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それでも私は「逃げていい」と言いたい



人間は、時々、負の感情を抱えることがある。

そして仮に原因が取り除かれたとしても、その感情は衰えることなく、取り返しのつかない悲劇をもたらすことがある。

例えばうつ病。

仕事が原因でうつ病になった人は、その原因である職場から離れても、それが即座に回復するわけではない。

それどころか病状が悪化し、それこそ自殺に繋がってしまうという例も少なくない。



ところで、アメリカの小説家であるウィリアム・フォークナーに、『嫉妬』という最初期の短編小説がある。

アントーニオという男が、美青年のボーイに嫉妬をする話だ。アントーニオは、しばしば自分の妻に向かって、「あの美青年と何を話していたんだ!」とブチギレ。

アントーニオは、自分の醜いずんぐりした体型と、美青年のすらりとした体躯を比べて、激しい嫉妬に駆られる。青年を殺したいと何度も思うが、その勇気が出ない。

そこで彼はこの嫉妬から逃れるために、妻と一緒に別の土地へ引っ越し、第二の新婚生活を送ろうと考える。妻もそれに同意し、二人は出立することになる。

これで二度と例の美青年と顔を合わせることもなくなるというのに、出発間近、アントーニオはそのボーイを拳銃で殺してしまう。そういう筋書きだ。

この短編小説のキモは、「嫉妬の原因が去ったというのにもかかわらず、主人公は殺害を犯してしまった」ところだろう。

それほどまでに、感情というものは厄介な代物で、「あるからある」「ないからない」というような単純な存在ではない。もうそこに「ない」と思い込んでいた感情が、ある日突然、何かをきっかけにして現れてくることがある。



うつ病というのは、とても厄介なものだ。私自身がうつ病になっていたわけではないが、周囲で苦しむ人を何人も見てきた。

何年もかけて通院し、ようやく完治したと思っていた矢先、また症状が現れてくるということもまったく珍しくない。

また自分が「うつ状態」であることに気づかず、そのまま無理を続けてしまい、衝動的自殺に至るということもある。

私も心が折れてしまっていたことがあったが、無理をしてはまずいと思い、さっさと逃げてしまった

情けない話ではあるが、職場や、職場の人間の人生なんかよりも、どう考えても自分の人生のほうが大事だと思ったのだ。

日本には未だに自己犠牲の倫理がある。理不尽に耐え続けることを美徳とし、それを美談とし、また新たな世代にそれを強いる。


ペシミストと言われればそれまでだが、私は赤の他人なんてものを信用していないし、自分の身を守ってあげられるのは自分しかいないと思っている。

だからこそ、「逃げる」ということについて考えることはとても重要だ。

「逃げる」という言葉には、何だか悪いイメージがある。しかし「逃げる」ことを「よくないことだ」と思っているのは、実は人間だけなのだ

他の動物は基本的に「逃げ」つつ、勝負できそうなところで勝負して、どうにか命を繋いでいる。

ここまで高度な文明を築いてきた我々が、「逃げ」の作法を知らないとは、何とも皮肉な話である。



この「逃げ」の規範は、仕事においては、特に男性を強く縛り付けているように思える。一度逃げ出せば「弱虫」という烙印を押され、同性からも異性からも白い眼を投げられる。

確かに男女で比べてみれば、男性のほうが正社員の仕事につきやすく、出世もしやすい。しなしながらそれは、裏を返せば、それだけ強く「逃げ」の規範に縛られるということを意味する。

これは男性の仕事の話だが、女性にも、「家事」「育児」などを当てはめれば、同じような考え方ができる。

何だかジェンダー論に逸れてしまいそうなので、話を戻すとすると、「逃げていい」と言うのは簡単だが、それにともなう社会的デメリットが少なからず存在する、ということだ。

それでも私は、逃げたかったら、逃げるべきだと思っている。

その根拠は簡単なことで、逃げるべき時に素直に逃げ出したやつは生き残り、逃げるべき時に投げ出さなかったやつは生き残らなかった、という現実を見てきたからだ。

逃げるのは簡単ではない。プライドだって傷つくし、方々から馬鹿にされることもあるかもしれない。

しかし一番まずいのは、「逃げる」ことから逃げてしまうことなのではないか。



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今西 登(必ずフォロー返します)

晴耕雨読をモットーに、日々考えていることについて書きます。気楽な人生を送るためのエッセイを主に執筆。毎日0時に更新!お仕事のご依頼はこちらまでお願いいたします。nishin1414194@gmail.com

コメント2件

完全に同意です。

うつ病で長期療養に入ってから9カ月を過ぎましたが、未だにやる気が全く出ずに一日中布団の中で耐えるしかない時があります。

ぶっ倒れる前に仕事でミスをする自分に「昔は皆もっと仕事をやっても平気だった」的なこと言われましたが、それはその人がそうなだけであって、その影で脱落して消えていった人も多いんだと思います。

今の若い人はすぐに会社を辞めて根気がない的な言説がありますが、むしろ合わないと思ったらサッとやめるべきだと思います。

長文失礼しました。
はりぃ 様

コメントありがとうございます。そうですか、辛い日々を過ごされてますね。

「皆もっと仕事をやっても平気だった」ってのは本当に生存バイアスで、その裏には死屍累々と積み重なったものが…

そもそも「死ぬ気でやって死んでしまった人」は何も話せないわけですから、世の中には「死ぬ気でやっても死ななかった」人しか残っていないんですよね。その言葉を信じろと言われても…というところはあります。

若者は根気がないなんて言いますが、離職率なんてものは昔からほとんど変わらないわけで、メディアの印象操作が大きいなあと思うこの頃です。
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