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閃光少女 名もなき光のアイリ

イラスト/ちーこ様(株式会社KADOKAWA 刊)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321501000357/

2015年05月刊。
『ココロ・ドリップ2』と並行して執筆していた、ボーイミーツガール。久々の、電撃文庫からの刊行だった。

全く属性の異なる2作品を並行して執筆した経験はこのときが初めてで、頭のなかに展開されている2つの世界を適宜スイッチしながら作業を進めていた。併せて現実世界での生活もあったので、この頃の自分は、いったいどこに生きていたのだろう? と、ふと不思議に思うことがある。

『ココロ・ドリップ』の世界は筆者が生きる現実世界に極めて近く(同じかもしれない)、一方で『閃光少女』の世界は少しばかり遠くにある。ただ、ひとたび飛び込んでしまえば、描き出したいその世界の多彩さ、複雑さは、後者のほうが果てしなく広く大きいものだった。
それは『閃光少女』の構想期間が極めて長いことによる。それこそデビュー前の投稿期間から、その断片的なシーンは存在していたかもしれない。

デビュー後、いくつかのシリーズを作り続けるなかにおいても、いつでも頭のなかには、この世界が一定のスペースを占めて存在し続けていた。次第に描きたいシーンやキャラクターは数を増し、とうとう頭のなかから溢れ出しそうになった。その想いを抱え切れず、アウトプットに踏み切った。『ココロ・ドリップ2』との並行執筆は控え目に言っても過酷だったが、書かずにはいられなかったのだ。

そこから改めて構想をまとめ上げ、作中年表を引き、プロットを組み上げ、目の前にある広大な世界を丁寧に掬いあげていった。

これまで発表してきた作品のなかでも、その世界を成り立たせる構成要素や概念は極めて多く、その影響で登場人物の数も多い。当然、全てが文庫1冊に収まり切るような分量ではなかったので、彼らの物語の第一歩、という形を取らざるを得なかった。

ヒロインのアイリは初め、もう少しソフトな印象だった。しかし編集氏と協議の結果、ある種の”気高さ”をきちんと感じられるような存在にしたい、という想いがあり、さじ加減を考え抜いた。彼女のバックグラウンドは想像以上に複雑で、それをどう感じさせるか、どう表現するか、最後まで悩んだ。

ストーリー展開も難航した。1冊のなかにおける起承転結のバランス、クライマックスの位置と内容がなかなか上手くまとまらず、あるときには編集氏と喫茶店が閉店するまで粘り、閉店したあとは近所のファミレスに移動して打ち合わせを続けた。このときは脳が溶けてプリンになるかと思うほど、疲れ果てた。打ち合わせが終わったときには意識が朦朧としており、そのまま路上で倒れて寝てしまいたいと思った。

主人公たちを取り巻くキャラクター勢では、ケイマとマキが飛び抜けてお気に入りである。どちらも少々クセがあるが、書いていて気持ちが良かった。彼らがしっかりと自分の人生を生きているので、それを描き出す私がそれほどの苦労を感じなかったのだと思う。
もちろん、主人公たちを導く立場の破戒僧やユカリさんにも愛着がある。叶うならば彼らのストーリーも、もっと描きたかった。

イラストレーターのちーこ様には、作者的に愛着のあるキャラクターたちを、ひとり残らず、とびきりキュートに描いて頂いた。キャラデザが上がってきたとき、みんな可愛くて、生き生きとしていて、誇張ではなく狂喜乱舞した。魅力的な口絵もたくさん描いて頂き、実際に本になったときの喜びは非常に大きかった。こんなにも「早く本屋に並んで欲しい」「早く読んでもらいたい」と思った作品は、初めてだった。

1年ほど後のことになるが、ちーこ様は、社会現象にもなった大ヒット作である『君の名は。』の角川つばさ文庫版で、文中イラストを担当されている。
同書を小学生の娘に買ったとき、本を開いてそのイラストを一目見て、
「これって、お父ちゃんの本のイラスト描いてくれた人だよね。すごい!」
と驚いていた。
別に私はなにをしたわけでもないが、なぜか誇らしく、嬉しかった。

『閃光少女』は、作者の思い入れは極めて強い作品だったが、残念ながら売れ行きは伸び悩んだ。原因は、私の力不足以外のなにものでもない。
描きたい世界があまりに複雑で大きすぎて、それを1冊に上手くまとめるということ、そのなかで読者様が楽しめるようなドラマ、心地よいストーリーを構築するという最も大切で、最も困難なミッションに対して、自身の力が及ばなかったのだ。

様々な意味において、作者にとって忘れがたい1冊となった作品である。

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