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【前輪駆動リカンベント】CRUZBIKE V20を買って乗れるようになるまでのお話(前編)

去る2020年1月25日。我が家に新しい自転車が迎えられました。
数ある自転車の中でも異形の自転車『リカンベント』、そのリカンベントの中でもさらに異端なMBB(Moving Bottom Bracket)という駆動機構を採用したリカンベントを売り出す米国メーカーCRUZBIKE製のVENDETTA V20というモデルです。
先週になってやっとまともに乗りこなせるようになったので、ここまでに至る経緯を綴っておきます。
これから買うつもりの方はひとつご参考までに、買う予定がない方は暇つぶし程度にご覧ください。

記事が長くなるので三分割します。前編は納車までです。中編は練習して乗れるようになるまで。後編はマシンの仕様やカスタムについてです。


◆前日譚 -購入を決めるまで-

~幼少期~

私にはリカンベントに強い憧れがありました。
それは昨日今日のことではありません。それは幼少期まで遡ります。
私の育った家庭は毎年夏になると北軽井沢へ避暑に行くのが恒例でした。そこではパターゴルフをしたり、ペットボトルロケットを飛ばしたり、昆虫採集をしたり、父自慢の大きな望遠鏡で天体観測をしたり、花火をしたりといろいろな遊びをさせてもらいました。その中に、具体的な施設名は覚えていないのですが釣り堀やアーチェリー場などいろいろ併設したパークのようなところがあり、そこに周回コース内をレンタル自転車で走れる子供向けの施設がありました。
レンタル自転車はかなりの数があり時間内でなら乗り換え自由で、しかも足踏み式やら手漕ぎ式やらタンデムやら、変わり種のものばかりがあったと思います。その中で一番のお気に入りだったのがトライクタイプのリカンベントでした。それが空いていれば真っ先に飛び乗って、ずっと周回していたと思います。やがてこのレンタル自転車の施設は維持の問題だかで閉鎖されてしまいましたが、幼少期のこの特別な思い出が「いつかはリカンベント」という憧れとして燻り続けることになるのでした。

~2019年夏~

時は流れ私も大人になって独り立ちし、好きなように自転車を買い集めるようになりました。TTバイクのAMANDAに乗り、ロードバイクのOGREに乗り、AMANDAがクルマに追突されて廃車になったのを機に決戦用のEquilibriumを買い…というところでひとつ落ち着きをみせていましたが、AMANDAの喪失で平地番長が欲しい気持ちを引きずっていました。
そして2019年夏。PBPイヤーに沸いたこの夏、私のTwitterタイムラインには現地に飛んだ多くの知り合いが次々に流してくる現地実況の投稿で埋め尽くされました。そんな中で目に飛び込んできたのがスペシャルバイク勢のスタート風景。とんでもない数のリカンベントやタンデム、ベロモービルが群れを成して1200kmの旅に出ていきます。

これがきっかけで、幼少期から燻っていたリカンベントへの憧れが再燃しました。

リカンベントでブルベ。ああ、悪くないなぁ。
寝そべってるから股ズレなんて無いだろうし、腰も首も痛くならないだろうし、平坦なら無敵だろうし、もしかして飛び道具になるんじゃないだろうか?
まあそうならなくても面白いオモチャになるのは間違いないよね。

――と、まあそんな感じで真面目にリカンベントを物色し始めます。
いろいろとネットの海を泳いでいく中でとある記事を見つけました。
それがこちら。

これは大阪にある『HC  WORKS』さんというリカンベントをメインで取り扱っているすごいニッチなショップのブログの一記事で、CRUZBIKE S40というマシンを輪行できるようにした様子を紹介しています。
これがカルチャーショックで一気にCRUZBIKEというメーカーのリカンベントに興味が湧きました。
何がカルチャーショックだったかというと、リカンベントは輪行ができないものと思っていたからです。ロングライダーとしては応急処置不能のトラブルに直面しても自力で帰宅するという使命を全うするため、輪行の備えをすることは重要です。前後に長いフレームと、これを貫くほど長いチェーンをもつ基本的なスタイルのリカンベントでは輪行は酷。折り畳みタイプのリカンベントも存在しますが、それらは大抵コンフォートな用途を想定してあまり攻撃的なスタイルではなく惹かれないものでした。
しかしこのCURZBIKEはMBB(Moving Bottom Bracket)という、ダイヤモンドフレームの後ろ三角を切り取ってシートステーをヘッドにしてやったみたいなイメージの独特な前輪駆動方式を採用しています。

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こんな感じです(メーカーHPより画像引用)

ヘッドからフォークを抜いてしまえば、フォーク側の駆動部(駆動輪は装着したまま)・フレーム・シート・非駆動輪の4ピースでまとめられ、常識的な輪行サイズに収まります。マシン自体は折り畳みは前提としているわけではなく走りに重心を置いた設計なので、折り畳みリカンベントにありがちな微妙さは感じません。特にシート角が最も深い20°の『Vendetta V20』がハイレーサーながらもこれぞリカンベント!という風格で気に入りました。前後輪とも700Cでほとんどロードバイク用パーツという点も整備面で助かります。
気になる性能については、メーカーのホームページにVendetta V20でPBPやRAAMに参戦したカスタマーのレポートも掲載されており、とりあえずやってやれんことはないんだなということはわかります。

↑ RAAMのレポート記事

そんな感じでVendetta V20の購入計画が始動しました。

◆手に入れるまで

~2019年秋~

購入する決心はつきましたが、すぐにポーンと買えるわけではありません。お金の問題です。
自分の満足のいく仕様を考えた結果浮かんできた必要予算はちょっとビビる感じになってしまい、金策が必要です。とは言っても当てはあります。追突されて壊れてしまったAMANDAの示談金です。事故発生から1年半、いい加減決着してもいい頃合いなのですが、この時点でもまだ相手先からの金額の第一回答すら出て来てません。この金額次第でV20が買えるかどうかが決まるようなものです。しかし示談金については果報は寝て待つしかないので、別のことを始めます。

某日。大阪のショップ、HC WORKSさんにアポイントを取りました。目的はCRUZBIKEの試乗と見積の依頼です。
店舗にはさすがにV20は無いものの、試乗用としてCRUZBIKEのQ45というモデルが用意されていてMBBの走行感覚を体験することができます。ネットで見つけたユーザーのレビューを見ると、MBBの走行感はかなり独特で操縦に慣れるまで大変だという声が多く、これはちょっと確かめておかねばと思っていました。
当日になっていざショップに訪問。店内には店主の才之神さんとチワワが待っていました。簡単に挨拶を済ませて早速試乗です。コースは店舗正面の路地です。
試乗用のQ45はこれ。

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シートが起きているタイプなので初心者向き(?)なやつです。

それではいざ発進!!

はい。足つきしました。
記念すべきMBB最初のひと漕ぎはぜんぜん進みませんでした。いや、進めませんでした。なにこれこわい。
MBBはその名の通りBBがステアリングに連動して動く機構なわけですが、つまりペダリングによるトルクがステアリングにモーメントを生じさせてしまうので、右足を蹴りだせば舵は左へ、左足を蹴れば舵は右へと振られてしまいます。それに合わせて手でハンドルを抑えれば大丈夫だろうと理屈ではわかってはいましたが無理です。未知の感覚に本能がビビって進めません。
発進が無理だったので才之神さんにシートを押してもらってやり直します。
アシストで初速を得、ペダルを回してみます。ペダリングのトルク変動に引っ張られて右へ左へフラフラ……ひえ~とかふえぇとか言いながら必死にステアリングを抑え込み、蛇行しつつもゆっくり前進していきます。
路地の端まで行ったところでUターン……こわっ!停車!
ハンドルを深く切るとペダルに乗せている足も意図せず動いて怖い。寝そべった上半身はロードバイクのようなローリングによるバランスどりができないのでこれも怖い。才之神さんにどうすればいいのか聞くと「上体は起こしてペダルからは両足とも離して惰性で曲がるんですよ」と。言われたとおりにやってみると、なるほど、普通に旋回できる。
何度か足つきしながら店舗の前まで自力で戻り、大変だった1往復目終了。
正直これで本当に公道走れんのか?と真面目に思いました。クセが強すぎます。それでもしばらく路地を往復しているうちに若干ながら様になり、才之神さんから慣れは早いほうだとコメントをもらいました。

ついでに普通の後輪駆動タイプのリカンベントにも乗ってみますか?と提案してもらったので試乗させてもらいましたが、こちらは普通に乗れました。やっぱりCRUZBIKEは異色です。だからと言って、CRUZBIKEを買うという決心は揺らぎません。この時はV20にするか、それともツーリング寄りのS40にするかで悩み始めた程度です。
試乗の後はXシーム(着座位置からペダルまでの長さ)の計測をしてもらい、その後はパーツ持ち込みでの組立についての質問や見積もりのお願い、そして資金とパーツ集めがこれからなのでオーダーするのはまだ先になりますという話をして、その日はおいとましました。

見積はメールですぐに届きました。組立工賃が思ったほどではなかったので、とりあえず思い描いていた通りの仕様を目指してパーツを買い始めます。と言っても、この時点ではボーナスも示談金も入っていないため現金が心許なく、クランクとホイールは後回しです。
冬が近づいても示談金が全く音沙汰ないので、しびれを切らして冬ボーナスをあてに不足分は財形貯蓄を崩して用立てたりもしました。その直後ぐらいに遂に示談の動きが出て、いままでのアクションの薄さが嘘だったかのように示談金額が決まり、気がつけば12月の頭にはボーナスと示談金と崩した財形貯蓄金のトリプル収入が舞い込み小金持ちになりました(しかし別に収入が増えたわけではなく埋蔵金が顕現しただけである)。
さらにタイミングのいいことに、メーカーがV20の300ドルディスカウントセールを開始したとHC WORKSさんからメールで報せが舞い込みました!HCさんからモデルチェンジの前ぶれかもと念を押されましたが私には問題ありません。即発注し、米国からフレームセットの取り寄せを依頼しました。
フレームを発注してしまったのでパーツの手配を急がなければいけません。手元資金の憂いは消えたので残るクランクとホイールをポチります。

フレームの発注から8日後、ショップからフレーム到着の報が入りました。早い!早すぎる!私にとってのフレームは過去3本全てオーダーメイドで納期は年単位だったので、ほんの1週間ちょいはカルチャーショックにも程があります。
急いで組付け用のパーツを渡しに行きたいところでしたが、このとき私は仕事で埼玉に実質駐在状態だったので、週末に宅配を受け取るために上司に許可取って神戸へ帰り、パーツを回収します。

思わせぶりなツイートを残してます。Twitterではリカンベントを買うことはサプライズにしていたので。

そして埼玉に戻る道中に大阪のショップへ寄り道してパーツを預け、支払いを済ませます。パーツを預ける際に未来の相棒と初体面しました。

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圧倒的迫力のメインフレーム!持ってみると見た目よりは重くは感じない。重心がかなりフロント寄りなので、ヘッド周りの強度をかなり確保しているんでしょう。逆に駆動も操舵も無いリアはすごく軽いです。
用が済んだらその日はすぐ新大阪へ移動して新幹線に飛び乗り埼玉へ戻りました。

その後、ほどなくしてマシンは組みあがりましたが、私のほうの仕事がなかなか終わらず、埼玉の現場が終了しても間髪入れずに東京や沖縄に行かされてしまい、完成車の引き渡しを後ろ倒しにしてもらいました。初見の客にここまでいろいろ配慮してもらって恐縮でした。

~2020年1月25日~

CRUZBIKE V20が晴れて私の手に渡る日がやってまいりました。
ショップに到着すると新しい相棒がお待ちかね。さっそく少しだけお店の前で試走しました。前回試乗したQ45と比べてさらに寝そべる角度のシートは軽くビビりましたが、とりあえず前回の感覚は覚えていることは確認できました。
持ち帰り方法は輪行です。乗って帰るのは無理なので。MBBリカンベント初心者がいきなり国道2号線50kmは無謀です。分解方法のレクチャーも受けないといけないですし。
輪行のレクチャーを受けながら持参した輪行袋に収納します。

思わせぶりなツイートを残しています。
で、自宅まで護送。レクチャー内容を忘れないうちに組み立てます。
組みあがった最初の姿がこちら。

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注文したホイールがこの時点では未着なので遊んでるホイールを仮で履かせています。
Twitterでサプライズ大公開するならホイールも揃ってからにしたいのでこの日のことは内緒にします。

~2月8日~

待ちに待ったホイールが届きました!
待ちすぎて納車してからWiggleで注文したハンドル手元に来ちゃってますよ!早いぜ海外通販!

ホイールを履かせて完成形に。妄想が実現する感動の瞬間です。

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格好良い!!

これだよこれ!これが欲しかったんだよ!これが僕の所有物なんて夢のようだ…!久しぶりに動かしたα7Ⅱも生き生きとCMOSセンサに被写体を焼き付けてくれます。

Twitterにもお待ちかねのサプライズお披露目。

思った以上にフォロワーからウケたのでサプライズ大成功ですw

これにて前編の納車までの話は以上です。
次はこれを乗りこなせるようになるまでのエピソードを綴ります。

(2020/5/22更新)
中編の記事をアップしました。


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