悪名高き白人至上主義者と会ってみた(前編)~トランプ大統領就任から一年のアメリカ

トランプ大統領就任から一年、アメリカがおかしなことになっている。堂々と人種差別を公言する白人至上主義者たちが跋扈しているのだ。どうやら彼らは異人種排除のための理論武装をして、支持を広げているらしい。彼らの論理はどんなものなのか。アメリカのとある田舎町に、悪名高いネオナチの若者を訪ねた。差別される側の日本人の記者として・・・・。

遅刻してきた男

その男と待ち合わせたのは、インディアナ州ジャスパーという町の小さなホテルだった。窓の向こうは、野生動物でも出てきそうな広大な草原だ。(下の写真は窓から見た景色)

ケンタッキー州ルイビルからレンタカーを3時間飛ばし、このホテルにチェックインしたのは午前一時だった。しかし、なぜか居心地が悪い。朝食を取るために食堂に降りたら、違和感の原因に気づいた。白人しかいないのである。ウエイトレスも、掃除の男性も、料理人も、皿洗いも、客も、全員白人である。アジア人は私たち取材クルー三人だけだ。
私が人種というものを意識したのは、訳がある。これから会うのが、白人至上主義を唱えるネオナチの指導者だからだ。

約束の午前10時。カメラをセットして、ネオナチの男を待っていた。30分、1時間と過ぎてゆくが、男は姿を現さない。携帯に電話をしても出ない。
まさかのすっぽかしか?
このとき私はふと思った。

「そうか。白人至上主義者だから、アジア人を差別しているのだな?」

被害者意識がピークに差し掛かった頃、その男は姿を現した。

マシュー・ハインバック。ネオナチ政党「伝統主義労働者党」の議長である。年齢は26歳のはずだが、ヒゲを蓄え、恰幅がいい。

(上の写真。インタビュー中のハインバック氏。シャツの胸のエンブレムは、政党のロゴらしい)

握手を交わし、私は開口一番こういった。

「1時間以上の遅刻ではないか。何があったんだい?」

インタビューは心理戦だ。相手に舐められれば、通り一遍の答えしか返ってこない。喧嘩腰のやり取りから本音が出ることもある。
ところが、そのハインバックは思わぬ反応を見せた。

「ごめんなさい。私には妻と息子が二人いるのですが、子供達が朝から体調が悪くて病院に連れて行っていたのです。日本人は時間厳守だと聞いていたので、気になっていたんです。本当に申し訳ない」

ハインバックは両手を合わせて頭を下げたのである。日本流の謝罪だ。私はかつてNYに4年駐在したことがあるが、こんな謝り方をするアメリカ人は見たことがなかった。眉尻を下げ、心からの謝罪の意を示している。

「あなたは白人至上主義だろう?日本人と会いたくないからこないのかと思ったよ」

私が言うと、ハインバックは慌てて両手を振る。

「とんでもない。私の妻は日本に一年留学していて、いま学校で子供達に日本語も教えている。差別意識で遅れたわけではありません」

人種差別主義者、ネオナチ、白人至上主義者と呼ばれる者たちは、アジアからやってきた異人種に掴みかからんばかりに、口汚く罵るのかと思っていた。それは私の思い込みであった。ハインバックの姿勢に攻撃性を感じ取ることはできないのだ。

■Shit Hole論争

トランプ大統領就任から一年、アメリカは、大統領自身の人種差別問題という前代未聞の事態に揺れている。
1月11日、ホワイトハウスで行われた移民政策を巡る上院議員との協議の場で
トランプ大統領がアフリカ系などの移民についてこう言ったというのだ。

「そんなクソ溜め(Shit Hole)のような国の連中を、なぜ受け入れるのだ」

この発言が暴露されると、世界中で批判が噴出した。
やはり、トランプはレイシスト(人種差別主義者)だったのだ・・・・。世界の疑念が確信に変わった出来事だった。

■白人至上主義に走ったワケ

ハインバック氏は黒人人権団体が最も問題視するWhite Supremacist(白人至上主義者)の一人で、その愛嬌のある顔立ちと丸い体型から「過激なテディベア」と呼ばれる。
メリーランド州の歴史の教師の息子として育った。大学は地元のトウソン大学。父の背中を追って歴史を学んだ。白人至上主義活動を始めたのはこのときだ。
大学の教授はこう語る。

「4年前の彼は問題のある学生でした。当初、とても礼儀正しく、楽天的な青年に見えました。でも一年もすると、まったく逆であることが分かりました。彼は大学内の人たちを、宗教や人種を理由に攻撃し始めたのです」

ハインバックは白人学生組合を結成。黒人による犯罪撲滅と称してパトロールを始めたのだ。

「大学にはアラブ学生組合、ベトナム学生組合、黒人学生組合など様々な人種の団体がありました。でも白人の団体はなかった。大学がある(メリーランド州)ボルティモアは白人が多数派ではなくて、他人種から白人への敵意を感じた。私は白人が自分たちの人権を守るために『声』を持つことが重要だと考えたのです。私は父と同じ歴史の教師を目指していたのですが、いまの活動を選びました」(ハインバック)

これが白人至上主義者としての活動の根源だ。ハインバックは政党「伝統主義労働者党」を結成。歴史教師ではなく、政治家を目指しているという。ハインバックは自己紹介するとき、必ずこういう。

「私はナショナリスト(国家主義者)です。国を愛しています。国民、文化、言語を愛しています」

彼の政党の会員には数千人が名を連ね、平均年齢は22歳。彼が唱える思想は白人の若者に響いているのだ。(下の写真はハインバック氏の政党のビラ「難民はいらない・私たちのコミュニティを安全に」と書かれている)

■大統領選でトランプ支持

白人至上主義思想は米国建国以来の宿痾のようなものだ。公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング牧師が築き上げた差別撤廃の精神は、平等の理念を引き継いだ人々の努力によって、効力を維持し続けた。

先人たちの努力を選挙のためにぶちこわしたのがドナルド・トランプだった。職にあぶれ、貧しい白人の被害者意識、権利意識を刺激し、不満の根源を移民に向けたのである。不満は異人種への怒りに変化し、侮蔑すべき存在として、長らく地下に潜っていた白人至上主義者たちが、陽の当たる地上に這い出てきて、再び声をあげ始めたのである。

ハインバックもトランプ大統領の政策に共鳴し、選挙では熱烈に支持した一人である。

ハインバックの姿が全国ネットのテレビニュースで報じられたのは2016年3月のことだ。ケンタッキー州で行われたトランプ氏の集会で、ハインバックが、反トランプ派の黒人女性を怒鳴りつけ、執拗に突き飛ばす様子が撮影されていたのだ。これでハインバックは「黒人女性に暴力を振るう凶暴な白人至上主義者」として悪名が轟くことになった。

「黒人への憎しみ?まったく感じていません。あの女性は会場で騒ぎ立てててトランプ氏の演説を邪魔していた。トランプ氏も『彼らを追い出せ』と繰り返していた。国際法上、意見が対立する相手の集会を中止に追い込むことは許されない。スピーチの自由はアメリカの憲法でも保障されています。だから私は会場の出口に連れ出そうとしたのです」(ハインバック氏)

ハインバックは「あの事件」について、にこやかに釈明する。

トランプ氏が大統領に就任して一年。ハインバック氏はトランプ大統領をどう見ているのか聞いた。

「トランプ氏の国家主義を高揚させるメッセージが好きだった。アメリカの帝国主義を抑え、アメリカの利益を最優先にした外交政策を評価したのです。でも、トランプは体制側に入ったとたん、すべての公約を破りました。北朝鮮との戦争に突き進み、シリアに関与し、メキシコ国境の壁も作らない。移民への恩赦すら検討している。トランプは我々支持基盤から手厳しい反発を受けます。そして再び国家主義者としての立場に戻ってくるはずです」

ハインバック氏の言葉にはトランプ大統領への落胆と期待が入り交じっていた。

*インタビューの後編は数日内に公開します

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竹内明

現場から、 ~TBS NEWS~

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コメント1件

やはり、差別問題では無く権利闘争ですね。日本に海外の差別問題の標準を持ち込むと、いずれ同じ権利闘争が発生してしまう。実にバカバカしい。
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