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サーモンランという沼

きみはサーモンランというゲームを知っているか。スプラトゥーン2というゲーム内のミニゲーム(ミニ?)である。

スプラトゥーン自体は、イカまたはタコがオンラインの4人対4人で、さまざまなルールでインクを塗りあい戦うゲームである。

そしてサーモンラン、これはスプラトゥーン2から始まったミニゲームなのだが、要するに対人でなくCPUのシャケをインクで倒し、オオモノシャケと呼ばれるボスを倒したときに落ちる金のイクラを指定個数集めて納品するゲームなのである。

このゲーム、とてもつらい。

つらいのになぜやってしまうのか?ほとんど通常のゲームをせず、サーモンランだけをする者もいる。ほとんどの者が「つらい」という。なのにやめない。中毒患者のようである。なぜなんだろうか?

サーモンランOJT

はじめてサーモンランをするとき、おしゃれな街のはずれにある怪しげな小屋に向かう。明らかに異質。街中のショップではイケてる店員がオシャレなギアを売っているのに、ここはなんなのだ。しかもなんと、店長?っぽいのは木彫りのクマである。

クマさんの仕事は人手不足らしく、どんなイカちゃんタコちゃんでもウェルカムである。早速参加させてもらうと、OJTがはじまる。いきなり金イクラを集めろだの、やられて浮き輪になった仲間は助けろだの指示を出し、何種類かのオオモノシャケの倒し方を説明だけする。オオモノシャケなど難しくて倒しきれないとき、まぁ次はがんばれ…とショートカットされてしまう。漂うブラック臭。

はじめてのサーモンラン

そしてはじめてのサーモンランだ。いくら対人戦でキルをキメまくるあのイカでも、ヤグラに乗ったら絶対降りないあのタコでも、サーモンランとなると話が違う。

開始直後、いったいどうすればいいのかわからないイカたちは、とりあえず跳んだりナイス!と言い合ったりしてお互いの存在を認識する。え〜、よくわかんないけど…この4人が仲間なのかなあ?

ブオオ〜〜…という法螺貝の音と共に現れるオオモノシャケに一目散に向っていく。出遅れた。3人の背を見ながら床を塗りつつ追いかける。ところがどっこい、海から現れたのは一匹のヘビというオオモノシャケで、あっという間に絡め取られる3人。立派な浮き輪が3つである。

ヘルプ〜ヘルプ〜の大合唱の中、君は焦って助けに行く。ザコシャケが立ちふさがり、足元の緑のインクがねばねばと君を阻む。どうしたらいいんだ!?考える間もなくバチュン!「ドスコイにやられた!」Work's Over!!!

バイト終了である。

練習あるのみ

何が悪かったんだろう?だんだんとバイトを重ねていくうちにわかってくる。

まずなにより床を塗らねばならない。床がシャケ色に染まっているのはイコール浮き輪である。

それから、「コジャケにやられた!」が続くと、オオモノシャケだけ倒していればよいというわけではない、ということにやっと気づく。積極的に雑魚を蹴散らすようになってくる。

だんだんと、オオモノシャケがどのようにターゲットを変えてくるかがわかる。このオオモノに狙われているなら後回しでいいや、と思えるようになる。

金イクラが足りなくてWork's Over!!になってしまうと悔しい。4人全員生きていたのに。金イクラは落ちていたのに。ああ、もしかして、カゴから遠いところでオオモノを倒していたんではないか?金イクラを守るあまり、遠くで倒してそのまま味方が来るまでカモン!カモン!と連呼していたのではないだろうか。

評価が上がる

ここらへんで、だいたい評価が上がってくる。かけだしバイトだったのがはんにんまえに、いちにんまえに…。だんだんとノルマも上がってくるが、カモン!ナイス!ヘルプ!の応酬で立ち回りがわかってくる。1Waveが3回、たったの300秒の戦い。知らないイカタコとの共闘なのに、300秒たったあとではもう親友である。

グリルの「デーーーーーデッ デーーーーーデッ デッデッ…」という開始音を聞いて戦慄したり、干潮でカゴの位置が干潟に移動していたり、突然ヒカリバエがまとわりついて雑魚に圧倒されたときもあった。幾度とない困難を乗り越え、ついにたつじんになったのだ。

プロバイターになる

たつじん400が、平バイターとプロバイターの境目である。評価値400以上はいくら上げても次回開催時には400に戻ってしまうからだ。400をキープしている人は基本的に「上手い」インクリングたちだ。

彼らは波の引く音だけで干潮を察知しカモンをするし、テッパン・モグラはわざわざターゲットをとってカゴ近くで倒す。タワーが湧く気配がしたら一目散に倒しにいくし、カタパッドは片翼にしておく。ヘビは余裕の徒歩キルだし、バクダンはチャージャーに任せるという判断ができる。

バイトがつらい

評価値はどんどん上がっていく。600を超えたあたりからだろうか。突然画面に現れるデーーーーーンッ「キケン度MAX」

突然の出来事に驚きを隠せない。開始時の金イクラノルマは21個である。いったいどうすれば!?とりあえず床を塗る。この頃になると、壁や段差も細かく塗るようになる。もはやオオモノシャケが出現するのを待つのみである。

法螺貝の音と共に現れるザコシャケ。んっ?多くないですか?守られるようにオオモノシャケが出現する。コウモリは3体も現れアメフラシの弾をひたすら撃ちまくる。あんな遠くにタワー。しかも3体も。ようやく倒したと思いきや、カゴの近くにバクダンが。地獄絵図である。出現速度が速すぎる。

ほうほうの体でWave1を終わらせるが、スーパージャンプで戻ってきた初期位置はアメフラシでボツボツと汚れているし、仲間は2人も浮き輪で初動が遅れる。

なんの準備もできないままWave2がはじまる。あれほどカゴに寄せれば余裕っしょ、と思われたテッパンに追われ、シャケインクのために段差が超えられずにあえなく潰されて浮き輪に。

バクダンを避けたところにヘビ。モグラの軌跡に邪魔をされ、壁登りに手間取っているところにカタパッド。あと数秒でクリアというところで2体のタワーに十字に狙われる。あと1つでクリアなのに、カゴ前に引きつけたのがラグモグラ。Switch本体がカクつく。画面内の情報の多さに処理落ちしている。Work's Over!!! Work's Over!!! Work's Over!!!

そしてバイトリーダーへ

何度めかのキケン度MAXを乗り越え、君はバイトリーダーになっている。もうどのブキがきてもどのスペシャルがきても使いこなせている。

スコープつきのチャージャー、苦手なんだよねえ…と言いながらバクダンを射抜いたり、ダイナモ苦手だあ〜と言いながら金ピロする。普段使わないブキなのに、インク効率や射程距離が分かる。画面の汚れ具合から自身の体力がわかる。わかるんじゃない、頭で理解しているわけじゃない。オオモノを倒すのに確殺数何発、だなんて考えていない。すべて感じているのだ。

シャケの波動を感じている。音だけで仲間の状態を把握できる。君がつけたオオモノを倒す優先順位は正しい。計算しているのはあと何個で納品数が足りるかということだけである。

バイトリーダー、偉大なバイトリーダー。評価値はおいくつですか?780?

…そう、此処から先は、沼だよ…

バイト沼へ

来る日も来る日もバイトに明け暮れる。ギアを揃えてもブキを揃えてもお金が有り余る。報酬のガチャポンは99。もらいそこねた報酬があれど、全く惜しくない。だってまたもらえるもの…。

毎日開催されるバイトの日時を確かめる。今日は9時からか。だんだんと日常をバイトが侵食してくる。バイトのために日常を回すようになってくるのだ。

そして評価値を上げたいと必死になる。上げたからって何になるわけでもない。ただただ評価を上げたい。このブキの編成で、未知なる野良メンバーで、よく見知ったフレンドで、オオモノを狩りたい。このあたりから、ギアのスロットクリーニング2万円のためにはじめたバイトだったのに、バイト自体が目的になってくる。

負けるとつらいし、勝ってもつらい。300秒集中しなくてはならないし、タイミングはシビアだし、フォローしてくれた仲間にありがとうとごめんの混ざった気持ちで、本当につらい。通話しながらフレンドとバイトしても、ひとつもおもしろい話ができない。「あ〜やられたっ」「こっちにオオモノでてます!」「ナイスです!」

つらく苦しいバイトなのに、間髪いれず次のバイトを開始してしまう。やめたいのだ。頭ではやめたいと思っている。もう夜中の1時を回ってる、これで終わりにしないといけないのに。頭では理解しているのに、脳の回路は完全にサーモンラン用に組み替えられ、シャケをしばいたときのアドレナリンを欲しているのだ。

もはや中毒である。

バイトリーダーの我々は、一体どうしたらいいのだろう?あたりを見回しても、もうバイトの沼にどっぷり浸かったイカタコしかいないのだ。ヘルプが届かない。沼の縁からヘビの操縦席のシャケが睨みつけてくる。もはや浮き輪になってバイトの沼を漂うしかないのであった…。

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