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ぼくの全てを知っているのにぼくを好んでくれる友だちは、いつも鼻をほじっている。

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「友だちってのはね、年齢を重ねたら自然と切っていった方がいい存在だと私は思うけどね。」

そう自分に酔いしれながらぼやいた彼女は、ぼくのはじめてのバイト先のベテランの先輩スタッフだった。

何故か、そう言っていた場面を今でも鮮明に覚えいて、果たしてそうなのだろうかとふとした時に考える時が未だにある。
気づけば、ぼくも当時の彼女と同じ年齢になった。
彼女ともう会うことなんて2度とないだろうけれど、かつてお世話になった他人としてはどこかで幸せになっていたらいいなと2%くらいは思う。

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最近、意外とぼくは友達が多い方なのかもしれないとニヤついている。

それでも、"一生"というパワー修飾語がつくと誰なんだろうなとたまに考える。

今後の人生において何があっても絶対に一生関係が途切れないであろう友達がいると断定できる人は、とても幸せな類の人間だと思うし。

ぼくには有難いことに確実にこいつはそうだと言い切れる奴が、1人いる。

其奴は、
「俺、あんまり男前じゃないもんね。なんでなんやろーな。なんでと思う?」

初めて2人で飲みに行った時に唐突にこんな質問をしてきた男だ。
随分面白いことを言う奴だなぁというのがぼくが其奴に抱いた最初の印象で、タッパもあるし洋服が似合う体型だとは思うよと無難に返答した記憶がある。本当は内心、コメディみたいな顔してるなと思っていたのはここだけの秘密だ。
自分で自分のことをこともなげに暗にブサイクだと言い放った男にぼくは初めて会ったのだ。
今となっては、「お前はお前の一族で一番ブサイクだな」としょっちゅう伝えているのだけれど。
すると、なぜか其奴は嬉しそうな反応をする。

ところで、ぼくは最近引越しをした。
引越しの初日に、狙ったかのように其奴は新居に泊まりに来た。
満員電車の洗礼を受けて疲れ切った様子で改札から出てきたので、お前は東京が似合わないなと声をかけるとなんだか嬉しそうにニタニタする其奴。
東京に来たことはほとんどなかったらしく、疲れたよーと、鼻をほじりながらニタニタしながら飲み屋を探しに歩いていった。
こんなに堂々と鼻をほじりながら歩く男を、ぼくは其奴以外に知らない。

【友達になれるかどうかに性格の良し悪しは関係ない。】

其奴のことを仮にUとする。
出会った年月としては、まだ数年だ。
けれど、ぼくらは本当に尋常じゃないスピードで仲良くなった。

要因に、共通文脈の多さがあったと思う。
ぼくらは、高い服が好き猫が好きで家族から受け継いだものが大きく尋常じゃないくらい口が悪くて人への期待値が異常に高く、そして自分はこのままでは終われないという野心と同時に自分の力の無さへの絶望を身に余るほど抱えていた。そして、2人とも「コロスぞ」というのが口癖だった。

距離感が近い人間は話し方も似通ってくるものらしく、周囲の人間からはお前らは喋り方がソックリだなと言われることが多々ある。
ぼくはスポーツ観戦に全く興味がないのだけれど、Uはサッカーが大好きで日本のそれぞれのチームの歴史を面白可笑しく物語として語ってくれたので、ぼくも一部のチームに関してはやたらと詳しくなった。

人がかつて熱中したものについての偏愛を語る姿というのはとてもチャーミングであるというのは、そんなUを見て気づいた事だった。Uはずっとサッカー選手になりたかったらしい。

Uは芸能人に例えると、島田紳助さんにそっくりだ。
目立つのが大好きで頭の回転が早く、場を掌握する芸当は達人級だ。
口から飛び出す内容は事実の5割り増しくらいに加工してあるし、中々に平気で嘘をつく。
先日も「俺、言ってることほぼ嘘やもんね〜。」と悪びれもせずに、しれっと鼻をほじりながら言っていた。

ぼくらは家族ぐるみでも仲が良い。
ぼくはUの母を"若作りおばけ"と呼び、Uはふくよかなぼくの家族のことを"養豚場"と呼ぶ程度には仲良くしている。

御察しの通り、彼は決して性格がいいと言われる人種ではない。
喋り出したら二言目には「金」というワードが出し、調子のいいことばかり言うけど何か事が起きるとビックリするくらい役に立たなかったりする。
そういったことをUに伝えると「なんでそんなこと言うねん。友達やんか。」とニヤニヤしながら開き直る。
将来は島を買いたいらしくその為のプランを着々と練っていて、実際に同世代の2倍はすでに軽く稼いでいるから大したもの。小学校のころのあだ名はヒトラーだったらしい。

ぼく自身もここまで書いていて、なんでこんな輩と友達なんだろうなぁと甚だ不思議だ。

ただ、彼はぼくという人間をたぶんぼく以上に理解している人間だいうのは間違いないのだ。

ぼくには、ぼくの言葉で相手がどのような態度をとるかを見て人を測る癖というかもはや病気があるのだけれど、Uには他のだれよりぼくの言ってることが正確に伝わっているという確信がある。

そして、Uは決してぼくを変えてこようとしたことがない。
正論も、社会に蔓延する当たり前も、個人的な価値観や成功体験も、ルールや規範も倫理も全て無視して、
ぼくがどういう経緯でそう思ったのかだけに興味を持ち、無意識にぼくが蓋をしていたものを掬い取ってくれる。

ぼく自身も物事を極端に考えがちなところがあるので、その極端さで人を傷つけてきたことが多かった。少し年齢を重ねた今は、あまり人に対して本音というものを明かさず、ただ本音風に考えを伝える技術が上手になった。

だから、時々苦しくなるのだ。

そんな時に相談するのがUだったりする。
最近こんなこと考えるんだよねーと話した時に、それがとても偏っていたりする時には「それ、あんまり人には言わん方がいいと思うぜ。」と爆笑しながら否定じゃなくて、アドバイスをくれたりもする。

性格のいい人間だらけの世界を創り直そうとした時に、Uは真っ先に淘汰されちゃう人種だと思う。
それでもぼくは恐らく彼の味方でいることをやめないだろうなと思うのは、Uに救われてきたという感謝がただあるから。
友だちでいるということに、性格の良し悪しさは関係ないんだなというのはUとの関係性で気づいたことだ。

お前らが仲良いのは同じ穴のムジナだからだろと思った鋭いあなたは、ちょっと静かにしておいて欲しい。

【友人がかつて友人だった人に変わるとき。】

社会に出てそれなりに時間が経って気づいたことは、友だちというのはとても流動的な状態のことを指しているということ。

ぼくらは決して越えられはしない時間の壁の向こう側を未来と呼び、絶対に引いたり戻したりはできない壁をぼくらは毎日精一杯押している。
それがすなわち今を生きるということであり、ぼくらが選べるのは壁の押し方と押す方向だけ。

友だちになる最初のきっかけに、その押し方が似ているか押し方は違っても方向性が似ているかというどちらかに共通項があったかどうかが大きいと思う。

それでも、いつしか人というのは変わるもので、ずっと永遠に変わらない関係性というのもない。
出会った頃の状態のままでなんてものは有り得ないし、友だちであり続けるにはその変化に対しての関心と敬意を払うことが必要不可欠だ。
流動性を認識し、違いを受け入れていかなければ友だちという関係を保つのは難しい。

みんながみんな、自分の生きてきた過程を正解にしたがるのが人の性だ。そして、近しい人間にそれを押し付けてしまいがちなのもまた人の性かなと思う。
正解なんてものはたとえ半径6,371km探してもどこにも落ちていなくて、いつか誰かが万能の神さまみたいに「あなたにはこれが正解ですよ^^」と微笑みかけてくれるわけでもないから求めてしまう。

例えば、子どもを持った人が、子供がいない人に「絶対に子供作った方がいいよー!」というのは罪だ。
自分の中の正解を強固にしたいがために、それを人に押し付ける人間は断罪されるべきだと思うけど、そうでもしないと拭えない不安があるという部分にだけは共感する。友だちくらいには自分を無邪気に押し付けても受け入れてもらえるだろうと、普段甘えられない環境にいる人は特にそう考えちゃうのも分からなくはない。

だから、長らく会っていなかった友だちに、久々に会う時は緊張する。

「あ、この人とはもう分かり合えないな。」という思いが過ってしまうかもしれないから。
久々に会った目の前にいる人が、"友だち"から"かつて友だちだった人"に自分の中で塗り替えられる瞬間が来てしまうのが怖いなぁと思う。

【ぼくを理解してくれた友だちが、ぼくを創造し強くもしてくれた。】


友人とは、あなたについてすべてのことを知っていて、 それにもかかわらずあなたを好んでいる人のことである。

とは、イリノイ州のアメリカの思想家の言葉だ。

昔、お前はぼくをどんな人間だと思っているんだと聞いたら、
「巨乳の人がいたとして、みんなが谷間見てるのにお前は鼻の穴をじっと見てるって感じ。それが面白いんだけどね。」
と、Uは鼻をほじりながら言った。
人と中々会話が噛み合わずに、苛々していた当時のぼくを的確に表していたと思うし、なんだか心を軽くしてもらった言葉でもあった。
他者の持つズレを理解し、それを個性として面白がってくれる人間はごく稀だ。
だからこそ、そういう人に出会えた人は幸せな類の人間だと思うのだ。それが継続していける関係ならば特に。

青臭く語り合った時期や大切にしたいものの方向性の違いから衝突した時期を経て、ぼくらも少しだけ大人になった・・・・・・・

ような気がする。

「東京に出てから、お前は少しつまらんくなったな。」
と、先日随分頭髪が薄くなったUに言われた。

そうかなと言うと、

「う〜ん。傷つけないように言葉を選んだり、そもそも言わないってことを頑張ってるような気がしてさー。いい意味でいろんなバランスを取れるようにはなったんだろうけど。それって、本来のお前ではないよなぁ。だから、お前のことを"人の話を聞くのが上手"とか"バランスがいい"とか"いい奴"とか"クール"とか言う奴はイラっとするわ。どんだけ表面的な部分しか見てへんのじゃって思う。」
と、なんだかキレ気味に言いだしたので笑ってしまった。

そして、
「お前が1人になりたい時ように、俺が島を買ったら別荘つくっちゃーけん。そこ好きに使ってもらって構わんよ〜。金稼ぐよ〜。」
と、鼻をほじりながらトイレに向かった。

有難いなと思いつつ、その手で家の壁を触るなよ、新築だから。あと、立ちションすんなよと言うと、またニタニタしていた。


とりあえず、彼が買った島に爆弾をブチ込めるくらいにはぼくも稼げるようにならなければならない。


愛情は、爆発だ。

この御恩は100万回生まれ変わっても忘れません。たぶん。