安西
死のうと思ったのは十八歳の夏だった。どうしても自分の人生というものが立ち行かなくなって、さまざまな義務を放擲した挙句、私は最後の《逃亡》に手を染めようとしていた。これで楽になるのだ。これで自分の肉体はきれいさっぱり焼き払われ、自分の骨は海に撒かれて、後にはなにも残らない。驟雨が去った真夏の路上のように、むせ返るような匂いを少しばかり放射して、それで何もかもが終わり。
3. こんな話をしたら怨みを買うかもしれません。でもきわめて重要なことなのです。そう、あなたに言ったことはなかったけれど、横浜に引っこしてくる前のことです。その頃住んでいた町で、わたしはひとりの同級生を愛していました。そしてその同級生もまた、わたしのことを愛していると言いました。両想いだった。もちろん中学生の恋愛なんてものは、もう、ただのおままごとみたいなものですから、大抵は、夕暮れの木陰でぎこちなく抱き合ったり、くちづけをかわしたりするだけのものでした。もちろんその頃の
彼女は、ただ、自らの刹那的な快楽のために俺と交遊していたに過ぎなかった。だからそこには、俺と違って、少年少女なりの激情みたいなものは何もなかったはずだ。 彼女にはなにかを積み上げていくというような発想はなかった、というよりもむしろそれを忌避しているような節があった。彼女が自分にとって価値があると認めていたものは、建設されつつあるものを破壊しようとしたり、その瓦礫を徹底的に粉砕してしまおうという、更地の思想でしかなかったのかもしれない。 ともかく彼女から見れば、俺はただの
2. 校舎の裏手にその部室はあった。数年前までどこだかの部が使っていたらしいその部屋は、忘れられた病室のように今も残っている。周囲にはほとんど人気がない。時折、ランニングをする生徒が走り抜けるくらいのもので、まず教師が通りかかるような心配はなかった。つまり隠れてなにかをするには格好の場所だった。 梅雨が終わった。しばしの間忘れられていた暑さがまた戻っていた。 「今日も首を絞めてほしいの?」と彼女は俺に訊いた。 「ああ、昨日よりも強く、死ぬ一歩手前のところまでやってほしい
1. あなたのことが好きなのかどうか、それは今になってもよくわからないままです。そしてそれは、おそらくどれだけの時が経っても、永遠に解けない謎として、わたしのなかにわだかまっていくのだろうと思います。あなたはこれを見てびっくりするかもしれません。まさかこんな時代にこんな手紙が来るだなんて、夢にも思わないでしょうから。もしもあなたから急に手紙をもらったとしたら、わたしだってびっくりするでしょう。 ねえ、いつだったか、あのせまくて蒸し暑い部室の中で交わした、《夏につい