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「パートナーシップという聖域に踏み込むこと」 システムコーチ森川有理さんへのインタビュー

このyadorigiの第二弾のインタビューを始める一時間前は昼食を取っていた。
平らげたお皿を下げられたタイミングで友人にこの後の予定を聞かれ、インタビューをするんだと言った。
どんな人をインタビューするんだと前のめりに聞かれたので、素直に森川有理さんの印象を伝えると「お前がそこまで人を褒めるって珍しいな」との返答。

確かにそうかもしれない。

「あの人の悪口を言う人はいない」という風に形容される人って一体全体この世のどこにいるのだろうと永らく疑問であったが、ゆりさんと初めて会った時にこの人はそうかも!と幻のポケモンを見つけたような気分になったのを思い出した。


前置きはこの辺にして。


森川有理さん。
CTIジャパンのリーダーとして、コーアクティブ・コーチングの普及に尽力。
2008年に世界初ORSCCの認定を受けて株式会社CRRジャパンを立ち上げて以降、夫婦の関係性を支援するコーチングやチーム・組織の関係性を結ぶワークショップなど多角的なアプローチで活躍している。

インタビューをお願いした際には「私なんかでいいのかしら」と茶目っ気たっぷりに了承してくれた。
彼女はとてもパワフルな人であるのに可愛らしささえ感じるのは、滲み出る謙虚さとユーモアの成せる技だろうか。
今回のインタビューではようやく彼女の多面的な魅力の源泉を知ることができた。

「社会人になって最初に勤めたのは三和総合研究所です。入る前は凄く固いイメージがあったんだけど、中に入ってみると強烈に面白い人たちの集まりだったの。みんな独特の世界観を持っていて、すっごく個人主義!それが、楽しかったんですね。当時はもちろん納得いかないこともあったけれど、とても感謝している会社です。健全なカオスを体験したって感じで。ロマンチシズムとリアリズムの両立という社是も気に入っていて、"間に立つ"というのを学んだのはこの時です」

結果的には12年もいたのと言って、ふふと彼女は目尻を綻ばせた。

「ある二人の人生の先輩に出会ったのが会社を飛び出したきっかけになりました。
一人目は男女雇用機会均等法を獲得してきたバリバリ世代の会社の先輩で。途上国のプロジェクトという全く未知の体験をさせてくれて無我夢中で仕事にのめり込みました。
仕事の合間に銀座でお寿司を食べながら『人に奢ってもらうより自分で稼いで食べる方が美味しいのよ』って言う彼女の凛々しさにはとっても憧れたりもしていて。笑
他にも『プロになりなさい。男性社会の文脈の中でも自分らしく立ちなさい』って言われたのはとてもよく覚えているなあ」

めちゃくちゃ男前な上司である。かっこいい。
"何のプロになるか"という問いを胸に進んだプロジェクトが転機になる。

「当時三和総研の理事長だった中谷巖さんとの出会いも大きかった。多摩大学の改革プロジェクトをご一緒させていただいた時に、本当に社会って変えていけるんだなって感じたんです。
プロジェクトの最中にグローバルリーダーを育てるには何が必要かという命題でアメリカへ調査をしに行く機会をもらったの。ハーバード・ビジネススクールやジェネラルエレクトリック社の教育機関であるクロトンビルでインタビューした人たちのなんとほぼ全員に『リーダーシップをエンパワーするにはコーチングだよ。だから君もコーチングをやるべきだ!』って言われたんです。
そこからホテルに戻ってすぐにコーチングスクールに申し込みました。本格的に独立を志向したのはそこからかもしれないわ」

今でこそコーチングは当たり前のようにビジネス界に浸透しているが、当時の彼女の決断はなかなか賛同を得られるものではなかったそうだ。

「でも唯一、一人だけ『自分が価値があるというものは信じて。最後まで続けなさい』と言ってくれた人がいて。その言葉がずっと自分を突き動かす原動力になっていました」

その後、彼女は関係性を扱うシステムコーチングをベースに人の可能性を最大化させるための様々な試みを続けている。
yadorigiの着想を最初に話したのは前回インタビューをさせてもらった由佐さんだ。
その際に「パートナーシップに焦点を当てるなら、この人!」と紹介してくれたのがゆりさんだった。
なぜパートナーシップという領域に踏み込んだのかというぼくの質問に、ゆりさんは彼女自身のパートナーシップの後悔を明かしてくれた。

「夫との関係性の中で学んだことが大きいです。
私はコーチングという仕事が大好きで、それを通じて社会の中で自分の価値を創るために邁進していました。その道のりで色んなサポートを家族からもらっていたのに、家族の想いを汲み取れない時間が長かったんです
私の中にあったのは”戦いを挑む”みたいな癖。自分が正しいと思うことの範囲外にいる人たちに無関心であったり見下したりすることによって境界線を作って、自分の正しさを再認識するというような行為を無意識にやってました。自負といえば聞こえはいいけれど、自分に酔っていた側面も少なからずあったのは事実です。
そして、私はそれを家庭にも持ち込んでいたんですね。
転機になったのは、夫に『このまま一緒にいる自信がない。あなたにとって自分は何?』と聞かれてハッとしたこと。彼が耐えていたことや寂しさを募らせてしまったことにようやく気づけた瞬間でした。
そこから夫との関係性を見直していき、カップルコーチングも夫婦で受け始めたんです。
コーチとの時間で何が出てくるのかは毎回怖くて仕方がなかったけれど、夫の中にあったものも深く知ることができました。
その時に、彼の辛抱強さや愛情の深さをすごいって思って。うまく伝わるか分からないけれど、彼に目を向けてその奥にあるものをはじめて視れた気がして、彼の大きさに気がついた。もっと彼のことを知りたいって気持ちが湧いてきたんです。結婚して15年も経っていたのに。変でしょう。笑」

ほとんどのパートナシップは他責で終わるように思うが、ゆりさんの言葉から感じられたのは他責とは真逆のものだった。

だから、彼女が見出したパートナーシップをもっと聞いてみたかった。

「誰かと一緒になって家族をつくるというのは当たり前のように言われるけれど、実はとても難しくて尊いこと。
ただならぬご縁があるから一緒になるのだと思います。
私は基本的にパートナシップというのは、関係性を通じて自分自身を深く理解してお互いの幸せをつくるために力を合わせる場だと捉えています。

二人で一緒にいることが社会にインパクトを与えるシンボルのような存在になっているご夫婦もいますし、似た痛みを持つ二人が一緒になることで自分たちの代で重荷を解消するというミッションがあるんだろうなと感じる方々もいました。

コーチをしていると愛の哀しさを目にすることも多いです。
互いのために良かれと思ってやることが、受け取られないことは頻繁にあります。
愛情の認識の仕方や渡し方は人によって驚くほど異なります。例えるなら、かけている眼鏡が違っていてお互いの存在が見えなくなってしまっているようなイメージです。
メガネの違いを認識しないままだとすれ違いが増えて、悲しみや対立を生みます。
例えば、家族の経済的豊かさを守るために仕事に身を捧げるのが愛だと思っていても、それが本当にパートナーの望んでいる愛情表現とは限りませんよね。
二人の間に立って、どうしてそれが愛だと思うのかを深く聴いていくと家系を通して癒されなかったルーツや植え付いている思い込みに辿り着きます。
そういったものを解き明かしていくことで、張り詰めた関係性がやわらかくなったりもします。
”二人で幸せをつくる”でも”別れてやり直す”でも最終的に出る結論は本当に何でもいいんです。
大切なのは、本来の意図に立ち戻って互いの存在を理解するという土台をしっかりつくること。

二人の未来をつくるお手伝いという中庸さを大切に、私は間に立たせてもらっています」

“間に立つ”という言葉はゆりさんの芯からくるキーワードなのだと思う。
コーチングを受ける側の声を耳にすることはあるが、コーチ自身の姿勢や感覚を聞ける機会はそう多くはない。ましてや、パートナーシップという領域に踏み込んだ人は特に。
彼女はコーチとしてどのような感覚で二人の間に立っているのだろうか。


パートナーシップって聖域でもあり恥部。最も柔らかくて繊細な、刺されたら致命傷になりかねない急所です。
だけど、それを誰かに晒さざるを得ないくらい痛みを抱えているか、もっと関係性を豊かにしていきたいという強い願いがあるからコーチングを受けに来てくださります。
関係性の中から幸せの糸口を見つけるには、まず二人の中にあるものを全部だしてもらうのが不可欠です。だから、不平や不満は恐れずにギャンギャン言ってもらってOK。笑

面白いのは、どちらかに肩入れしたくなる私自身を感じる時です。
『浮気をやめてくれなくて悲しい』と聞いた時は、やめてあげてよ!と言いたくなります。笑
人間だから自分が揺らぎそうになることも当然ある。大切なのは、そういう自分に気づいていき否定して抑え込まないこと。だから時には、どちらかに合意したくなる自分がいると二人に正直に伝えます。

解決してあげようといった自我に囚われず、それに気づいた状態で二人の間で聴かせてもらう感じ。

“間に立つ”というのはそんな感覚でしょうか」


さいごに。
実はこのインタビューがはじまる前にとゆりさんが明かしてくれた不安があった。
過去に受けた取材で”キャリアに邁進しているという女性”という切り取られ方が強すぎて"キャリアに邁進している女性と伝統的な家族の対立”というレッテルとも取れる記事が世に出たとのこと。
そんなことあってはならぬと、ぼくは気も神経も引き締めたのだ。
しかしながら、どこをどう切り取ってもゆりさんからは家族への敬愛と尊重しか感じられず心配は杞憂に終わった。
豊かなパートナーシップへと歩んでいる二人の間には、互いを織りなす強いつながりが見える。たとえ同じ空間にいなくても。
困難を越えてしなやかな強さをもった関係性には眩しささえ感じた。
今回のインタビュー中は、ゆりさん達二人だからこそつくれたやさしい空間に少しだけ入れてもらえた気がしたのだった。

お邪魔しました。


※yadorigiでは2月からパートナーシップを探求する講座を開設します。ご興味のある方はこちらからお問い合わせください。

この御恩は100万回生まれ変わっても忘れません。たぶん。