星もしもし

フィクションを基にした

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最近の記事

リマインダーズ

山登り、今日は相模湖に下りて終わった。 登る山は、大抵なんとなくで直前に決める。 お腹がゆるくなる気がして、途中にトイレがいくつかあるところにした。 久しぶりの山登り、はじめは沢の横を歩く。 気分だけでも涼しくしてくれると期待したが、夏の日差しに容赦なく挫かれた。 何をせずとも暑い季節に、どうして山登りになんか来てしまったんだろう。 とはいえ汗がさらさらと出るのは気持ちよくもある。 初めゆるやかだった登り坂は、気がつくと勾配がきつくなっていた。 立ち止まって休んでいる人

    • 起きがけのスピリチュアル

      先週、雨がざっと降り、止むや否やぐっと冷え込んだ。雨が幕間の代わりになって、明けるとシーンが変わるように空気が入れ替わった。 しかしこれは秋だろうか。秋雨前線が来たら、それはきっと秋だし、セミが鳴かなくなったら、それもきっと秋だろうが、結局いつからなのかがわからない。 気になって季節の定義を調べる。気象庁は9月から11月を秋としている。季節を変えるのは雨でもセミでもなかった。 今朝は採用面接だった。 集合は9時。病院までは1時間半かかるので、いつもよりずいぶんと早起きをした

      • 子猫の鳴かない台所

        実習が終わって帰路につく。 外はちょうど雨が上がったところ。日が落ちかかっても空気はじめじめと蒸し暑いまま。体はどこを触ってもベタついた。 よくある梅雨の夕方。 電車は座ると揺れるたび隣の人のベタついた腕が触れて不快になる。そんなことだから、雨があがっても気分がよくなることはなかった。 家に着くとまだ遅いわけでもないのに翌朝の早起きを思って鬱々とした。夕方は暗くなっていくから暗いままの夜よりも気を沈ませる。パンくずが乗ったままの皿とタッパーを洗う。替え時をとっくにすぎた

        • 「おすそわけ」のラフランス

          寝支度に入る少し前、電話が鳴った。 「今ひま?」 「え、ああ、このあとは寝るだけ」 「実家にラフランスが届いたからひとつ持っていくよ」 「ああ、ありがとう。今?」 「ひまだろ」 「ひまだけど」 「じゃあいくわ」 「あ、やっぱりひまじゃないかも」 「ひまだろ」 「どれくらいで来る?」 「すぐいくよ」 いつもの友達からだった。 前触れなく電話をかけてくるのは、バイトリーダーのおじさんとこの友達くらい。 そのバイト先はずっと前にやめたから、シフト催促の電話をかけてくることはも

        リマインダーズ

          「明日には全部忘れてるよ」

          夜道を散歩していたときのこと。 白髪の男が自転車で坂を蛇行しながらくだってきた。目の前で転けられても嫌だしなんとなく見ていた。ちょうど減速しはじめたので気にせず通り過ぎようと思った途端、男はよろけて転けそうになり、思わず体を支えた。 「大丈夫ですか?」 「大丈夫だよ、大丈夫」 「家は近くですか?」 「すぐそこだよ」 10段程あるコンクリートの階段の上を指した。 「昇れそうですか?」 「大丈夫だよ」 「本当に?ですか?」 「大丈夫だよ!」 よろけながらコンクリート塀に手をかけ

          「明日には全部忘れてるよ」