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見えなくても弾き語る

普段何気なく見聞きしている事でも実際やってみるととんでもなく大変だったりする
事がある。

ブラインドボクシングは1ラウンド2分。やる前からもう網膜剥離だったりするから相
手から攻撃されることはない。アイマスクを付けた選手が鈴をつけたコーチにパンチ
を繰り出す「型」の競技だ。
それでもその2分は果てしない時間に感じられ、1ラウンドでもうへとへとになる。

翻ってプロのボクサーは1ラウンド3分を何ラウンドも戦う。私のようなしょぼい健康
おばさんと比較するのは失礼極まりないけれど、改めて彼らの偉大さを実感した。


先日習いはじめて1年ちょいのウクレレ教室で発表会があった。ほぼ内輪だけの小さ
い発表会だったが、人前でウクレレを弾くのは前のスクールでの発表会以来。


ずいぶん前に友達からウクレレをもらったので大手の楽器スクールで習っていたこと
がある。先生もいい人で楽しかったのだけれど、コードはあれこれ教わったもののソ
ロ弾きは教えてもらえなかった。

しばらく通ったけれどこのまま続ける意味はあるのかと思い始めたのとアトピーの悪
化が重なって教室を辞めた。

その後しばらくウクレレはタンスの肥やしになっていた。

ケースが黴て使えなくなってしまった頃、コロナ禍で家でもできる事と思い、
またウクレレを習うことにした。

ネットでスクールを調べたがどこもいまいちピンとこない。私の場合自力で行かれる
ところという縛りもある。

そこで思いついたのは地域でやっている自主グループがあるのではないだろうかとい
う事。早速区役所に問い合わせたら地域の高齢者施設でスクールをやっているとか。
お年寄りなら私のような障碍者でも受け入れてくれるのではないだろうか。場所も自
力で行けそうだ。
早速見学に行く。

結構上手な人もいて、ちょっとかじったとはいえやはり見えないとグループレッスン
は厳しそう。

見学の後先生に相談してみた。そしたら先生は個人でも教室を開いていて生徒には視
覚障碍者もいるし、高次脳障害の人にも教えたことがあるという話だった。

初歩からレッスンするから最初の2年は先生が選んだ練習曲。やりたい曲だけ習うと
いうスタイルではないけれどそれでもいいですかと聞かれた。いやいや私はそちらが
希望なんです。

大人のレッスンは弾きたい曲だけとりあえず形にするというスタイルも多いらしい。
そっか、だから大手のスクールの時はコードばかりやっていたのかも。

そしてさらにラッキーな事には先生のスクールは自力で行けるところにあった!!
これが運命のご縁というのかもしれない。


そんなこんなで一年ちょい、発表会までこぎつけた。ウクレレはほぼビギナーなので
演奏が下手なのはもう織り込み済み。生暖かい耳で聞き守っていただこうと思ってい
たが、先生に歌もぜひ歌ってくださいと言われた。

歌はとにかく苦手である。朗読の発生の一助になればとボイストレーニングに通って
いたこともあるけれど歌は全くうまくならなかった。
歌の先生はプロにもレッスンをしているような優秀なトレーナーだったのにこれはひ
とえに私の資質の問題。でもおかげさまで朗読の発声はかなり楽になったのでこちら
もこちらでよかった・・・と私は思っている。

カラオケも積極的に行く事はない。仲間内のアニメ縛りカラオケには参加していたけ
れど、私は色物ポジション。「アパッチ野球軍」とか歌って受け狙いをしていたタイ
プである。


それでも何となく先生に丸め込まれて生まれて初めて弾き語りなるものをしてみんと
てすることになった。
楽譜も歌詞カードも見えないからとにかく全部暗記しなければならない。

覚えるのも大変だったがとにかく手と歌が合わない。
歌詞を思い出していると手がおろそかになる。手に集中していると歌詞がうじゃじゃ
ける。自分のマルチタスクじゃない加減に絶望した。
同時にプロミュージシャンはもちろん路上ライブや文化祭で弾き語りをしている人た
ちの偉大さに今更ながら感服した。


とにかく引くに引けなくなりちまちま練習する。集中して長時間練習しようとすると
頭がうにになって結局効率が悪いので隙間時間に必ず一回は弾いてみる事を続けた。

そして結局一度も完璧に弾けたことがないままいざ本番へ。

ウクレレの発表会なのに朝から発声練習をする。朗読でもないのによくわからないか
ら活舌練習とかする。


本番は途中で歌詞を自作したり弾き間違えたりもしたけれど、先生の美しい伴走にご
まかしてもらいどうにかクリア。

皆個人レッスンなので普段はお会いすることのない他の生徒さんの演奏も聞けて和気
あいあいと楽しい発表会になった。
打ち上げも先生お勧めのおいしいイタリアンで初めましての方たちと交流できたのも
うれしかった。


手と口が違う動きを要求される弾き語り、私にはほぼキャパオーバーだけどこれはボ
ケ防止にはいいのではないだろうか。
次回は演奏に集中したい気持ちもあるけれど、上手であることを要求されない内輪の
発表会なら老活の一環としてまた弾き語ってもいいかもなんて不遜な事を思い始めて
いる。


今回ただ一つ残念だったのは参加するはずだった全盲の女性、ガイドヘルパーが見つ
からなくて参加を断念したとか。

視覚障碍者の移動問題、まだまだ課題山積である。

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