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エッセイ:コンビニバイトすらでまともにできず、やらかし続けた失敗談集

■僕にはコンビニバイトすらできなかった

 今ではすっかり労働をしなくなった僕も、大学に入学し即退学するまでの数ヶ月のみ、実はコンビニバイトに従事していた経験があるのです。「アドルフに告ぐ」でヒトラーにもユダヤ人の血が流れていたような展開ですね。
 今回は、僕がどれだけ労働者として度し難い多動人間であるかの話をしていこうと思います。

 初めてのコンビニバイト出勤。先ずはレジ周りの説明のため店長自ら指導してくれる運びとなったのですが、これまた露骨に権高な振る舞いをするタイプの男性でして、「レジなんて客として毎日見ているんだから雰囲気でできるでしょ」と何故か既にキレ気味の態度で、突然レジに立たされます。ファミコン世代なのでチュートリアルの概念を知らないのでしょう。

 当然、僕のような要領の悪い人間がぶっつけ本番を乗り切れる訳もなく、そもそもレジ袋を開くという基本動作の時点で苦戦し始めます。対策法としてレジ前にある指を濡らす用のスポンジを使えば一発なのですが、そんな簡単なことにも気づかず戸惑っている上に、生来のにべもない態度も相まって、店長に「こんなことすらできないのか!」と叱られまでのTAS記録を達成。
 そんなこんなで、度を失った僕は一挙一動全てと言わんばかりに怒られつつも、地獄の初出勤を終えます。バイトでこれなんだから社会とはどんなに厳しい場所なのだろう……と粉雪のように不安が募っていく。

 二・三回目の出勤時でしょうか。どうにか細かい操作以外のレジはできると判断された僕は、気の良さそうな先輩と二人で夕勤をすることに。先輩が冷凍室で飲料の整理をするとのことで、「困った時に呼び出すボタン」の場所だけ教えられ一人でレジに臨むにゃるら。
 操作を覚えたとはいえ、そもそも愚鈍ゆえに気づくとレジにはどんどん人が並びます。このままでは危ないと気づいた僕は「困った時に呼び出すボタン」を連打し、先輩がヘルプに来るよう願いを込めますが、祈りも虚しく先輩は一向にやってきません。スパロボなら絶対に増援がくるタイミングなのに……と脳内は混濁。
 種を明かすと、僕が押していたのは冷凍室のブザーでなく、その隣にあった強盗や厄介客用の通報ボタン。誤認に気づかない僕は、なぜ先輩が助けに来ないのか、これは試練で自分は試されているのか、はたまた裏切られたのかと万感交々至りながらも、どうにかレジ作業を続けます。
 通常の数倍の時間をかけ、どうにか全客を捌ききったあたりで、警備会社らしき人たちが「どうしましたか!?」と慌てて入店。ようやく連打していたのが通報ボタンだと気づいた僕は、必死に頭を下げて謝罪。呆れて怒りすらしない先輩。愛想笑いを浮かべて帰っていく警備員。ただただ呆然とレジで割り箸の袋をイジる僕。

 もちろん、この事件のせいで店長から散々説教された後に夜勤の方へ回されることへ。5月頃だったと記憶しておりますが、既に大学には通ってなかったものの「夜勤だと学業にひびく」と言い訳してみるも(深夜アニメが観れないのがイヤだったため)、「これはお前の社会勉強のためだ!」と怒鳴り返され押し負ける。薄々、単に夜勤自体が少ないので都合が良いのだろうと察してましたが、これが社会か……と黙するしかありません。心に沈殿した不安の雪が穢となって溜まっていく音がします。

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■愉快な夜勤の仲間たち

 夜勤は夜勤で死ぬほどハード。賞味期限のチェックや品出し、店全体の清掃、返本処理……とにかくやることだらけ。レジ外では、僕の小事を徒や疎かにする癖を遺憾なく発揮し、朝を迎えるたびに店長から「賞味期限のチェックを忘れている」「ここを清掃していない」と怒られ続けます。僕の矮小な頭では、何百、何千と注意されても、次の日には微細な点が抜けていくのです。
 時にはアイスコーヒー用のアイスを冷凍庫に仕舞い忘れたため全損させ、弁償として給料がマイナスになった時もありました。他人が悪いならともかく、純度100%自分の落ち度であり、何のために自分が存在しているかもわからず、「早く殺して……」と希死念慮に逃げを張る日々。

 ただ、夜勤の同僚は僕と同じく社会性のない方だらけで面白かったことは救いです。ニチアサ好きのオタク友達にも出会いましたし、幼少期に父親に連れられたパチンコ屋の思い出が忘れられず40越えてもパチンコに囚われたフリーター、監視カメラの死角からレジの収入印紙を盗んで転売する青年(バレたら別の店に行くらしい)、スケボーで出勤するハーブ系に詳しいダークザギ似の浅黒いおっさんなど、個性豊かな仲間たちが。
 その分、彼らも彼らで素行が悪く、ミスを不当に押し付けられたり、些細なことで初老の同僚から怒鳴られ「最近の若者は……」と休み時間中説教されたりもしましたが、それすら愛おしいくらいに、彼らの非社会性は暖かった。横暴なだけの店長とは違い、彼らは素で歪みきっていたから。
 オタクの同僚も30近くになっても、客から悪態つかれその場で大泣きしたりと、目に見えて生きるのが下手なのです。仕事はできない癖に、同僚に対しては矯めつ眇めつ眺めている僕の姿は大層不気味だったでしょう。
 この時に、いつまでも社会性のないみんなと楽しく笑って暮らしたいという思いが積もって、今のガレージ暮らしがある気がします。

 しかし、そのような場でも殊更僕は程度が低く、多動ゆえにレジでジッとすることもできずに、すぐ客の前で跳ねたり指遊びしたり、挙句の果てには労働中であることすら失念してスマホを弄ってしまうこともあり、もう仕事自体が僕には無理だと諦めがつきました。
 トドメとなったのは、夜勤中に中国人の同僚が停電させた事件。
 この店では、「絶対に触るな!」と注意書きされているコンセントがあり、下手に触ると店中が停電する仕組みに。その日の相方だった中国人の彼は注意書きに気づかずやらかしてしまいました。
 暫くすると、電力会社の人か警備会社の人が駆けつけ、「バックヤードの操作盤を弄って復旧させるので店長に許可の電話をお願いします」とのこと。
 時は既に草木も眠る丑三つ時。この時間に電話したらあの店長は怒るだろうなと直感しつつ、中国人は完全にパニック状態なので僕が対応することに。
 着信音に起こされた店長は当然キレ気味。この人なら確実に怒ると信を置いていましたが、期待を裏切らず事態を説明し「電力会社の人に代わります」と告げた瞬間、「代わらなくていい! このままお前が解決しろ!」と怒鳴りだします。
 「たしかに現地に居るのは僕なので僕が解決するとは思いますが、それはそれとして先方が店長と直接話さないと作業できないと言っておりまして……」と丁寧に理由を述べても、「そういうことじゃなくて俺はいま必要ないだろう!」と聞く耳を持ちません。寝起きとは言え、社会はここまで人を狂わせるのか……と、ここまで狂人だと逆に好感度が上がりますね。

 ここまで三ヶ月に満たない期間でしたが、この事件を機に、自分は社会にでるなんて到底無理だと自覚し、バイトを辞めて借金して安アパートに引きこもります。

 数日後。唯一、連絡先を交換したオタクの同僚から「アレから店長がやたらと飲み会を開くようになったし強制参加で辛い」とメールが。「監視カメラでにゃるらくんの多動っぷりをみんなで見て笑い者にする時も合った」と続いて、ああやっぱり僕って客観的にも落ち着きないんだな……と。この社会不適合具合は、もはや烙印のように体中に纏わりついていてるのでしょう。

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 にゃるらにもできる仕事に、果たしていつの日か巡り合えるのでしょうか。

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