくるので、実際に見るのは年に1回でもいいと思いますけど、実際の決算書を見て、自分が考えた仮説と実績として出てきた数字がずれていたらどこが違うんだろうって考えることができます。

そうやって繰り返している間に精度が上がってきます。
この繰り返しです。株価の予想ではないです。

アメリカ企業はちょっと難しいです。四季報が網羅してくれないので笑。

だから僕たちは日本企業の分析をしながら、アメリカ企業も探してきた、というか結果的に見つけてきた感じです。例えば日本電産の分析をしていたら、当然にアメリカのEmersonっていう会社が出てくるんですよ。

そうするとEmersonも分析してみないと日本電産が強いかどうか分からないってなるわけですよ。

本当にEmersonのことを知ろうと思ったら、現地に行ってその会社から話を聞くのが一番です。

で、Emersonと話をしていたら、HoneywellとかRockwell Automationとかいう会社も出てきて、面白そうだったらそっちにも行ってみる。

皆さんがアメリカまで行くのはなかなか難しいでしょうけど、大丈夫です。僕たちが代わりに行って、うざいくらい詳しくレポートしますから。

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CSR/ESGの価値

質問者3:
いい会社を厳選して買うと、そういう会社は社会の問題を解決しているとおっしゃっていましたが、例えば最近、事業そのものではなくて、CSR(企業の社会的責任)活動とかを見て投資するやり方があると思うんですが、どう思われますか?

奥野:
CSR活動自体を否定するわけではありませんが、本業と関係ないところでそればっかりやっている企業は絶対ダメです。

ボランティアやってもらうために投資してるわけじゃないですからね、僕らは。資本主義っていうのはそんな甘いものじゃないわけですよ。

ボランティアやるにしても、このボランティアのやり方は俺しかできないぐらいっていうところまで高めていたら意味があるかもしれませんが、さっき言ったように1のボランティアは1でしかありません。

そういう意味で言うと、だからCSRとかESGとか最近のちょっとした流れになっていますが、もともと長期投資をやっている側からすると当たり前なんですよね。

社会の問題を解決しない、むしろネガティブな、世界にとって悪いことをやっているような企業はそもそも長期的に利益をあげることはできません。

つまり長期投資をするっていう決断をした時にそれはESG的な要素を最初から考慮しているんです。

わざわざ業者さんのESGファクターとかESGインデックスとかを買ってきて、それを使って判断しなくても、元々自分の頭でそれを考えているので、僕たちの企業は社会の問題を解決して当たり前。

逆に言えばそれができないんだったらその企業は長期的には生きていけないので、当然に排除されていくという風に考えています。

価値を生み出す企業のDNA

質問者4:
ずっと斬新でかつ価値を生み出す企業っていうのを見られてこられたと思うんですが、斬新なだけで価値を生み出せない企業と価値を生み出す企業ってどこが違うんでしょうか。

奥野:
結構重要な論点だと思います。新しければ何でもいいかっていうとそういう話じゃないです。

斬新なことを打ち出してくる会社って結構あって、それで業績が伸びる会社ももちろんあります。

でもそれが長期に投資できるかどうかっていう観点でいうと、そういったイノベーション的な発想というのが組織の中に落とし込めているかどうか。組織のDNAになっているかどうか。それを見極めるのが大事です。

一発屋で終わる企業って結構多いんです。

大事なのは継続的に新しいものを生み出せるかどうか。
そういう組織運営をしている。そのためにしっかり投資をしている。人材教育をしている。これが大事です。

その斬新なビジネスができたという事実だけを見て投資するのではなく、その事実の背景に一体何があったのか。それが理解できた時に初めて5年後、10年後に同じようなイノベーションが起こせるという想像ができます。

もちろんこれも全部仮説です。
合っているか、間違っているかって5年後じゃないと分からないですから。

株価の基準

質問者5:
いくらで買うかという部分で高いものは買わないとおっしゃっていましたが、優良な企業って株価も高いと思うんです。

そこで株価が高くてもある程度のリターンを見込んで買うのか、安いうちにその優良な企業を探し出して投資するのか、どちらでしょうか。

奥野:
両方ともですね。

いまの株価が高いからといって買わないといつまでたっても買えないこともあります。でもあまりにも高いのは買いません。

だからあまりにもっていうその基準が結構大事なんですけど、僕が基準として考えているのがアメリカ国債ですね。

アメリカの10年国債いま2.4%なんですよ(2019年5月時点)。
これ何を意味するかというと、10年間全く何のリスクもとらずに2.4%で回せるってことなんですね。それが判断基準です。

株価が高いのか安いのかを見るときにPERっていう指標があります。

要は利益の何倍の株価がついているのかっていう基準ですが、これを逆数にするといまこの会社の株を買った時に何%で回るのかっていう益利回りに変わるんですよ。

例えばPERが50倍だと益利回りでいうと2%なんですね。

ちょっと待ってくれと。

そんな2%の株買うぐらいなら、アメリカの国債は全くリスク取らずに2.4%で買えるんですよ。

だから、実際のところはPERだけで判断するわけじゃありませんが、単純化して言うとそれが60倍とか70倍とか100倍とか、もっと言っちゃえば赤字企業みたいな、利益は出てないけど売上の7倍とか8倍とかいう評価が付いてますみたいな会社なんてもうありえない。

じゃあ世界的に強い会社の上場株に投資をして15%のリターンが望めるかというと、望むのは勝手ですが、そんな機会は一生巡ってこないかもしれません。

常識的にはたぶん6~7%というような話です。それは普通に買えます。

最後に

時間になりましたので、これで今日の講義は終わりたいと思います。

とにかく一番言いたいのは「投資」をしましょうということ。
人生における全ての選択は「投資」です。


「投資」って言っても別にお金を何か証券みたいなものに投資するだけじゃなくて、自分の時間、才能、お金を自分で考えて合理的に配分しましょうということ。

いまの自分の行動が将来の自分を作ります。
自分自身が自分の人生の「オーナー」になる。
そういうことです。

以上です、ありがとうございました。