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見えなくても舞台鑑賞

前にも書いたけれど、最近特に映画や舞台鑑賞にバリアがある人たちに対するサポー
トが充実してきている。
10年くらい前では考えられないような至れり尽くせり状態で尽力してくださっている
方々には感謝してもしきれない。

先日その中のお一人から鑑賞サポート講座というのをやっているので障害当事者とし
て話をしてほしいと言われた。

この講座はもう5年くらいやっていて、毎回違う視覚障害当事者をゲストに招いて舞
台鑑賞の体験談などを話してもらっているそうだ。

視覚障碍者一般という事ではなく、個人的な体験でいいそうなのでお引き受けした。

同じ視覚障碍者と言っても、先天と中途では違うし、物を見たことがある人とない人
では受け取り方が違うだろう。
また、普段から舞台に親しんでいたかどうかでも変わってくるはずだ。

ちなみに私は見るのもやるのも好きな演劇部員だった中途障碍者である。


そんなわけで、当日何を話せばいいか、見えなくなってからの自分の舞台鑑賞につい
てを思い起こしてみた。


「視覚障碍者にとって劇場やコンサートに行く時のバリアはと聞かれた時の答えは、
「すべてがバリアである」と答えるしかない。。


まず視覚障碍は情報障害と言われている通り、あらゆる情報へのアクセスに弊害があ
る。

紙媒体は見えないし、HPでもPDFなのだろうか、音声で読めなかったりするところが
結構ある。

それからチケットを取って代金を払う。これもネット上では難しい。

画像が出てきて、「好きな席にチェックを入れてください」になると完全にアウト。

画面に出てくる数字を記入とか、絵をどうにかしろというのが出てきたらこれもアウ
ト。

音声での代替もあったりするが、まず何て言っているか聞き取れない。ネイティブの
英語だったりすることもあって、私はここをクリアできたためしがない。

第一、日本語でも、聞こえた内容を全部書かなければいけないのか聞き取れたところ
だけでいいのか。仮名で書くのかローマ字で記入するのかそこら辺の指示もないので
ある。


支払いに関してはコンビニ支払いや銀行振り込みもあるけれど、一人では移動が難し
いとか近くに該当のてんぽがないとかだとこれもハードルになる。

最近はクレカじゃないと受け付けないなんていうイベントもあるから厄介だ。

個人情報を記入したりなんだりで、チケットを買うのにほぼ半日から一日つぶれたこ
ともある。

そして当日。もちろん一人で会場へは行かれない。

ガイドヘルパーと行く場合、二人分のチケットを買うのか?それとも終わるまでどこ
かで待っていてもらって後で迎えに来てもらうのか?

公演は始まる時間が決まっているので遅刻はできない。私はヘルパーさんに会場まで
ガイドをお願いして、帰りは迷っても遅くなっても構わないので自力で帰っていた。


芝居は内容も作品によっては全くついていけないこともしばしば。1万円払ってほと
んど寝ていたという事もあった。


こんな悲惨な経験を経ての今だからこそ、サポートに尽力してくれている人たちへの
感謝はひとしおなのである。

始めは内容に対しての情報保証があれば見えない人も芝居を楽しめると思われていた
けれど、最近は特に視覚障碍者のバリアはそれだけではないという事が周知されつつ
あり、そちらへのフォローも始まった。

予約は電話やメールでもOK。支払いは当日現金でもよし。
介助者一名までは無料にしてくれている公演もある。
最寄駅からの送迎もお願いすれば対応してくれたりもする。


他にコンテンツに対するサポートでうれしかった事例を紹介すると以下のようなこと
が思い出される。

ライブでの音声ガイドはもちろん、始まる前に舞台装置やストーリーの背景、登場人
物のプロフィールを紹介してもらえると、話に置いて行かれることがない。

キャラクターの把握についてはあらかじめYouTubeで役者さん自身が自分の役どころ
と衣装の説明をしてくれた劇団もあり、こちらも芝居を楽しむ助けになった。

舞台装置の模型や小道具に触らせてくれたところもあり、舞台を見ながら「いまあの
役の人が持っているのはあれだな」とにんまりできたこともある。


バリアフリー演劇に関わってくれている人たちにはほとんど感謝の念しかないが、先
方はより良いサポートができればと思っていてくれているので、敢えてこれはちょっ
とと思った体験も紹介しておく。

ガイドがある公園の場合、あらかじめ先方で席を用意してくれている。それはありが
たいのだが、いくつかの舞台で、視覚障碍者のための席が一番後ろだったことがある

後ろの席だと役者の動きや熱間など、舞台ならではの臨場感が伝わってこない。そう
なると舞台が見えるわけではないしDVDで鑑賞するのと変わらなくなりわざわざ舞台
を見に行く意味がなくなる。

後で聞いたところ、階段が危ないのではないかという配慮だったらしい。
確かに階段の上り下りができない視覚障碍者もいるが、わざわざ舞台に来るような人
は階段なんか物とはしない。「見る」こと以外のありったけの情報を持ち帰りたいと
いうアグレッシブな人が大半だ。

それから音声ガイドで気になったこと。
オンラインで配信されていた落語家朗読だったと思う。演じ手の動作を説明してくれ
ていたのだが、語りは間も芝居のうち。動作も気になるけれど、ここは動きは諦めて
語りに集中したかった。
所作については終わった後に説明をしてくれたりするとありがたい。


当日どれだけの話ができるか、先方がどんな情報を欲しているかはわからないけれど
、舞台芸術がより多くの人に楽しんでもらえることに少しでも助力ができればうれし
い。

少なくとも暑苦しいオタ話で貴重な時間をつぶさないよう心せねば!

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