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鬼太郎アニメ4期『幻想譚・猫町切符』

 水木先生の「宮崎アニメのように作って欲しい」というオーダーのおかげか、丁寧に町並みを描いた豪華な作画とセル画特有の色合いにより、鬼太郎特有のノスタルジーが詰まった4期(64話以降はデジタル)。今回は、そんな鬼太郎4期の中でも、特に今だからこそ観てほしい回の紹介をしていきます。

■第28話 幻想譚・猫町切符

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 字面通り、幻想的な光景を想像させるサブタイトルが美しいですね。原作の文庫版では表題作にもなった名エピソード「猫町切符」のアニメ化です。

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 物語は、昼下がりから公園のベンチで一人お弁当をつつく、物悲しげなサラリーマンの哀愁から始まります。

 仕事をクビになり、マンションのローンも残った状態で、家族にも言い出せないままサラリーマンのフリをして一日を公園で過ごす中年男性。「俺もいっそこの公園の野良猫みたいになりたいよ」と、晴天に似合わぬ鬱々とした独り言を漏らす。

 夕方や夜の背景が印象的な鬼太郎4期では珍しく明るい画面の青空。しかし、皮肉なことにストーリーは初っ端から湿り気のある内容に。

 彼の独り言を聴いた野良猫は、まるで言葉が通じたかのように、鳴き声をつかって人気のない地下通路へ案内する。驚いた彼が地下室で見たものとは……。

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 一方、占いで一儲けしようとしていたねずみ男の元に、「主人が帰ってこない」と憔悴した奥さんが相談にくる。金儲けのタイミングだと気づいたねずみ男は鬼太郎に話を持ち寄る。お金が起点とはいえ、なんだかんだやっていることは人助け。4期ねずみ男は、シリーズの中でも特に人情に厚い面が。

 そして、4期鬼太郎は特に、鬼太郎とねずみ男がコンビで行動するシーンが少なく、どことなく距離がある印象なのですが、今回は原作に近い仲良しっぷりも良いですね。

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 「なぜか行方不明者が増えると野良猫が増える」と、意味深なことを言い出し二人を調査に向かわせる目玉おやじ。居残った本人は何をするかと思えば、結膜炎の治療のために、ねこ娘に買ってこさせた眼薬に飛び込みます。おばけに病気がないは大嘘。

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 公園の野良猫についていくと、謎の機械の中に住む大きな猫がいる地下道が。ねずみなので猫を怖がり、思わず鬼太郎の方に両手を回すねずみ男があざとい。大きな猫から猫町切符を発行され、二人は電車に乗って猫町を目指すことに。

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 この回は、のんきなBGMで進行するゆったりとした移動の描写がたまらない。「猫町行きのりば」と書かれた怪しくも惹かれてしまうホーム、電車やエスカレーターを普通に利用する、現代社会にとけ込む二人。暗い地下道を歩く後ろ姿の原作らしい構図はファンなら思わずニヤリ。

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 猫町が近づくにつれ、だんだんと猫化していく二人。天敵である猫と化していく恐怖にうろたえるねずみ男。「幽霊電車」では、愚かな人間を地獄行きの電車で案内した鬼太郎が、今度は猫の電車で自身も罠にハメられているのが面白い。

 鬼太郎4期は、他にも鬼太郎がだんだんと狸化する場面もあり、ケモ趣味の方から、そのシーンの切り抜き動画が高く評価されていたりもするのですが、この猫鬼太郎もだいぶあざとい。

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 その名の通り猫だらけの猫町に到着した二人は、猫と化した元サラリーマンの彼を発見し、奥さんが困っている旨を話す。しかし、彼は「もうギスギスした人間生活は嫌なんだ」と帰宅を拒否。猫町では一週間立つと完全に野良猫と化してしまうが、ローンを払い続ける人生に比べると家族も捨てて猫になった方がマシだという選択をする。

 ここまでだと、なんだかんだ家族や鬼太郎たちの説得により、彼が現実で生きる展開に思えますが……

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 なんと現実方面から新たに降りてきたのは、猫となった彼の奥さんと無職たち。感動の再開に抱き合う二人。

「アタシたち野良猫になったっていいの。どんな苦労もあなたと一緒がいいの」

 どんな姿でも関係ない、家族全員で苦労を分かち合いたいと本音を吐露する奥さん。夫が自分を置いて猫になったことを怒るより、そこまで夫が追い詰めていたことに気づけなかったことを嘆く、家族愛溢れる名セリフ。

 再開したことで家族全員で人間界に戻る選択をする、という話でもなく……

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 「ここで一緒に暮らそう」と、人間であることを捨て、野良猫として家族皆で新たな生き方を楽しむことを選択する一家。ここで人間としての苦悩に立ち向かうのではなく、猫として自由に生きる人生を答えとして出すのが、水木先生らしい結論。

 「人間というものがなんかよくわからんのう……」と、あの目玉おやじも何が正しいのかわからなくなったまま鬼太郎たちは、猫になった彼らを残し人間たちの日常へ帰っていく。

 現代社会に比べたら猫の方が幸せだと感じた男と、それを受け入れる心優しい妻という、他作品ではなかなか見れないオチとなった異色回。結局、それが正しいのか、人間が悪いのかまで明確にならないのも鬼太郎ならでは。

 この回の締めは更に情緒が溢れていまして、

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現実に帰ってくると、すっかり猫町での記憶を失ってしまっていた鬼太郎たち。やたら野良猫が増えたことに対して「行方不明者が増えると野良猫が増えると言うが、どうしてなんじゃのう?」とAパートで教えた情報をまた繰り返す目玉おやじ。

 増えた野良猫たちは、現実に嫌気がさして蒸発し猫になった人間たちなのか……。なにもわからないまま、記憶を失った鬼太郎たちは呑気に森へ帰っていく。

 「猫町のことは、猫だけの秘密だから」

 ねこ娘だけが野良猫の秘密を知っている。原作と違って、ねこ娘が存在することを大いに活かした見事な締めにより、視聴後の余韻がじんわり沁みる。

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 因みに原作「猫町切符」。誰も何も知らないままループしていくオチはこれではこれで好きです。

 果たして貴方は猫になった家族たちより、人間として幸福な生活を過ごしていると言い切れるでしょうか?





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