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北朝鮮元工作員X氏が暴露~工作員の武器と資質

●北朝鮮工作員が隠し持つ「毒銃器」とは。

●極秘の訓練内容「高速で走る列車の上から射撃訓練」

●ハンサムな男は工作員になれない。


朝鮮人民軍偵察総局とは

 北朝鮮情勢の緊迫は今なお続いている。朝鮮人民軍創建85周年を迎えた当日、北朝鮮は日本海側の元山で過去最大規模の砲撃訓練を行った。現場には金正恩党委員長も立ち会ったという。これは米海軍の原子力潜水艦「ミシガン」が釜山港入りし、原子力空母カールビンソンが近く朝鮮半島周辺に到着することを意識したものだろう。

 金正恩委員長の派手な軍事パフォーマンスの裏で、蠢くのが特殊訓練を受けた工作員たちである。彼らは日本人に成り済まして、私たちの近くに潜伏している。いざ米国への報復攻撃となれば、彼らが本国からの指令で破壊活動をする可能性もある。

 北朝鮮工作員の総本山、「朝鮮人民軍偵察総局」は6つの局からなるといわれる。1局(作戦局)は工作員の養成を担当、2局(偵察局)は韓国への工作員派遣、3局(海外情報局)は国外での諜報活動と破壊工作、5局(会談調整局)で韓国との会談を工作、6局(技術局)はサイバーテロ、これに加えてすべての局を補佐する7局(支援局)がある。日本が警戒すべきは3局ということになろう。

工作員が持つ毒銃

 工作員の生態を知るため、私は韓国で身柄を拘束された元工作員X氏にソウルで会った。年齢は四十台半ば、身長は172,3センチ。黒縁眼鏡で、スーツを着ており、ビジネスマンのように見えた。

 北朝鮮工作員の戦闘能力はどの程度のものなのだろうか。元工作員X氏はまず彼らの装備品を教えてくれた。

「私が韓国に浸透するときには、消音機付きの拳銃、手榴弾、毒銃器を持っていました。この毒銃器はパーカーの万年筆の形をしていました。その中に毒が塗られた弾丸が一発だけ入っていて、2~3メートルの至近距離から発射して命中すれば、相手は毒が回って死にます。万年筆の後ろの部分をまわして、ボタンを押すと発射される仕組みでした」

 2001年、九州南西海沖で北朝鮮の工作船が海上保安庁に発見され、銃撃戦の末、沈没した事件があった。このときに工作員らが所持していた武器は以下のようなものだった。

 5.45ミリ自動小銃(4丁)、7.62ミリ軽機関銃(2丁)、14.5ミリ2連装機銃(1丁)、 ロケットランチャー(2丁)、82ミリ無反動砲(1丁)、携行型地対空ミサイル(2丁)。工作員たちは戦争並みの重武装で日本近海にいて、躊躇いもなく攻撃したのである。

 X氏によると、潜入する工作員らが常に肌身離さず持っていたのは毒薬のアンプルだったという。

 「自殺用の毒薬です。ボールペンの中にアンプルを隠して、敵に捕まりそうになったら、噛んで自殺します。大韓航空機爆破の金賢姫が煙草に隠したアンプルを噛んで死のうとしましたが、失敗しました」

 まさに哀しき工作員の必需品だ。

 死者も出る極秘訓練

 前号でも書いたように、偵察総局の工作員は高級中学校を卒業した17歳以上の若者から選抜される。選抜の条件をX氏はこう語る。

 「もっとも大事なのは頭脳と肉体です。両方兼ね備えてないと工作員にはなれません。次に出身成分、その次が容貌です。背が高すぎても、低すぎてもいけない。顔が不細工で嫌悪感を与えるようではダメですし、ハンサムすぎてもいけない。要するに平凡な見た目であることが必要です」

 工作員候補生は「招待所」と呼ばれる訓練施設で、指導者の爆弾となるための忠誠教育を受け、金日成政治軍事大学に入る。語学はもちろんのことながら、肉体鍛錬のレベルは想像を絶するものばかりだ。

 私がインタビューした元工作員X氏は「思い出したくないほど辛かった」と語る。

 「最初は水泳訓練です。いきなり貯水池を8キロ泳げと。あとは30キロの荷物を担いで毎夕40キロ走り続ける逃走訓練をする。寒いときは苦痛でした」

 幾人もの元工作員を取材した結果、訓練には以下のようなものがあった。

① 班ごとに交替で60キロ泳ぐ遠泳訓練。

② 集団で魚雷を引っ張って泳いで目標物を爆破する訓練、

③ 高速で走る列車の上を走りながら射撃をする訓練

④ ひとりで15人の敵と戦って勝つ訓練を一日3時間

⑤ 浸透前には射撃訓練を3000回以上。

 途中で脱落するものだけでなく、死亡する訓練生も多いという。工作員はこうした肉体

鍛錬を潜り抜けた後、対象国に「浸透」するのだ。

 話している途中、X氏はズボンをまくって脚を私に見せた。そのふくらはぎは筋肉が隆々と盛り上がっており、常人のものとはかけ離れたものだった。

「訓練はしんどかったけど、工作員という職業はやりがいがありました。私にはこの仕事が合っていたのだと思います。でも、私は工作員になりたくてなったわけではありません。労働党から重要な業務をやるようにといわれて、それを受け入れただけです。そもそも北では個人の希望で選定することなんてできないのですから」

 「北朝鮮暴発のXデー」と呼ばれた4月25日が無事終わった途端、「マスコミが危機を煽り過ぎだ」との論評が急激に盛り上がっている。しかし、北の工作員が跋扈し、その動向を把握できないこの国の危機は続いているのではないのか。

                                                                了