CIAで異常事態発生~中国女スパイのハニートラップに篭絡された男(上)

(1) CIAの協力者が中国で次々殺害。諜報戦でアメリカは敗北
(2) 疑惑のCIA要員はアジアでビジネスをしている。
(3) 凄腕女スパイの「ハニートラップ」にかかったFBI捜査官

CIAは中国に敗北していた
 米中の諜報戦は、中国の勝利といえるのかもしれない。米CIA(中央情報局)が獲得、運用していた協力者が、中国当局によって殺害、投獄されていたことがニューヨークタイムズの報道で分かったのだ。殺害されたのは2010年から二年間に少なくとも12人、拘束されたものを含めると18人から20人に及び、中には警告のために同僚の前で射殺された者もいたという。CIAの対中国諜報網は壊滅的な打撃を受けたといっていいだろう。
 最大の謎は、「中国がどうやってCIAの情報源を特定したのか」である。ここで二つの仮説が浮上する。ひとつがCIAのネットワークシステムのハッキング説、もうひとつはCIA内部に中国のMole(モグラ)つまり、二重スパイがいるという説だ。
 実際、この問題を調査したCIAは、ある要員に照準を絞ったが、この要員はCIAを辞めて国外に出てしまった。現在、アジアの某国で、中国の情報機関関係者がアレンジしたと見られるビジネスをしているという。しかし、この元要員が本当に中国の二重スパイだったかどうかの証拠はつかめていない。

中国スパイの手口
 中国の諜報機関が米国政府内にモグラを獲得していた例はいくつもある。中でも、FBI捜査官を篭絡した「現代のマタ・ハリ」の諜報手法は見事と言うほかはない。私は中その「犠牲者」をロサンゼルスで取材したことがある。
その男は妻と笑顔で話しながら出てきた。ポロシャツにショートパンツ、片手に黄色いテニスボールを持ったこの男の名はジェームス・J・スミス、FBI捜査官だった人物である。スミスは二〇〇三年四月、中国系アメリカ人の女性実業家カトリーナ・レアンに機密資料を渡していたとしてFBIの同僚に逮捕された。私が取材したのは保釈中のことだ。

 スミスはFBIロサンゼルス支局防諜部中国班に所属するベテラン捜査官で、その任務は中国内部の情報を探る協力者を獲得することだった。そこで目をつけたのが、ロサンゼルスに住む、中国系社会の有力者、レアンだった。スミスの接近を受けたレアンは、FBIの協力者になることに同意して、中国マネーが米大統領選挙の裏でどう動いたのかなど、貴重な情報をスミスにもたらした。レアンは中国共産党中枢に深く食い込んでいた。江沢民国家主席が訪米した際の晩餐会では、壇上で江主席に寄り添い、親しさを隠さなかった。レアンがもたらす情報は超一級のものだと判断したFBIは、合計二億円もの報酬をレアンに支払っていた。
 FBIはレアンに「パーラーメイド(お手伝いさん)」というコードネームをつけていた。なんとも見下したネーミングの裏には、何でも言うことを聞く便利な存在だったことが伺える。ところが、お手伝いさんは中国のスパイだった。それもハニートラップを駆使する腕利きの諜報員だったのだ。

*続き(下)は25日午後公開します。

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竹内明

TBS記者・モノ書き。著作は『スリーパー 浸透工作員』『秘匿捜査~警視庁スパイハンターの344日』『時効捜査~警察庁長官狙撃事件の深層』『背乗り~警視庁公安部外事二課』『マルトク・特別協力者』(いずれも講談社)など。ノンフィクションから小説まで分野を問わず書きます。

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