グエルって何だったんだろう

コチラ、あくまでも、自分のための、供養のクダ巻きです。

☆☆☆☆☆

私自身、こんなに熱心に「水星の魔女」を見るようになったのは、やっぱりグエルというキャラクターが大きかったと思う。
最初は「ほ~、新しいガンダムか。どれどれ」って感じだったからなあ。

プロローグ後の本放送、初回でわかりやすいヤラレ役として登場したと思いきや、第2回で既に「おや?」という表情が描かれる。そして第3回『グエルのプライド』。親や周囲から認めてもらえない、愛情と自由に飢えた子供の複雑で繊細な一面が描かれて。折られ続ける自我とプライドを取り戻すために「俺だけの戦い」を見せる。「あ、この子ってただのヤラレ役でも敵でもない、主要メンバーの1人なんだ」としっかり認識させられるストーリー仕立て。タイトルに名前が入っている通り、メイン回、掘り下げ回と言うに相応しい回だった。
勝負がついた後、負けを認めてちゃんとスレッタに向き合うところも良くて。
一見唐突で、思わず一緒に「え」って言ってしまいそうなプロポーズも、背景から考えたら納得というか愛おしいというか。
なお、あのプロポーズを広報がらみで過剰に擦られたことについては、「散々擦った分の責任、取ってよね」と言いたいのだが。

続く4話冒頭の謝罪とツンデレ発言、5話でのデート現場駆け付け&実質もらい事故になった対ファラクト戦、6話の退寮処分って流れで、完全にグエル贔屓になってしまった。
当人にとっては大事件だったのであろう初恋とその衝動に突き動かされての行動。それが親や周囲には完全に否定される流れ。「グエルに対して、ジェタークという家、特に父親からかけられている過剰な重しと人生への縛り」がはっきりと見える描き方だったので、「ああ、この子も親世代の呪縛から抜け出さないといけない子供の1人なんだ」と確信したし、めちゃくちゃ応援したくなった。

そして、9話。
スレッタとの会話で「父親への愛情」が強調され、その思いゆえに彼女の助力要請を断ったのに、直後に肝心の父から突き付けられる退学通告、自分を認めない言葉。またしてもグエルの自我とプライドは踏みにじられることになり、とうとう10話の出奔へ。
この流れなんだよな。私が一番グッときたとこ!
「親の庇護下、鳥籠の中から出て生き直す」=「親世代の呪縛から抜け出す子供の第一号になる」んだね、と。
しかも、このあたりからのスレッタとの対比がすごくて。
「なんであんなに丁寧な対比構造に?」っていうくらい、これでもかというほど対比が描かれていた。12話なんて、特番で念押しする編集があったし。スレッタとグエルは鏡写しになっていて、きっとストーリーの軸に関わる重要な描写なんだって思えた。
……今となっては、なぜこんな流れにしたんだ?なんだけどさ。

実際は、ただただメインストーリーから弾かれただけだったのか……?
その割には、与えられる試練が半端なくエグかったけど。
籠の鳥が外へ出たところで無駄だよ、生きていけないよ、ってことなんだろうか。
そうだとしたらあまりにも救いがない……だけど、最終回まで見てしまったら、物語はそう帰結したようにも思えてしまう。

15話『父と子と』がものすごい力入ってた(ように感じた)から、あの前後ではまだ、グエルには大きい役割があるんだと思ってた。
父を手にかけ生き残ってしまったグエル、息子を目の前で失い生き残ってしまったオルコット。帰ってこない父に助けを求めたシーシアと、彼女は助からないと冷静に判断して見捨てたオルコット、助けられなかったけれど最後まで見捨てずに走ったグエル。
すごい物語だったよなあ。
父とのつながりを失わないために戻ると言うグエルがどんな動きを見せることになるのか、俄然期待が高まってしまった。

そして17話。温室の前でのスレッタとの会話、良かったよね。可愛かった。あの時だけ、高校生男子のグエルくんが戻っていた。「大切なんだ」と言われたスレッタの瞳がキラキラしていたのも印象的で。
その後のミオリネとグエルの会話も、感無量だった。地獄を見てきたグエルだから成立した対話。ただし、不安もあった。グエルの行動がまるで身辺整理のようだったこと。覚悟の決まった落ち着きとあわせて、メンタルボロボロなのが随所で表現されていて。後半の、スレッタとの決闘もPTSDに苦しみっぱなしだったし。

で……まさか物語上でスルーされると思わなかったんだけど、あの決闘でグエル、スレッタに殺されかけたよね。エアリアルの動きを強制的に止められてなかったら間違いなく。あのエアリアルのライフルでは、いくら直撃避けたところでダリルバルデのコクピット、蒸発するだろ。しかもスレッタ自身は自分の行動に自覚がなくて。「もう一度決闘してください」と悪びれず泣きつける歪さが怖かった。だから絶対拾ってくると思ったんだよ、脚本。
でもこれが拾われなかったんだよな……。あの演出何だったんだ……?

ミオリネとの婚約は、あの時点ではアリだと思った。本人たちに恋愛感情はないけれど、政略結婚ってそんなもんだし、当人たちが納得ずくなら問題は無いし。お互いが大事に思うもののために手を結んだバディってところ、いいなと思ったんだ。あの時点では。

ただ、この辺からだいぶ駆け足になってきて、いろいろ気にはなり始めた。でも、地球へ行って、シャディクの暗躍が表沙汰になるきっかけが、オルコットじゃなくてセドだってあたりはうまいと思った。グエルくんがシーシアを助けようとしたこと、巡り巡って無駄じゃなかったでしょ、って演出。こういう細かいところは上手いんだよね。

ダリルバルデでのシャディク戦は良かった。殺意満々でくるシャディクに、学園レギュレーションで打って出るグエル。父親の件で煽られながらも攻撃にはきちんと対応し、ダリルバルデを犠牲にしてシャディクを捕らえ、「死ぬことは認めん」と言うグエル。僅差で戦闘に負けて捕らえられても政治力では上をいくシャディク。
グエルのいいところ悪いところ、シャディクのいいところ悪いところ、両方出ているモビルスーツ戦だったと思う。

問題は……ここからだったんだよなあ。
22話。私の中で、違和感が一気に表面化してきた。
急に雑になったと感じたんだよね。
グエル周りだと……何だよ、あのフェンシング。脈絡どこ行った?
いや、古いガノタだからファーストのオマージュだってのはわかったし、ラストシューティングのポーズ入れてファンサしたのも、作劇的には婚約者の立場を返すための茶番だったってのもわかるけど。パッと見、いい感じに見せてたけどさ。
旧作オマージュと雰囲気で強引に押し切ろうとしてたけど、それにしても。

グエルとミオリネの婚約って、総裁選戦うために公開してるよな?
作中で何もフォローないけど、対外的に大丈夫なのか?それ。
とかいろいろ、目がぐるぐるする感じだった。

そして……何よりこの物語のグエルって一体なんなん?と思わずにいられず。
結局はただの舞台装置だったのか。スレッタとミオリネをいったん引き離し、頃合いを見てまたくっつけるためだけの便利なコマ。いい人=都合のいい人、っていう、もろにそんな感じ。そういう舞台装置にするためにわざわざいろんな試練を与えて地獄を見せたの?これじゃただひどい目にあっただけの道化じゃないか、というのが初見での率直な感想だった。

しかもなんだかな~。キャリバーンに乗ることになるスレッタを心配するのって普通のことだと思ったんだけど。
とか、気になる描写がテンコ盛りでの、ラウダだよ。
……ひどくない?
露骨に、露骨すぎるほど露骨に、スレッタがこれから向かう戦いにグエルを関わらせないための場外乱闘。
えっと……ジェターク兄弟って、何なの?

そんな感じでモヤモヤしながらの23話。
まあでも、この回については「ラウダくんありがとう」の部分は多かった。
何より、ずっと気になっていた、グエルの自罰意識、罪の意識による死への憧憬、まるで身辺整理のようだったグエルの行動を、見える化してくれたこと。
いやいや、格好いいとか大人になったとかじゃなくて危険な状態やん!何もかもあきらめてるだけやん!っていうのをちゃんと、誰から見てもわかるように見せてくれたことは、良かったと思った。
さらに言うと、22話のモヤモヤがらみもあって、「だから付け込まれるんだ!」を言ってくれてありがとうラウダくん、って思ってしまった。

命がけの大喧嘩、正直回想に入ったときにはかなり肝が冷えたし覚悟もしたけど、彼らをよく見ていた第三者・フェルシーがすんでのところで止めてくれて、ホッとした。いやいや、スペシャルMVPだよフェルシーちゃん。
ただ、憑き物が落ちるきっかけにはなったはずだけれど、会話は嚙み合ってないし、まだまだこれから話し合えよ、っていう描写だったのよね。

なのに……その後は完全に物語からフェードアウト。
一期からずっと続いた対比の帰結が兄弟姉妹対決同時開催だけとかさ……。
24話は「なんで出たの?」って言いたくなるくらい、意図的に存在を消されてたよね。
スレッタとの共闘もない、まともな会話もさせてもらえない。助けに行かせてももらえない。
22話で本筋から弾き出されてそのまんま。
ラウダがスレッタに「兄さんと一緒に帰ってこなかったらもっと許さない」って言ったのも、本当に心から疑問。あのセリフ何だったんだろう?

シュバルゼッテもまさか、兄弟対決のみで終了だと思わないし。
あんな思わせぶりに登場して、ギミックもりもりの格好いい機体で。
最後にグエルが乗ると思ってたよ……

エピローグもなあ……。
グエルがひとり家の呪縛から逃れられずにジェタークの立て直しをしている様子、それが彼の望みだったからハッピーエンドという理屈なのか?いい感じにまとめた雰囲気にしているけれど、なんか……なんだあれ?飛び出しても進んでも君は家の呪縛からは逃れられないんだよってこと?
学生が単身出奔したのって、めちゃくちゃ大変なことだっただろうと思うのに。結局、籠の鳥が外へ出たところで無駄だよ、生きていけないよってオチなのか?と。思ったのよ、ここで。
ベネリット解体で会社立て直しもゼロからになってるしさ。
それに、ラウダが「兄さんに頼ってばかりはいられない」って感じの発言するけど、いや待って、グエルは?弱音を吐かない、吐けない、人に頼れないことが大きな問題だったのはグエルのほうでは?もうそれは放置か?無かったことになったのか?空白の3年間の中に心の目で見ろってか?っていう。せめてそこだけでも処理してくれたらここまでモヤモヤしなかったかもしれないのに。

というか、はっきり言うと、ひどくない?

勿論この物語はヒロイン2人の物語で、それ以外のすべては彼女たちの終着点をきれいに納めるための布石なんだ、っていうのはわかる。
だけど、それならそれでもっと描きようがあっただろう。中途半端に群像劇として力を入れられていた部分があるだけに、いきなり雑に切り捨てられた感じがした。

散々金蔓扱いしてたのにさ、公式……。
(そこもモヤっている)

ただまあ、まともに勝たせてはもらえなかったけど、モビルスーツの操縦が異常にうまい、っていうとこだけはちゃんと描かれてたのよね。
そこだけは、いつもすごかった。文句なく。まともに勝たせてはもらえなかったけど!

と、まあ。
ずっとモヤモヤし続けそうだったから書いて吐き出してみたわけだが。
まあ、アレですわ。
こんなに引きずるとか、いい歳して、だいぶ思い入れて見てたんだなあ、私。
我ながらちょっと感心した。

ハイ、供養。

#水星の魔女 #グエル #グエル・ジェターク