第3回『サテンの夏』



 彼女は、ただ、自らの刹那的な快楽のために俺と交遊していたに過ぎなかった。だからそこには、俺と違って、少年少女なりの激情みたいなものは何もなかったはずだ。
 彼女にはなにかを積み上げていくというような発想はなかった、というよりもむしろそれを忌避しているような節があった。彼女が自分にとって価値があると認めていたものは、建設されつつあるものを破壊しようとしたり、その瓦礫を徹底的に粉砕してしまおうという、更地の思想でしかなかったのかもしれない。
 ともかく彼女から見れば、俺はただの十五歳の少年に過ぎず、それ以上でもそれ以下でもなかった。俺は性懲りもなく彼女に焦がれていたが、それはもはや最初から成就のしようがないものだった。
「わたしにはよく分からないな。ああいうことをしてるって分かってるのに、そんな人を好きになるものかな」
「関係ないよ、そんなの」
「本当にそう?」
「ああ」
「わたしが言うのも変な話だけど、異常だよ、そんなの。多分それじゃあ幸せになれないと思う。わたしは他人を不幸に突き落としたくない。悪く思わないで。嫌いだとかそんなんじゃないの」
 俺はこの荒廃した部室で彼女と交わるたびに自分の抱える愛情を示したものだったが、いつも彼女はうっすらと苦笑いを浮かべて、それらの言葉をただそのまま受け流すのだった。
「じゃあどうして俺とこんなことを続ける?」とある時俺は言った。なぜなら俺との行為のあとで、彼女は一枚の硬貨すら受け取らなかったからだ。
「だって、それは、あなたがそう望んだから」と彼女は言った。そしてそれから、きまって苦々しい顔をした。


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