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日中の諜報戦、かくして日本は敗北した。

●中国で拘束された親中派のS氏「精神的に参っている」

●日本政府から「協力者リスト」が漏洩か

●米国政府機関に中国の「モグラ(二重スパイ)」が潜入。FBIや国務省にもいた。


<還らぬ日本人>

日中青年交流協会理事長だったS氏が中国で身柄を拘束されてから十ヶ月が経つ。去年七月、中国滞在中に消息不明になり、今年2月に国家安全危害の疑いで正式に逮捕されていた。つまりスパイの疑いをかけられたのだ。先月、日本外務省からS氏の関係者に「体は元気だが、精神的には参っている」との状況報告があったという。

S氏は村山元総理と親しく、「村山談話を継承し発展させる会」の訪中団とともに行動していた。中国の共青団(中国共産主義青年団)や中連部との関係が深い、いわゆる親中派で、私も在日中国大使館のパーティーなどで顔を合わせたことがある。

「日中友好7団体や親中派議員はお手上げ状態出、動く様子はない。在中国日本大使館の領事部が定期的に面会に行くのを見守っているだけの状況だ」(日中友好団体幹部)

中国で拘束されているのは日本人だけではない。在日華僑にも捜査の手は及んでいる。ある地方都市の華僑団体の幹部は、去年11月に拘束され、3月にようやく解放されて日本に戻ってきた。

「中国で拘束された人たちは『十年間拘束されることを覚悟しろ』、『日本に戻ったとしても公安調査庁、警察、内閣情報調査室と接触するな』と脅されている。釈放されて日本に戻ってきても、何もしゃべらないから、まるで真相が分からない」(公安警察官)


<拘束は氷山の一角>

報道では「2015年以降、中国当局に拘束されたのは日本人の男女五人」とされている。だが、もっと早くから不穏な兆候は出始めていた。

「北京空港に到着した直後に身柄を拘束され、身包み剥がされて捜索された者もいる。『朱建栄事件』がきっかけだ」(公安警察官)

「朱建栄事件」とは、2013年7月、日本在住の中国人研究者・朱建栄教授が、出身地の上海で中国当局に身柄を拘束された事件だ。中国政治が専門である朱教授には外務省や公安調査庁が知識や情報を乞うていたため、中国側は「スパイ活動をしている」と見なしたのだ。拘束は半年にわたって続いた。
日本から中国に行った者が、次々と拘束され始めたのは、この「朱建栄事件」以降のことだというのだ。

しかも、「五人」という数も氷山の一角で、「桁が違う」と日本政府関係者は証言する。

「表に出ているのはほんの一部。私が聞いただけでも二十人以上が中国でスパイの疑いをかけられて身柄を拘束されている。しかも顔ぶれを見ると、公安調査庁と関係がある人が多い。狙い撃ちされたとしか思えない」

公安調査庁というのは法務省傘下の情報機関で、自ら「業務内容はスパイ」と公言するほど、対外諜報活動に力を入れている。彼らは協力者を諜報対象国にスパイとして送り込む、「ヒューミント(人的諜報)」を得意とする。この公安調査庁が送り込んだ協力者たちが中国当局に狙い撃ちされたとなれば、事態は深刻だ。

この指摘に対して、公安調査庁の調査官はこう語る。

「確かに我々に協力的な人が次々と身柄を拘束されています。でも、協力者とはいってもレベルは様々。ほとんどは中国共産党人事や軍事に関する解説をお願いしたりするレベルで、『中国に行ったらお土産話を聞かせてください』という付き合い。我々が任務のために中国に送り込んだのは一部だけです。内調、警察、外務省も我々と同じ人物を情報源にしている。公安庁だけが標的になったのではなく、日本政府の情報活動そのものが監視対象になっているのではないでしょうか」

<日本にモグラがいるのか>

彼らを拘束したのは、主に「中国国家安全部」という諜報機関だ。米国では「MSS」と呼ばれ、FBIは対敵防諜活動の最重点対象と位置づけている。このスパイ組織が、日本が送り込む協力者を次々と摘発しているというのだ。

「一度拘束された協力者は、中国情報機関に今後の協力を『誓約』させられている可能性がある。ダブル(二重スパイ)として戻されている可能性があるので、日本政府は協力者としては使えない。中国側は我々の関心事項を把握しようとしている。これは国家安全部と日本政府の潰し合い、まさに諜報戦争です」(公安警察官)

ここで重大な疑問が浮上する。なぜ、拘束された人達は、日本の協力者であることを中国側に知られてしまったのだろうか。実はここ数年、恐るべきシナリオが囁かれている。

「日本側の協力者リストが国家安全部に漏れているのではないか。日本の情報機関のどこかにモグラがもぐりこんでいるとしか思えない」

ある警視庁公安部の捜査員はこう主張している。

「モグラ」とは政府内に潜り込んだ外国のスパイを指す世界共通言語だ。公安調査庁調査二部、警察庁警備局、内閣情報調査室国際部、外務省国際情報統括官組織といった日本の情報機関のどこかに中国国家安全部の「モグラ」が潜んでいて、厳重管理されている協力者リストを流している可能性があるというのだ。中でも公安調査庁に疑いの目が向けられている。

協力者リスト漏洩疑惑はここ三年ほどの間、囁かれ続けているのだが、「犯人」が特定されたという情報はない。

最近、日中友好団体のある幹部は中国出張を取りやめたという。

「中国政府の友人から『北京に来たら拘束される可能性がある』と忠告された。警察や公安庁に知り合いは沢山いるから、私の名前が挙がっているのでしょう。これでは日中友好なんて進まない。早くこの問題を終わりにして欲しいですよ」

中国国家安全部が送り込んだ「モグラ」にアメリカも辛酸を舐めている。標的になったのはFBI連邦捜査局だ。
FBIは、在米中国人の女性実業家カトリーナ・レアンを、中国共産党指導部に直結する協力者として運用していた。しかし、このレアンが国家安全部のエージェントだったことが発覚したのだ。
レアンは担当のFBI捜査官を篭絡して愛人となり、自宅に連れ込んで鞄からFBIの機密情報を得ていたのだ。FBIは二重スパイであることに気づかずに、巨額の協力者謝礼をレアンに支払い続けていた。FBIは真相に気付き、元捜査官とレアンを逮捕した。
また、去年3月には、FBIに勤務する技術者が中国の諜報員に情報を漏らしていたことが発覚、逮捕した。捜査官の出張計画や組織図、監視技術に関する書類を写真に撮って渡していた。
標的はFBIだけではない。今年3月には、米国務省の女性職員が逮捕された。中国情報機関の要員から、「年二万ドル」ともされる報酬を受け取って、機密文書を渡していたとされる。この職員は北京や上海の米大使館での勤務経験があった。
逮捕された者たちは、トップレベルのセキュリティクリアランス(機密取り扱い許可)を持っており、機密文書へのアクセスができる立場だったという。
「FBIは囮捜査や盗聴を駆使して中国スパイを摘発している。日本は中国国家安全部の活動実態をほとんど解明できていない。あらゆる政府機関にモグラが送りこまれ、野放し状態になっているのだろう。協力者リストの漏洩が事実なら致命的打撃だ」(公安警察官)
FBIは、FISA・外国諜報監視法に基づき、盗聴や盗撮、秘密裏の捜索などを駆使して、証拠を集め、中国のモグラたちを摘発している。
一方、日本のインテリジェンス体制は脆弱だ。米国のようにスパイを監視する法整備もされていなし、スパイ行為を罰する法律もない。情報機関はばらばらで、せっかく獲得した情報も有効に生かせていない。それどころか、誰が協力者なのかという情報すら漏れている。
「情報源の秘匿」はインテリジェンスの揺るがぬ根幹である。それすら守れぬ国家に協力する者は、いなくなるだろう。                                了