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②麻原彰晃は「詐病」なのか?~23年前、取り調べ室での言葉

(前号までの記事)死刑囚が心神喪失状態にあるときには、刑の執行を停止しなければならない。これは刑事訴訟法に書かれた規定だ。松本死刑囚はいまどんな精神状態にあるのか。次女と三女は2008年まで、変わり果てた父との面会を重ねたが会話はまるで成立しなかったという。松本姉妹はこの十年、面会を求めるが、拘置所から「本人が応じない」ことを理由に断られ続けている。200回以上拘置所に通ってきた姉妹は「父を見せて欲しい」と訴える。ブラックボックスに入ってしまった松本死刑囚。法務省は松本死刑囚の精神状態についてどう見ているのだろうか。

■根強い”詐病説”

法務省は松本死刑囚が心神喪失状態にあるとの見方に否定的だ。

関係者によると、独房にいる松本死刑囚は常にオムツを着用。

風呂では介助がないと頭などを洗えない。

ところが食事になると・・・

自分で全部食べる。

そして運動の時間には自分で歩いて移動するのだという。

法務検察関係者の間では、松本死刑囚の「詐病」、病気のふりを疑う声は根強い。

95年当時の東京地検の捜査資料を紐解くと、すべての凶悪事件の指揮官と位置づけられた松本死刑囚は三人のベテラン検事が取調べを担当した。

ある検事が証拠を突きつけたときのことだ。松本死刑囚がこう呟いたという。

「証拠で争っても仕方がない。もう私が助かる方法はひとつしかありませんよね」

取り調べ検事は上司にこう報告した。

「松本死刑囚は今後の裁判で死刑を免れるために病気のふりをする」

当時の検察幹部はこう証言する。

「病気のふりを続けるのは、取調べのときの発言から分かっていた。いまは多少の拘禁反応はあるかもしれないが、受刑能力を否定するものではないし、執行に問題はないとおもう。粛々と死刑を執行すべきだと思う」(当時の検察幹部)

別の法務検察関係者は・・・・

「罪の公平性の観点からも、麻原の執行をやらずに、手下をやるわけにはいかない」(法務検察関係者)

法務検察の多くの関係者が「執行には問題はない」という立場だ。


真相を知りたい

松本死刑囚の娘、宇未さん(次女)、麗華さん(三女)姉妹は東京近郊にある元信者宅の一室を間借りして暮らしている。どんな生活なのか。これは姉妹が撮影した映像だ。

宇未さんが撮影中、麗華さんがカップを取り出した。

麗華)これって何年前のか覚えてる?

宇未)もう二十三年くらいまえのかな。

麗華)第二サティアンのときにもらった・・・・

宇未)そんな気がしないでもない。

麗華)最後の生き残りだ。

姉妹はいま、母親とは音信不通。アレフとは対立している。

麗華さんは、進学しようとするたびに事件を理由に入学拒否にあい、ようやく入った大学で心理学を学んだ。事件を理由に何度も職を追われ、現在は心理カウンセラーなどで生計を立てる。

手元には教団創成期の写真も残っていた。

麗華)若い頃のお父さんだね。

宇未)思い出すと悲しくなっちゃう。

髭を剃った松本死刑囚の写真も持っていた。

麗華)若い頃だね~この頃から義眼だった?かもね。そんな話くらい教えて
くれてもよかったのに。

最近、姉妹は「麻原彰晃の娘」と名乗ってツイッターをはじめた。

宇未)なぜツイッターはじめたの?
麗華)ツイッターが一番本当のやりとりができることかな。ツイッターだとリアクションが来るから。

ツイッター上で、憎しみをぶつけられ、謝罪を求められることも。加害者の子供への社会の風当たりは厳しい。

宇未さんはこう語る。

「私たちは父への憎しみを叫ばなければ、人間として認めてもらえないと思っていたことがあります。私自身に責任あること、何かをしてしまったことを謝罪するとは思うけど、子供として生まれてしまったことを理由に謝罪をしろという風に言われても、なぜしなければいけないのか思ってしまうことはあります。私たちも両親を失って、妹や弟の入学拒否を目の当たりにして、「子供たちにサリンを飲ませろ」とか、「ウジ虫」とか「死ね」とか言われて生きてきて、そのうえで謝罪を要求されるのが何故なのか分からないと思ってしまいました」

机の脇には法律書。死刑について定めた刑事訴訟法の本だ。松本姉妹はいま、裁判資料を読み、元信者らから、当時の話を聞いているという。

父の治療をして、真実を証言させるべきだと主張する。その真意を聞いた。

私)裁判は確定しているが、死刑を回避したいという気持ちがあるのですか?

麗華)家族ですから生きていて欲しいという気持ちはあるのですが、事件に関与しているのなら、(死刑判決は)覆らない。死刑を回避したいという思いで治療を求めていると言うよりも真相を知りたい、父は生きていますし。

私)お父さん口から聞きたいと言うこと?

麗華)父の側から聞きたいのです。オウム真理教は絶対的な教祖がいて、あとは洗脳されていただけという見方があります。だとすると、絶対的権力者の父
が、何を見ていたのか、何を思っていたのか、そもそもなぜオウムを作ったのか、何をしたかったのか、何も分からなかったので聞きたい。

                          (③に続く)