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ヒザえもん

これは2021年5月31日からClubhouseで朗読リレー(#膝枕リレー)が続いている短編
小説「膝枕」(通称「正調膝枕」)の派生作品となっております。


今回はタイトルが覚えられないとか、タイトルで噛んでしまったらどうしようという
心配はありませんね(笑)

それからしげたかさん、ネタにしてしまってすみませんorzzzz(スライディング土下
座)

私が勝手に教養深いすてきおじさん認定しています。


以下、膝枕界隈のご案内です。


二次創作noteまとめは短編小説
「膝枕」と派生作品を、朗読リレーの経緯、膝番号、Hizapedia(膝語辞典)などの
舞台裏noteまとめは「膝枕リレー」楽屋をどうぞ。

短編小説「膝枕」と派生作品|脚本家・今井雅子(clubhouse朗読 #膝枕リレー)|n
ote
5月31日からClubhouseで朗読リレー(#膝枕リレー)が続いている短編小説「膝枕」
の正調、アレンジ、外伝まとめ。
note.com




ヒザえもん

休日の朝。独り身で恋人もなく、打ち込める趣味もなく、その日の予定も特になかっ
た男は、ガタガタという音で目を覚ました。
どうやら建付けの悪い台所の引き出しがガタガタ音を立てているようだ。

「何事だ!?」

男は寝ぼけ眼で起き上がる。すると年若い青年
がオーブンレンジでも入っていそうな大きさの段ボール箱を抱えて立っていた。
「受け取ってもらって、いいっすか?」

男は「取扱注意」のラベルが貼られた箱を両腕で受け止めると、お姫様だっこの格好
で座敷へ運び込んだ。

青年が爪でガムテープをはがす。カッターで傷をつけるようなことがあってはいけな
いようだ。箱を開けると、女の腰から下が正座の姿勢で納められていた。出てきたの
は「膝枕」だった。ピチピチのショートパンツから膝頭が二つ、顔を出している。

「なんだ、これ?!・・ってかお前誰?!どこから入った?!」
眠気も吹っ飛んだ男が叫ぶ。
「落ち着いてよじいさん。」
見慣れぬ格好の青年が静かに答えた。
「…爺さん?!誰が爺さんだ、俺はまだ30だ!!」
「俺は22世紀から来たあんたの孫だ。」」
あっけにとられた男がフリーズする。
「タイムマシーンのルートを台所の引き出しに設定させてもらった。」
「は?!・・んじゃこれは何だ!?」
「{あなたの人生をナビゲート}する膝枕のヒザえもんだ。」
「えもんって、これ女性型だろう?おかしくないか?」
「何言ってるんだ爺さん、いるだろう、女の{えもん}。」」
「は?!」
「赤染衛門とか」
「何だそれ?!」
「知らないのか?!平安時代の歌人だよ。」
「お前はしげたかさんか?!」

「そんな事より重大な話がある。」
青年が手をかざすと目の前の中空に画像が出現した。
こういうところは22世紀クォリティーだ。

出現した画像には薄くなった青年の姿があった。
青年のいう事には、男が13か月以内に社長秘書のヒサコと結ばれなければ子孫が途絶
え、孫の存在も消滅してしまうとの事だった。

「ええ?!俺、ヒサコと結婚することになっているの?!いや、それ以前に結婚して子供
もできるの・・・?!」


ヒサコは社内女子カーストのトップ。対して、カーストにも入れないアウトオブカー
スト、不可触賤民レベルの男にとっては神に等しき存在。ご尊顔を拝むことさえはば
かられる。そんなヒサコと結婚?!子供まで作る?!ありえない、天地がひっくり返って
もあり得ない!!

「爺さん、しっかりしてよ。爺さんがしっかりしてくれなきゃ、俺消滅するんだけど
。」
「そ、そ、そ、そんなこと言われても・・」
「そんな情けない爺さんのために、22世紀の秘密アイテム、自立思考型ai搭載膝枕、
ヒザえもんを連れてきたんだ。彼女はきっと爺さんの役に立つ。」
そう言うと青年は、小さなチップを膝枕に埋め込んだ。

起動音とともにヒザえもんが喋りだした。
「ボクヒザえもん。君の人生をナビゲート。」
「ボクっこか!」
男は思わず突っ込を入れてしまった


翌日から男の試練が始まった。いくらよく知らないヤツだからとて、孫を名乗る人間
が消滅の危機にさらされているというのは由々しき事態である。
全身全霊の勇気を振り絞っってヒサコが一人の時に声をかけようとしたが鋭い一瞥に
ビビりまくり、廊下の隅に逃げ込んだ


「ヒザえもんヒザえもんヒザえもーん!!無理!!オレ絶対無理ー!!!」
帰宅した男は半泣きでヒザえもんの膝に倒れこむ。

「お爺ちゃん、まだチャンスはあるよ。来週の社内旅行でポイントを稼ぐんだ。」
「ええ?!そんなの無理だよー。」
男が泣き声を出す。
「しょうがないな、じゃあいいものを貸してあげよう。」
ヒザえもんの腰の部分が光ると、ウルトラマンのベーターカプセルみたいなものが現
れた。
「自然薯センサー」
「・・・こんなんで、ヒサコのハートをgetできるの?!」
男は半信半疑で小さなスティックを取り上げた。


「お芋をたくさんありがとう。私、お芋大好きなの」
旅行の打ち上げで隣の席になったヒサコが色っぽい視線を投げかけてきた。男の目は
ヒサコの膝に釘づけだ。酔った頭が傾いてヒサコの膝に倒れこみ、膝枕される格好と
なった。

骨抜きになっている男の頭の上から、ヒサコの声が降ってきた。

「好きになっちゃったみたい」


その夜も、ヒザえもんは、いつものように玄関先で男を待っていた。

「君のおかげでヒサコと仲良くなれたよ。ありがとう、ヒザえもん。」
そこに「今から行っていい?」とヒサコから連絡があった。男はあわててヒザえもん
をダンボール箱に押し込め、押入れに追いやると、ヒサコを部屋に招き入れた。

その夜、男はヒサコに膝枕をせがんだが、手を出すことはしなかった。

翌日からヒサコは男の部屋に通うようになるが、あいかわらず膝枕止まりで、その先
へ進まない。

もうひとつ、ヒサコには気になることがあった。男の部屋にいると、視線を感じるの
である。誰かが息をひそめて、こちらをジトっと見ている気がする。

「ねえ。誰かいるの?」

「そんなわけないよ」

すると、今度は押入れからカタカタと音がする。

「ねえ。何の音?」?

「気のせいだよ。悪い。仕事しなきゃ」

?「いいよ。仕事してて。私、先に寝てる」

?「違うんだ。君がいると、気が散ってしまうんだ」

男は急いでヒサコを追い返すと、ダンボール箱からヒザえもんを取り出す。


「かわいい!!」
男が飛び起きると、いつの間にかヒサコが戻って来ていた。

「何それ?私にも触らせて。」
「いや、これはただのおもちゃだよ。」
男が思わず口走ると、
「ボクヒザえもん。」
とヒザえもんが名乗りを上げた。

「私ヒサコ。仲良くしてね、ヒザえもん!」

ヒサコはすっかりヒザえもんを気に入ってしまった。


それからしばらくして、台所の引き出しからまた孫がやってきた。中空に映し出され
た孫の映像は、今度はクリアになっていた。

「ありがとう、爺さん。」
「いや、俺じゃなくてヒザえもんのおかげだよ。」
「ヒザえもんが役に立ってよかったよ。爺さんの結婚も決まったし、今日はヒザえも
んを引き取りに来たんだ。
「え?!」
男の表情がこわばる。

「爺さんはもうヒサコ婆さんがいるからヒザえもんは必要ないよね。」
「そんなことはない、そんなことはない!!俺はまだ半人前で・・・ヒサコだってヒザ
えもんを気に入っているんだ!!」
「・・・爺さん、実はヒザえもんを別の時空に持ち出すのは違法なんだ。今回は、こ
のままだと俺と親父が消えてしまうかもしれないっていうのっぴきならない事情があ
ったから特別に許可が下りたんだ。問題が解決したら速やかに事業所に返却しなきゃ
いけないんだ。」

茫然とする男の目から涙があふれてきた。短い間だったけど、たくさん助けてもらっ
た。ヒサコとの縁も作ってくれた。ヒサコと3人で過ごした楽しい日々がよみがえる


「離れてもボクたちはずっと友達さ。ヒサコちゃんと仲良くね。」
孫がチップを抜くとヒザえもんは静かになった。

二人が台所の引き出しから帰っていくと、男が一人取り残された。


「あれ、俺、どうしたんだろう。もしかしてマリッジブルー?!ああ、早く明日の結婚
式の準備しなきゃ。忘れ物したらヒサコにはっ倒されるぞ。おーい、ヒザえもーん!
・・・えっ、ヒザえもんってなんだっけ?」

男の頭の中にうっすらとショートパンツをはいた女の腰から下が浮かんだが、男はそ
れが何高もうわからなくなっていた。




追記

「自然薯センサー」は私のオリジナルではありません。

大喜利のお題で、「太陽にほえろ!ニューカマー」とか「寅さん新シリーズ」とかが
あるんだけれど、その中の「ドラえもんニューアイテム」として誰かが紹介していた
ものです。

私のお気に入りは、これと、寅さん新シリーズ「寅さんシリーズ初のホラー、寅次郎
着信アリ」です。


相変わらず誤字脱字があったり、出し方がわからない記号とかがあったり読みにくいこと甚だしいと思いますがご容赦下さいませ。

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